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第5章 王立ルミナス学院 4年目
第46話 未来を支えるものとして
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春先。
窓の外ではチューリップが風に揺れ、石造りの壁に掲げられた学院の紋章が、陽光を受けて静かに輝いている。
円形の会議卓には、新年度から学院の運営を担う生徒会メンバーが揃っていた。
クラリスは、副会長として、資料を手に静かに座っている。
その隣には、会長であるレオニス。完璧な姿勢で、周囲を見渡していた。
「生徒会の最初の定例会を始める」
レオニスの声は、冷静でよく通る。
「ここから3年間は、我々が生徒会として、また王国の未来を支える者として、各自役割を果たしてもらう。以前共有してもらった活動内容を、改めて共有してほしい」
クラリスは、資料に目を落とした。
(制度の象徴としてではなく、学院を支える一人として――)
「訓練の強化が必要だ」
ゼノ・ヴァルハルトが短く言う。
「昨年度の演習事故のようなことを繰り返さないために、警備体制と訓練内容の見直しを進める」
「制度の運用面の見直しも検討したい」
カイ・アストレアが資料をめくりながら言葉を継ぐ。
「数字だけでなく、柔軟な運用が必要となるのではないかと考えている」
「制度の“顔”を作る場が欲しいわ」
ミレーユ・クローディアが涼しい笑みを浮かべながら言う。
「学院祭のような催し物を定期化して、制度の印象を良くする。クラリスさん、あなたの見せ場も作ってあげる」
「より実戦的な模擬戦を大規模でやろうぜ。制度の“強さ”を見せる場になる」
ルーク・ファルマスが腕を組みながら言う。
「俺の見せ場にもなる」
クラリスは、皆の言葉を聞きながら、静かに口を開いた。
「……私は、制度が人々にどう影響しているのかを、改めて実際に見て回りたいと思っています」
その言葉に、会議室の空気がわずかに変わった。
「制度の“顔”としてではなく、一人の人間として知りたい。もちろん政治学科の授業もあるので、休日に回ろうと思っています。でも……私は、やります」
ロジーナ・エルスが、記録用のノートを握りしめながら言った。
「クラリス様、私も記録係として同行したいです。現場の声を、正しく残したい」
「賛成だ」
カイが頷く。
「実際に見てみないと分からないことはある。数字だけでは見えないものがある」
ゼノは無言で頷いた。
「行きたいなら、俺は止めない」
レオニスは、一瞬だけ沈黙した。
そして、静かに言った。
「……君の行動が制度の信頼を損なわないことを願う」
窓の外では、春風がチューリップを優しく揺らしていた。
*
中庭には、春の柔らかな陽光が差し込み、チューリップが風に揺れていた。
石畳の道を歩く生徒たちの笑い声が、遠くから微かに聞こえてくる。
セレナ・ヴェルディアは、学院の隅にあるベンチに腰を下ろしていた。
制服の袖を指先で整えながら、視線は地面に落ちた花びらを追っていた。
(……春なのに、まだ寒い)
彼女の胸には、昨年度の演習で起きた“事故”の記憶が、まだ静かに残っていた。
ユリウスが自分を庇って重傷を負ったこと。
その場で起きた、あまりにも衝撃的な出来事。
そして――それ以来、周囲の視線が、少しずつ変わったこと。
(ユリウス様が怪我をしたのは、私のせいだって……考えている人が、いる)
誰も口には出さない。
けれど、ふとした瞬間に感じる距離感。
時々、周囲の空気が変わる。
自分だけが、そこにいてはいけないような気がしてしまう。
(姉様に……相談しようかな)
クラリスなら、きっと真剣に聞いてくれる。
ロジーナさんも、優しく寄り添ってくれるだろう。
でも――
(姉様たちは、生徒会で忙しい。あまり迷惑かけたくない)
セレナは、制服の裾をぎゅっと握りしめた。
そのときだった。
「ここにいたか」
静かな声が、背後から響いた。
振り返ると、そこには第一王子――レオニス・グランフェルドが立っていた。
春の光を受けて、白金の髪が柔らかく揺れている。
「レオニス様……」
セレナは、少し驚いたように立ち上がる。
「座っていいか?」
レオニスは、ベンチの隣に腰を下ろした。
セレナは、少しだけ戸惑いながらも頷いた。
「最近、元気がないと聞いた」
レオニスの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。
「……そんなこと、ないです」
セレナは、目を伏せながら答える。
「君は、去年の演習で我が弟に守られた。弟にとって君を守ったことは、誇りだろう。だが、同時に――君にとっては重荷になる」
レオニスは、遠くの空を見つめながら言った。
セレナは、拳を握りしめた。
「……私、ユリウス様が怪我をしたことで、周りから距離を置かれてる気がして……。でも、誰にも言えなくて……」
レオニスは、静かに頷いた。
「君が悪いわけではない。だが、君がその“重荷”を背負っていることは、理解している」
セレナは、目を見開いた。
「……レオニス様は、私のことを……?」
「君は、強い。だからこそ、誰かに頼ることも必要だ」
レオニスは、セレナの瞳をまっすぐに見つめた。
セレナは、少しだけ微笑んだ。
「ありがとうございます。……少しだけ、楽になりました」
「それでいい」
レオニスは、立ち上がりながら言った。
「また話そう」
セレナは、彼の背中を見送りながら、胸の奥に小さな温もりを感じていた。
(レオニス様……優しい人なのかもしれない)
*
セレナから離れたレオニスは、学院の回廊へと歩きながら、心の中で呟いた。
(少しずつ進めていくとしよう。セレナ・ヴェルディア――君は、計画の鍵になる)
