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第5章 王立ルミナス学院 4年目
第54話 鉱山へ
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王立ルミナス学院の朝は、夏の終わりを告げる風に包まれていた。
石畳の回廊には、色褪せ始めた花々が揺れる。
空には秋の気配を含んだ薄雲が浮かんでいる。
虫の声は遠く、代わりに涼やかな虫の音が耳に届くようになっていた。
クラリスは、生徒会室の窓辺に立ち、遠くの塔を見つめていた。
その瞳には、妹セレナの姿が浮かんでいる。
(セレナ……笑顔は戻ってきたけれど。ユリウス様が言っていた通り、まだ何かを抱えているのかもしれない)
「クラリス様、準備できました」
ロジーナ・エルスが、資料の束を抱えて生徒会室に入ってきた。
制服のマントを整え、記録用のノートをしっかりと抱えている。
「ありがとう、ロジーナ。……今回は、少し様子が違うわね」
クラリスは、窓から目を離し、ロジーナに微笑みかける。
「はい。鉱山町は、治安があまり良くないと聞いています。だからこそ、記録は確実に残さないと」
そのとき、扉が開き、ルークとカイが姿を現した。
「おーい、出発するぞ。女だけで行くのは流石にまずいって言われて、俺たちが同行することになったんだ」
ルークは腕を組みながら、少し面倒くさそうに言う。
「学院側の判断だ。鉱山町は、制度導入後も不満が多く、暴動になりかけたこともあったと記録されている。君たちが行くなら、警護は必要だ」
カイは冷静に言いながら、視線を資料に落とす。
クラリスは、二人に向かって軽く頭を下げた。
「ありがとう。心強いわ。……ところでミレーユさんは?」
「『今回はパス。鉱山なんて埃っぽいし、面白くなさそう』だとよ」
ルークが肩をすくめる。
クラリスは、少しだけ笑みを浮かべた。
「彼女らしいわね」
ロジーナが、記録用のノートを開きながら言った。
「労働の現場にどう影響しているか。ちゃんと記録します」
クラリスは、マントの裾を整えた。
「行きましょう」
学院の門が開かれ、馬車が静かに待っていた。
クラリスは、セレナのことを胸に残しながらも、視察という責務に向かって歩き出した。
*
馬車の車輪が、乾いた石畳を静かに転がっていく。
窓の外には、夏の終わりを告げる風が吹き抜け、色褪せた草花が揺れていた。
遠くには、うっすらと秋の雲が浮かび、空はどこか高く感じられる。
クラリスは、窓辺に座りながら、静かに外を見つめていた。
「……鉱山町って、どんなところなんでしょうね」
ロジーナが、記録用のノートを膝に置きながら口を開いた。
「制度が導入されてから、作業の割り振りが数字で決まるようになったって聞きましたけど……」
「危険な作業に回されるのは、運命力が低い奴らだろ」
ルークが、腕を組んだまま少し不機嫌そうに言う。
「それって、ある意味当然じゃないか?数字が高い奴が危ない仕事するのは、効率悪いし」
「それは制度の理屈としては正しいが、実際はどうなんだろうか」
カイが、資料をめくりながら冷静に言葉を継ぐ。
」
クラリスは、窓から目を離し、三人の顔を見渡した。
「私は、制度を否定するつもりはないわ。でも、この目で見たいのよ。実際に起きていることを」
ロジーナは、クラリスの言葉に頷きながら言った。
「記録することとしては、どういうことが起きていたかと、実際の当事者の声も残す予定です」
ルークは、少しだけ目を伏せてぼそりと呟いた。
「……俺は、数字が高いからって、偉いと思ったことはない。でも、周りがそう見るんだよな。だから、黙って剣を振ってる方が楽なんだ」
クラリスは、ルークの言葉に少し驚いたように目を向けた。
「……それでも、あなたは守ってくれる。だから、私は安心して行けるの」
ルークは、照れくさそうに顔をそらした。
「……まあ、任せとけよ」
カイは、視線を資料からクラリスに移しながら言った。
「講演会、どうするつもりだ?農村、港町、そして鉱山。三つの視察を終えた君の言葉は、制度の象徴としてだけでなく、王国の未来に影響を与える」
「……私は、見たこと、聞いたこと、感じたことを、全部話すつもり。制度の中で生きる人たちの“現実”を、隠さずに」
ロジーナは、クラリスの横顔を見つめながら、静かに言った。
「それが、クラリス様らしいです」
馬車の窓から、遠くに山の影が見えてきた。
鉱山町は、もうすぐそこだ。
*
