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噂の聖女、爆誕編
第8話 お嬢様とすんごい解錠術
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王都ソリスティアの冒険者ギルドは、私たちの報告によって、静かなパニックに陥っていた。
「ええと……盗賊団を、討伐ではなく……涙ながらに説得、改心させたと……?」
受付の女性が、信じられないという顔で報告書と私たちの顔を何度も見比べる。
「しかも、味方、敵ともに負傷者ゼロ……?」
「ああ! うちのパーティの聖女様にかかれば、どんな凶悪な悪党も赤子同然よ!」
ダインさんが、エールを飲みながら適当なことを言う。聖女様って誰のことですか!
結局、ギルドは前代未聞の報告を「結果的に依頼は達成されている」として受理せざるを得なかった。
しかし、噂というものは、尾ひれがついて広まるのが常らしい。
私たちがギルドを後にする頃には、
「おい、あれが噂の勇者パーティだぜ」
「なんでも、胸のでっかい聖女様がいてな、その慈愛の言葉で盗賊団を丸ごと浄化したらしい」
「浄化っていうか、泣き落としたんだろ?」
などと、ひそひそ話が聞こえてくる。私はその度にフードを目深にかぶり、消えてなくなりたかった。
そんな奇妙な噂は、奇妙な依頼を引き寄せるらしかった。
数日後、ギルドからの呼び出しで向かうと、そこには上等な服を着た初老の執事が待っていた。
「勇者ユウキ様御一行ですね。我が主、アルジェント様より、皆様に是非お願いしたい儀が御座います」
執事は、深々と頭を下げ、一つの依頼書を差し出した。
報酬の欄には、私たちの目が飛び出るような金額が書かれていた。
「依頼内容は……『一人娘セリーナの説得』?」
ユウキ様が、訝しげに依頼書を読み上げる。
「最近、全く言うことを聞かず、自室に引きこもってしまった一人娘を、どうか〝説得〟していただきたい、と……」
「なるほどな。例の噂を聞きつけたってわけか」
ユウキ様がにやりと笑う。
「面白い! その依頼、受けようじゃないか!」
「お待ちください、勇者」
ユウキ様が即決しようとした、その時。ずっと黙っていたシルヴィアさんが、静かに口を開いた。一同の視線が彼女に集まる。反対するのか、という雰囲気だ。
「……いえ、反対はしません。むしろ、受けるべきです」
予想外の言葉に、ユウキ様が目を丸くする。
シルヴィアさんは、私に分析するような視線を向けながら続けた。
「考えてもみてください。今回の対象は、敵意のない人間の少女。戦闘の混乱というノイズを排除し、彼女のスキルの純粋な効果――あなたの言う『真実の言霊』とやらを観察するには、またとない好機です。……それに、報酬が破格なのも事実。これは合理的な判断です」
理路整然とした説明に、誰も反論はできなかった。
こうして、私の意見は完全に無視されたまま、私たちは王都の一等地にそびえ立つ、大商人の屋敷へと向かうことになったのだった。
「ここが、娘の部屋でございます。もう何日も、内側から鍵をかけて閉じこもっておりまして……」
大商人アルジェント様に案内されたのは、二階の最も豪華な扉の前だった。
「ルルナ嬢! 君の『真実の言霊(トゥルース・ワード)』で、あのお嬢さんの固く閉ざされた心の扉を開けてやってくれ!」
ユウキ様が、無責任に私をけしかける。
(心の扉の前に、物理的に開きませんけど!?)
私はおそるおそる、重厚な扉の前に立った。
(貴族の令嬢を説得するなんて……平民同然の私に、できるはずが……)
プレッシャーで、心臓が口から飛び出しそうだ。
「あ、あの……セリーナお嬢様……? わ、私、勇者パーティの……」
なんとか声を絞り出すが、緊張で喉がカラカラだ。
一歩、前に出ようとした、その時。
ふかふかの絨毯に、不覚にも足を取られた。
「きゃっ!」
あっ、と思う間もなく、私の体は前のめりに倒れていく。
受け身も取れず、私はそのまま、固く閉ざされた扉に激突した。
――ぽよん。
私の胸が、先に扉にぶつかる。
重厚な樫の扉が、その衝撃をトランポリンのように受け止め、私の体を優しく弾き返した。
その、直後のことだった。
カチャンッ! カチリ、カチンッ!
静かな廊下に、いくつもの金属音が響き渡る。
まるで熟練の鍵師が仕事をしたかのように、扉の内側からかけられていた複数の鍵と、頑丈なかんぬきが、一斉に開いてしまったのだ。
ゆっくりと、重い扉が内側へ向かって開いていく。
「…………」
「…………」
「…………」
パーティ全員が、時が止まったかのように固まっている。
扉の向こうには、豪華なドレスを着た、気の強そうなお嬢様が、目を丸くして立っていた。
私は、自分が引き起こした(であろう)異常事態にパニックになり、転んだ恥ずかしさと申し訳なさで、涙が滲む。
「ご、ごめんなさいっ!」
呆然とする令嬢。
頭を抱えるシルヴィアさん。
口をあんぐりと開けたユウキ様とダインさん。
そして、部屋の中から私を見つめる令嬢――セリーナ様は、私の涙目の謝罪を見て、なぜかその頑なだった表情を解き、ぽつりと、呟いた。
「あなたが……私を、助けに来てくれた……天使様……?」
私のすんごいおっぱいは、人の心の扉を開ける前に、物理的な扉を開けてしまったようだった。
「ええと……盗賊団を、討伐ではなく……涙ながらに説得、改心させたと……?」
受付の女性が、信じられないという顔で報告書と私たちの顔を何度も見比べる。
「しかも、味方、敵ともに負傷者ゼロ……?」
「ああ! うちのパーティの聖女様にかかれば、どんな凶悪な悪党も赤子同然よ!」
ダインさんが、エールを飲みながら適当なことを言う。聖女様って誰のことですか!