そしてそのまま、春風に紛れるように静かに姿を消していった。
窓の外ではチューリップが風に揺れ、石造りの壁に掲げられた学院の紋章が、陽光を受けて静かに輝いている。
円形の会議卓には、新年度から学院の運営を担う生徒会メンバーが揃っていた。
クラリスは、副会長として、資料を手に静かに座っている。
その隣には、会長であるレオニス。完璧な姿勢で、周囲を見渡していた。
「生徒会の最初の定例会を始める」
レオニスの声は、冷静でよく通る。
「ここから3年間は、我々が生徒会として、また王国の未来を支える者として、各自役割を果たしてもらう。以前共有してもらった活動内容を、改めて共有してほしい」
クラリスは、資料に目を落とした。
(制度の象徴としてではなく、学院を支える一人として――)
「訓練の強化が必要だ」
ゼノ・ヴァルハルトが短く言う。
「昨年度の演習事故のようなことを繰り返さないために、警備体制と訓練内容の見直しを進める」
「制度の運用面の見直しも検討したい」
カイ・アストレアが資料をめくりながら言葉を継ぐ。
「数字だけでなく、柔軟な運用が必要となるのではないかと考えている」
「制度の“顔”を作る場が欲しいわ」
ミレーユ・クローディアが涼しい笑みを浮かべながら言う。
「学院祭のような催し物を定期化して、制度の印象を良くする。クラリスさん、あなたの見せ場も作ってあげる」
「より実戦的な模擬戦を大規模でやろうぜ。制度の“強さ”を見せる場になる」
ルーク・ファルマスが腕を組みながら言う。
「俺の見せ場にもなる」
クラリスは、皆の言葉を聞きながら、静かに口を開いた。
「……私は、制度が人々にどう影響しているのかを、改めて実際に見て回りたいと思っています」
その言葉に、会議室の空気がわずかに変わった。
「制度の“顔”としてではなく、一人の人間として知りたい。もちろん政治学科の授業もあるので、休日に回ろうと思っています。でも……私は、やります」
ロジーナ・エルスが、記録用のノートを握りしめながら言った。
「クラリス様、私も記録係として同行したいです。現場の声を、正しく残したい」
「賛成だ」
カイが頷く。
「実際に見てみないと分からないことはある。数字だけでは見えないものがある」
ゼノは無言で頷いた。
「行きたいなら、俺は止めない」
レオニスは、一瞬だけ沈黙した。
そして、静かに言った。
「……君の行動が制度の信頼を損なわないことを願う」
窓の外では、春風がチューリップを優しく揺らしていた。
*
中庭には、春の柔らかな陽光が差し込み、チューリップが風に揺れていた。
石畳の道を歩く生徒たちの笑い声が、遠くから微かに聞こえてくる。
セレナ・ヴェルディアは、学院の隅にあるベンチに腰を下ろしていた。
制服の袖を指先で整えながら、視線は地面に落ちた花びらを追っていた。
(……春なのに、まだ寒い)
彼女の胸には、昨年度の演習で起きた“事故”の記憶が、まだ静かに残っていた。
ユリウスが自分を庇って重傷を負ったこと。
その場で起きた、あまりにも衝撃的な出来事。
そして――それ以来、周囲の視線が、少しずつ変わったこと。
(ユリウス様が怪我をしたのは、私のせいだって……考えている人が、いる)
誰も口には出さない。
けれど、ふとした瞬間に感じる距離感。
時々、周囲の空気が変わる。
自分だけが、そこにいてはいけないような気がしてしまう。
(姉様に……相談しようかな)
クラリスなら、きっと真剣に聞いてくれる。
ロジーナさんも、優しく寄り添ってくれるだろう。
でも――
(姉様たちは、生徒会で忙しい。あまり迷惑かけたくない)
セレナは、制服の裾をぎゅっと握りしめた。
そのときだった。
「ここにいたか」
静かな声が、背後から響いた。
振り返ると、そこには第一王子――レオニス・グランフェルドが立っていた。
春の光を受けて、白金の髪が柔らかく揺れている。
「レオニス様……」
セレナは、少し驚いたように立ち上がる。
「座っていいか?」
レオニスは、ベンチの隣に腰を下ろした。
セレナは、少しだけ戸惑いながらも頷いた。
「最近、元気がないと聞いた」
レオニスの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。
「……そんなこと、ないです」
セレナは、目を伏せながら答える。
「君は、去年の演習で我が弟に守られた。弟にとって君を守ったことは、誇りだろう。だが、同時に――君にとっては重荷になる」
レオニスは、遠くの空を見つめながら言った。
セレナは、拳を握りしめた。
「……私、ユリウス様が怪我をしたことで、周りから距離を置かれてる気がして……。でも、誰にも言えなくて……」
レオニスは、静かに頷いた。
「君が悪いわけではない。だが、君がその“重荷”を背負っていることは、理解している」
セレナは、目を見開いた。
「……レオニス様は、私のことを……?」
「君は、強い。だからこそ、誰かに頼ることも必要だ」
レオニスは、セレナの瞳をまっすぐに見つめた。
セレナは、少しだけ微笑んだ。
「ありがとうございます。……少しだけ、楽になりました」
「それでいい」
レオニスは、立ち上がりながら言った。
「また話そう」
セレナは、彼の背中を見送りながら、胸の奥に小さな温もりを感じていた。
(レオニス様……優しい人なのかもしれない)
*
セレナから離れたレオニスは、学院の回廊へと歩きながら、心の中で呟いた。
(少しずつ進めていくとしよう。セレナ・ヴェルディア――君は、計画の鍵になる)
そしてそのまま、春風に紛れるように静かに姿を消していった。
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