スキル名【すんごい、おっぱい】なんだけど、これってどうなの!?

かわさきはっく

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噂の聖女、爆誕編

第9話 天使様とすんごい共感

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「あなたが……私を、助けに来てくれた……天使様……?」

 気の強そうなお嬢様――セリーナ様の口からこぼれた、あまりにも突拍子のない言葉。
 私は床にへたり込んだまま、必死に首を横に振った。

「ち、違います! 天使様なんかじゃありません! 私はただ転んだだけで……! その、扉を壊してしまって、本当にごめんなさい!」
 しどろもどろに弁解するが、涙声で全く要領を得ない。

「そうとも! 彼女は天より遣わされし聖女! 君の閉ざされた心を開くためにやってきたのさ!」
 すかさず、ユウキ様が私の言葉に被せて、自信満々にそう言い放った。私にだけ見えるように、親指をぐっと立てている。
(やめてくださいユウキ様! ややこしくなるだけです!)

「がはは! なんちゅう登場の仕方だ!」
「……非論理的すぎて、思考がショートしそうです」
 ダインさんは腹を抱えて笑い、シルヴィアさんはこめかみを押さえて頭痛をこらえている。

 カオスと化した状況の中、セリーナ様は、意外にも落ち着いていた。
 彼女は、奇跡的に開いた扉と、床で泣きそうになっている私を見比べると、ふっと溜め息をついた。
「……面白い方たちね。どうぞ、お入りなさいな」
 その頑なだった表情が、少しだけ和らいで見えた。

 招き入れられた彼女の部屋は、豪華な調度品が散らかっており、彼女の心の荒れ模様を表しているようだった。

「なぜ、私が部屋に閉じこもっていたか、知りたいのでしょう?」
 椅子に腰掛けたセリーナ様は、単刀直入に切り出した。
「父上が、私に相談もなく、商売相手の息子との結婚を決めてしまったの。私は、家のための道具じゃないわ」
 彼女は、悔しそうに唇を噛んだ。
「この牢獄から救ってくれるなら、神でも悪魔でもいいと祈っていた。……そうしたら、あなたが扉を壊して現れたのよ」
 彼女は、まっすぐ私を見る。
「ねえ、天使様。あなたなら、私のこの気持ち、わかるでしょう?」

「え、あ、あの……その……」
 どうしよう。私に、この気高いお嬢様の気持ちがわかるはずもない。
 ユウキ様が、「ルルナ! 例の『真実の言霊』で説得するんだ!」と小声でけしかけてくるが、そんな大層なものが私にあるわけない。

 プレッシャーに押しつぶされそうになりながら、私は思わず、自分の本音を漏らしていた。

「……わかります」

「え?」

「自分の意思と関係なく、運命を決められてしまう気持ち……とても、よくわかります。私も……私にも、どうしようもないことがあって……」
 私は、無意識に自分の胸に手を当てていた。
「望んでもいないのに、こんなスキルを授かって……家の恥だと言われて……私の人生、もう終わりなんだって……」

 それは、説得でも何でもなかった。
 ただの、私の泣き言。みっともない、弱音。
 ああ、何を言っているんだろう、私は。

 しかし、その時だった。
 私の胸が、また、ぽわっと温かい光を帯びた気がした。

 私の告白を聞いていたセリーナ様の瞳が、大きく見開かれる。
 その気の強い瞳から、大粒の涙が、ぽろり、ぽろりとこぼれ落ちた。

「あなたも……苦しんで、いたのね……」
 彼女の声は、震えていた。
「そうよね、天使様だって、辛いことくらい……あるわよね……」

(だから、天使様じゃないんですってば……!)
 心の中で叫ぶが、もう遅い。
 セリーナ様は、私の手をぎゅっと握りしめると、「ありがとう。あなたの気持ち、聞かせてもらえてよかった」と、憑き物が落ちたように穏やかに微笑んだ。

 その後、セリーナ様は「父上ともう一度話します。でも、あなたも一緒にいてくださいね」と、私の同席を条件に、部屋を出ることを決意した。

 階下で待っていた大商人アルジェント様は、娘の姿を見て、心底安堵した表情を浮かべた。
 私のスキルが発動しているのか、それともセリーナ様の真摯な言葉が届いたのか。父と娘の話し合いは、驚くほど穏やかに進んだ。
 結果、アルジェント様は政略結婚を白紙に戻すことを約束。親子は、見事に和解を果たしたのだった。

 屋敷を後にする私たちに、アルジェント様は、報酬に加えて分厚い金貨の袋を渡してくれた。

「やったな、ルルナ! 君の『共感する言霊(エンパシー・ワード)』が、彼女たちの心を繋いだんだ!」
 ユウキ様は、また新しい技名をつけながら大はしゃぎだ。

 シルヴィアさんは、遠い目をしながら呟いていた。
「論理的な説得は皆無……ただ自分の身の上話をしただけで、なぜ心が通じるのか……。物理法則を無視した解錠といい、私の常識が、どんどん破壊されていく……」

 またしても、私のあずかり知らぬところで、奇跡は起きた。
 そして、王都では「どんなに固く閉ざされたものでも、聖女様が胸でぶつかれば開くらしい」という、新たな噂がまことしやかに囁かれ始めることを、私はまだ知らなかった。
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