結局、ギルドは前代未聞の報告を「結果的に依頼は達成されている」として受理せざるを得なかった。
しかし、噂というものは、尾ひれがついて広まるのが常らしい。
私たちがギルドを後にする頃には、
「おい、あれが噂の勇者パーティだぜ」
「なんでも、胸のでっかい聖女様がいてな、その慈愛の言葉で盗賊団を丸ごと浄化したらしい」
「浄化っていうか、泣き落としたんだろ?」
などと、ひそひそ話が聞こえてくる。私はその度にフードを目深にかぶり、消えてなくなりたかった。
そんな奇妙な噂は、奇妙な依頼を引き寄せるらしかった。
数日後、ギルドからの呼び出しで向かうと、そこには上等な服を着た初老の執事が待っていた。
「勇者ユウキ様御一行ですね。我が主、アルジェント様より、皆様に是非お願いしたい儀が御座います」
執事は、深々と頭を下げ、一つの依頼書を差し出した。
報酬の欄には、私たちの目が飛び出るような金額が書かれていた。
「依頼内容は……『一人娘セリーナの説得』?」
ユウキ様が、訝しげに依頼書を読み上げる。
「最近、全く言うことを聞かず、自室に引きこもってしまった一人娘を、どうか〝説得〟していただきたい、と……」
「なるほどな。例の噂を聞きつけたってわけか」
ユウキ様がにやりと笑う。
「面白い! その依頼、受けようじゃないか!」
「お待ちください、勇者」
ユウキ様が即決しようとした、その時。ずっと黙っていたシルヴィアさんが、静かに口を開いた。一同の視線が彼女に集まる。反対するのか、という雰囲気だ。
「……いえ、反対はしません。むしろ、受けるべきです」
予想外の言葉に、ユウキ様が目を丸くする。
シルヴィアさんは、私に分析するような視線を向けながら続けた。
「考えてもみてください。今回の対象は、敵意のない人間の少女。戦闘の混乱というノイズを排除し、彼女のスキルの純粋な効果――あなたの言う『真実の言霊』とやらを観察するには、またとない好機です。……それに、報酬が破格なのも事実。これは合理的な判断です」
理路整然とした説明に、誰も反論はできなかった。
こうして、私の意見は完全に無視されたまま、私たちは王都の一等地にそびえ立つ、大商人の屋敷へと向かうことになったのだった。
「ここが、娘の部屋でございます。もう何日も、内側から鍵をかけて閉じこもっておりまして……」
大商人アルジェント様に案内されたのは、二階の最も豪華な扉の前だった。
「ルルナ嬢! 君の『真実の言霊(トゥルース・ワード)』で、あのお嬢さんの固く閉ざされた心の扉を開けてやってくれ!」
ユウキ様が、無責任に私をけしかける。
(心の扉の前に、物理的に開きませんけど!?)
私はおそるおそる、重厚な扉の前に立った。
(貴族の令嬢を説得するなんて……平民同然の私に、できるはずが……)
プレッシャーで、心臓が口から飛び出しそうだ。
「あ、あの……セリーナお嬢様……? わ、私、勇者パーティの……」
なんとか声を絞り出すが、緊張で喉がカラカラだ。
一歩、前に出ようとした、その時。
ふかふかの絨毯に、不覚にも足を取られた。
「きゃっ!」
あっ、と思う間もなく、私の体は前のめりに倒れていく。
受け身も取れず、私はそのまま、固く閉ざされた扉に激突した。
――ぽよん。
私の胸が、先に扉にぶつかる。
重厚な樫の扉が、その衝撃をトランポリンのように受け止め、私の体を優しく弾き返した。
その、直後のことだった。
カチャンッ! カチリ、カチンッ!
静かな廊下に、いくつもの金属音が響き渡る。
まるで熟練の鍵師が仕事をしたかのように、扉の内側からかけられていた複数の鍵と、頑丈なかんぬきが、一斉に開いてしまったのだ。
ゆっくりと、重い扉が内側へ向かって開いていく。
「…………」
「…………」
「…………」
パーティ全員が、時が止まったかのように固まっている。
扉の向こうには、豪華なドレスを着た、気の強そうなお嬢様が、目を丸くして立っていた。
私は、自分が引き起こした(であろう)異常事態にパニックになり、転んだ恥ずかしさと申し訳なさで、涙が滲む。
「ご、ごめんなさいっ!」
呆然とする令嬢。
頭を抱えるシルヴィアさん。
口をあんぐりと開けたユウキ様とダインさん。
そして、部屋の中から私を見つめる令嬢――セリーナ様は、私の涙目の謝罪を見て、なぜかその頑なだった表情を解き、ぽつりと、呟いた。
「あなたが……私を、助けに来てくれた……天使様……?」
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