日々

睦月マコト

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現実と憧憬

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 ヒロインになりたくはないけれど、物語の一部になりたいと思ったことはある。
 なんとなく生きていてもそれはそれで人生というものは物語たり得るのだろうけど、こう、物語というものは誰かに読まれてこそだと思う。だから、私という物語があったとして、私は私が登場する物語を誰かに読んでもらいたい。
 でも、私を読んでもらうのはあまりいい心地がしない。むず痒くて、覗かれているようで、私という人間の歩んできた道を、積み重ねたものを、どこかの誰かに評価されるような気がしてあまり好きではない。
 だから、私はヒロインじゃなくていい。ヒーローじゃなくてもいい。ヒロインの親友あたりのポジションで、苦しまず、泣かず、頑張らず、ヒロインの幸せを心から喜んで、ずっとにこにこしながら苗字しか与えられてないような友人Bくんと結婚したりして、劇的と凡庸の中間ぐらいの人生を送って幸せになりたい。ぐらいの気持ちで日々を過ごしている。
 でも、私の周囲にヒロインはいない。起きてから出勤するまで二度トイレで呻こうと、可愛らしいランチができなくても笑顔で肉と油を頬張ろうと、そんな私を眺めて微笑ましい気持ちになってくれる人も、正統派のヒロインよりも私みたいなギャグ要員が好きだと言ってくれる人もいない。
 私にかけられる言葉なんて「進捗どうですか」とか「申し訳ないんですけど」から始まる断れない仕事の依頼とか「お疲れさまでした」と颯爽と退勤していく仕事のできる人たちの挨拶ぐらいのものだ。
 この後の予定を聞かれることも、なぜか余ってしまったペアチケットを貰うこともない私という人物の出てくる物語を読む人はいない。だって、面白くないもん。
 大きくため息を吐いた。目と首と肩ががちがちに凝っている。
 仕事に飽きすぎて妙な考えをしてしまった。伸びをして肩をぐりんぐりん回して首を傾けたら私にしか聞こえないものすごい音が鳴った。たまらん。これが好きであえて身体をがちがちにしている、ということにしておこう。
 ぼんやり画面を眺めて手癖だけで仕事をしながら、私は先ほどまで頭を支配していたことについて考える。
 誰かに読まれるような物語に出るなんて、望んではいるけど努力してそうなろうなんて思っていない。でも、私の出る物語を誰かに読んでほしいとは思うから、そんな機会が勝手に目の前に出てこないかなあ、とは思っている。
 思っているだけで動かない。白馬の王子様を待つだけの一般女性。とてもよくある話で、あるあると頷かれるだけで誰かの心に傷や灯りを残したりしない、私の人生。
 少しだけ。少しだけ、私は私を嫌いなのかもしれないなあ。
 定時じゃ絶対に終わらない量の仕事を見つめ、私は心の柔らかい部分にちくりと刺さる棘の存在を忘れようとした。
 手に取ったマグカップは空だった。
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