馬車の車輪が、乾いた土の道をゆっくりと進んでいく。
石畳の王都とは違い、鉱山町の道は荒れていて、ところどころに岩が転がっていた。
空には秋の気配を含んだ雲が浮かび、風は冷たく、土の匂いを運んでくる。
「……着いたみたいですね」
ロジーナが、窓の外を見ながら呟いた。
その声には、わずかな緊張が滲んでいる。
クラリスは、マントの裾を整えながら馬車を降りた。
目の前に広がるのは、灰色の岩肌に囲まれた町。
建物は石造りで、どこか無骨な印象を与える。
遠くには、煙を上げる坑道の入り口が見えた。
町の空気は重く、静かだった。
市場の賑わいもなければ、子どもたちの笑い声もない。
代わりに聞こえるのは、鉱石を砕く鈍い音と、風に混じる金属の匂い。
「……なんか、空気が違うな」
ルークが、眉をひそめながら周囲を見渡す。
「まるで別世界だ」
「ここは、制度の影響が最も“直接的”に現れる場所かもしれない」
カイが、冷静に言葉を継ぐ。
「労働の割り振り、危険度、待遇――すべてが数字で決まる」
クラリスは、町の入り口に立つ人物に目を留めた。
粗末な制服を着た中年の男性が、こちらに向かって歩いてくる。
彼の顔には、歓迎の笑みはなく、どこか警戒と疲労が滲んでいた。
「王都からお越しの方々ですね。鉱山管理局の副責任者、ダリウスと申します」
彼は、形式的に頭を下げたが、その動きはぎこちない。
「クラリス・ヴェルディアです。制度の視察で参りました」
クラリスは丁寧に一礼し、ロジーナが記録用のノートを開く。
「……正直、こういう視察は久しぶりです。制度が導入されてから、王都の方々は“数字”だけを見て判断するようになった。現場の声を聞きに来る人は、ほとんどいませんでした」
その言葉に、クラリスは静かに頷いた。
「だからこそ、私は来ました。いまそこにある“声”を聞くために」
ダリウスは、クラリスの瞳を見つめ、少しだけ表情を緩めた。
「……分かりました。では、まずは鉱山の作業現場をご案内します。制度がどう運用されているか、実際にご覧いただいた方が早いでしょう」
クラリスたちは、彼の案内に従って、町の奥へと歩き出した。
坑道の入り口が、ゆっくりと近づいてくる。
その背後では、数人の鉱山労働者たちが、無言でクラリスたちを見つめていた。
その視線には、羨望でも憧れでもない――ただ、遠いものを見るような、冷めた光が宿っていた。
クラリスは、その視線を受け止めながら、歩みを止めなかった。
石畳の回廊には、色褪せ始めた花々が揺れる。
空には秋の気配を含んだ薄雲が浮かんでいる。
虫の声は遠く、代わりに涼やかな虫の音が耳に届くようになっていた。
クラリスは、生徒会室の窓辺に立ち、遠くの塔を見つめていた。
その瞳には、妹セレナの姿が浮かんでいる。
(セレナ……笑顔は戻ってきたけれど。ユリウス様が言っていた通り、まだ何かを抱えているのかもしれない)
「クラリス様、準備できました」
ロジーナ・エルスが、資料の束を抱えて生徒会室に入ってきた。
制服のマントを整え、記録用のノートをしっかりと抱えている。
「ありがとう、ロジーナ。……今回は、少し様子が違うわね」
クラリスは、窓から目を離し、ロジーナに微笑みかける。
「はい。鉱山町は、治安があまり良くないと聞いています。だからこそ、記録は確実に残さないと」
そのとき、扉が開き、ルークとカイが姿を現した。
「おーい、出発するぞ。女だけで行くのは流石にまずいって言われて、俺たちが同行することになったんだ」
ルークは腕を組みながら、少し面倒くさそうに言う。
「学院側の判断だ。鉱山町は、制度導入後も不満が多く、暴動になりかけたこともあったと記録されている。君たちが行くなら、警護は必要だ」
カイは冷静に言いながら、視線を資料に落とす。
クラリスは、二人に向かって軽く頭を下げた。
「ありがとう。心強いわ。……ところでミレーユさんは?」
「『今回はパス。鉱山なんて埃っぽいし、面白くなさそう』だとよ」
ルークが肩をすくめる。
クラリスは、少しだけ笑みを浮かべた。
「彼女らしいわね」
ロジーナが、記録用のノートを開きながら言った。
「労働の現場にどう影響しているか。ちゃんと記録します」
クラリスは、マントの裾を整えた。
「行きましょう」
学院の門が開かれ、馬車が静かに待っていた。
クラリスは、セレナのことを胸に残しながらも、視察という責務に向かって歩き出した。
*
馬車の車輪が、乾いた石畳を静かに転がっていく。
窓の外には、夏の終わりを告げる風が吹き抜け、色褪せた草花が揺れていた。
遠くには、うっすらと秋の雲が浮かび、空はどこか高く感じられる。
クラリスは、窓辺に座りながら、静かに外を見つめていた。
「……鉱山町って、どんなところなんでしょうね」
ロジーナが、記録用のノートを膝に置きながら口を開いた。
「制度が導入されてから、作業の割り振りが数字で決まるようになったって聞きましたけど……」
「危険な作業に回されるのは、運命力が低い奴らだろ」
ルークが、腕を組んだまま少し不機嫌そうに言う。
「それって、ある意味当然じゃないか?数字が高い奴が危ない仕事するのは、効率悪いし」
「それは制度の理屈としては正しいが、実際はどうなんだろうか」
カイが、資料をめくりながら冷静に言葉を継ぐ。
」
クラリスは、窓から目を離し、三人の顔を見渡した。
「私は、制度を否定するつもりはないわ。でも、この目で見たいのよ。実際に起きていることを」
ロジーナは、クラリスの言葉に頷きながら言った。
「記録することとしては、どういうことが起きていたかと、実際の当事者の声も残す予定です」
ルークは、少しだけ目を伏せてぼそりと呟いた。
「……俺は、数字が高いからって、偉いと思ったことはない。でも、周りがそう見るんだよな。だから、黙って剣を振ってる方が楽なんだ」
クラリスは、ルークの言葉に少し驚いたように目を向けた。
「……それでも、あなたは守ってくれる。だから、私は安心して行けるの」
ルークは、照れくさそうに顔をそらした。
「……まあ、任せとけよ」
カイは、視線を資料からクラリスに移しながら言った。
「講演会、どうするつもりだ?農村、港町、そして鉱山。三つの視察を終えた君の言葉は、制度の象徴としてだけでなく、王国の未来に影響を与える」
「……私は、見たこと、聞いたこと、感じたことを、全部話すつもり。制度の中で生きる人たちの“現実”を、隠さずに」
ロジーナは、クラリスの横顔を見つめながら、静かに言った。
「それが、クラリス様らしいです」
馬車の窓から、遠くに山の影が見えてきた。
鉱山町は、もうすぐそこだ。
*
馬車の車輪が、乾いた土の道をゆっくりと進んでいく。
石畳の王都とは違い、鉱山町の道は荒れていて、ところどころに岩が転がっていた。
空には秋の気配を含んだ雲が浮かび、風は冷たく、土の匂いを運んでくる。
「……着いたみたいですね」
ロジーナが、窓の外を見ながら呟いた。
その声には、わずかな緊張が滲んでいる。
クラリスは、マントの裾を整えながら馬車を降りた。
目の前に広がるのは、灰色の岩肌に囲まれた町。
建物は石造りで、どこか無骨な印象を与える。
遠くには、煙を上げる坑道の入り口が見えた。
町の空気は重く、静かだった。
市場の賑わいもなければ、子どもたちの笑い声もない。
代わりに聞こえるのは、鉱石を砕く鈍い音と、風に混じる金属の匂い。
「……なんか、空気が違うな」
ルークが、眉をひそめながら周囲を見渡す。
「まるで別世界だ」
「ここは、制度の影響が最も“直接的”に現れる場所かもしれない」
カイが、冷静に言葉を継ぐ。
「労働の割り振り、危険度、待遇――すべてが数字で決まる」
クラリスは、町の入り口に立つ人物に目を留めた。
粗末な制服を着た中年の男性が、こちらに向かって歩いてくる。
彼の顔には、歓迎の笑みはなく、どこか警戒と疲労が滲んでいた。
「王都からお越しの方々ですね。鉱山管理局の副責任者、ダリウスと申します」
彼は、形式的に頭を下げたが、その動きはぎこちない。
「クラリス・ヴェルディアです。制度の視察で参りました」
クラリスは丁寧に一礼し、ロジーナが記録用のノートを開く。
「……正直、こういう視察は久しぶりです。制度が導入されてから、王都の方々は“数字”だけを見て判断するようになった。現場の声を聞きに来る人は、ほとんどいませんでした」
その言葉に、クラリスは静かに頷いた。
「だからこそ、私は来ました。いまそこにある“声”を聞くために」
ダリウスは、クラリスの瞳を見つめ、少しだけ表情を緩めた。
「……分かりました。では、まずは鉱山の作業現場をご案内します。制度がどう運用されているか、実際にご覧いただいた方が早いでしょう」
クラリスたちは、彼の案内に従って、町の奥へと歩き出した。
坑道の入り口が、ゆっくりと近づいてくる。
その背後では、数人の鉱山労働者たちが、無言でクラリスたちを見つめていた。
その視線には、羨望でも憧れでもない――ただ、遠いものを見るような、冷めた光が宿っていた。
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