11 / 65
噂の聖女、爆誕編
第11話 外交とすんごい衝撃
しおりを挟む
王城の会議室は、凍りつくような緊張感に支配されていた。
長いテーブルを挟み、こちら側には国王陛下と大臣たち、そして私たちのパーティ。向こう側には、隣国グランフォルド帝国から派遣された特命大使――鉄の髭をたくわえた、いかにも頑固そうなグライゼン大使とその随行員たちが座っている。
私は、ユウキ様たちの後ろの席で、ただひたすら気配を殺していた。
王宮からあてがわれた上品なドレスは、皮肉にも私の胸のラインを強調し、落ち着かないことこの上ない。
「――よって、この国境線案こそが、両国にとって最も平和的かつ友好的な解決策と確信する」
我が国の宰相が、穏やかに妥協案を提示する。
しかし、グライゼン大使はそれを鼻で笑った。
「戯言を! その土地は、古来より偉大なる我がグランフォルド帝国固有の領土! 一寸たりとも譲り渡す気などないわ!」
テーブルをドンと叩き、雷のような声で一蹴する。
交渉は、開始早々、決裂寸前だった。
(もう無理だ……帰りたい……)
私が心の中で泣き言を言っていると、国王陛下が、私の方を見て、僅かに頷いた。
それを見たユウキ様が、私の背中を小突く。
「ルルナ、今だ! 何か言うんだ!」
(何を!? 私に何を言えと!?)
パニックになりながらも、私は椅子から立ち上がった。足が、ガクガクと震える。
部屋中の視線が、私一人に突き刺さる。
「あ、あの……っ!」
何か、何か平和的なことを言わなければ。
「け、喧嘩は……よくないと、思います……!」
ひねり出したのは、およそ外交の場に似つかわしくない、子供のような一言だった。
会議室が、しんと静まり返る。
グライゼン大使が、ギロリと私を睨みつけた。
「……なんだ、この小娘は。我々を愚弄しているのか?」
「ひっ……!」
その殺気にも似た眼光に、私は完全に我を忘れた。
「も、申し訳ありませんでしたっ!」
私は、テーブルに頭を打ち付けるほどの勢いで、深々と頭を下げた。
その時だった。
――ぽすん。
頭より先に、私の胸が、重厚なマホガニーのテーブルに、柔らかく、しかし確かにぶつかった。
次の瞬間、グライゼン大使の巨体が、ピクリと震えた。
彼の怒りに満ちた表情が、ふっと緩む。その険しい瞳は、どこか遠くを見つめ、焦点が合っていない。
「……おお……マリーダ……」
大使が、誰かの名前を、かすれた声で呟いた。
一体、何が起きているのか?
誰もが固唾をのんで見守る中、グライゼン大使は、ゆっくりと我に返った。
彼は自分の大きな掌を見つめ、それから、頭を下げたままの私に視線を移す。その表情から、先程までの刺々しい雰囲気は、嘘のように消え失せていた。
彼は、長い、長いため息をついた。
「……小娘よ。いや……聖女殿。どうやら、あんたの言う通りかもしれん。戦など……実に、つまらんことだ」
そして、我が国の国王陛下に向き直ると、深々と頭を下げたのだ。
「陛下。これまでの無礼、どうかお許し願いたい。頭を冷やして、もう一度、貴国の提案を検討させていただこう」
会議室は、先程とは違う意味で、静寂に包まれた。
大臣たちは、信じられないという顔で、口をあんぐりと開けている。
「……やったな」
私の後ろで、ユウキ様が勝利を確信した声で呟いた。
「テーブルに衝撃を与え、その振動に乗せて鎮静効果のある魔力波を送り込む、直接接触型の精神干渉攻撃……! なんて高度なテクニックだ! まさに『おっぱい・インパクト・セラピー』!」
「木のテーブルの共振周波数が……彼女の魔力特性と同期して……ありえない……物理法則を完全に無視した、超常現象……」
シルヴィアさんは、またしても頭を抱えて、ぶつぶつと呟いている。
その後、嘘のように穏やかになった交渉は、とんとん拍子に進み、両国は平和的合意に至った。
一触即発だった戦争の危機は、回避されたのだ。
私は、自分が何をしたのか、全くわからないままだった。
ただ、テーブルに胸をぶつけて謝ったら、なぜか頑固な大使が優しくなった。それだけだ。
しかし、王都ソリスティアでは、新たな伝説が生まれていた。
「聖女ルルナ様、テーブルに胸を置くだけで、隣国との戦争を未然に防ぐ」と。
私の〝すんごいおっぱい〟は、ついに国境を越える奇跡を起こしてしまった。
その評判が、やがて海の向こうの魔王軍にまで届くことを、私はまだ知る由もなかった。
長いテーブルを挟み、こちら側には国王陛下と大臣たち、そして私たちのパーティ。向こう側には、隣国グランフォルド帝国から派遣された特命大使――鉄の髭をたくわえた、いかにも頑固そうなグライゼン大使とその随行員たちが座っている。
私は、ユウキ様たちの後ろの席で、ただひたすら気配を殺していた。
王宮からあてがわれた上品なドレスは、皮肉にも私の胸のラインを強調し、落ち着かないことこの上ない。
「――よって、この国境線案こそが、両国にとって最も平和的かつ友好的な解決策と確信する」
我が国の宰相が、穏やかに妥協案を提示する。
しかし、グライゼン大使はそれを鼻で笑った。
「戯言を! その土地は、古来より偉大なる我がグランフォルド帝国固有の領土! 一寸たりとも譲り渡す気などないわ!」
テーブルをドンと叩き、雷のような声で一蹴する。
交渉は、開始早々、決裂寸前だった。
(もう無理だ……帰りたい……)
私が心の中で泣き言を言っていると、国王陛下が、私の方を見て、僅かに頷いた。
それを見たユウキ様が、私の背中を小突く。
「ルルナ、今だ! 何か言うんだ!」
(何を!? 私に何を言えと!?)
パニックになりながらも、私は椅子から立ち上がった。足が、ガクガクと震える。
部屋中の視線が、私一人に突き刺さる。
「あ、あの……っ!」
何か、何か平和的なことを言わなければ。
「け、喧嘩は……よくないと、思います……!」
ひねり出したのは、およそ外交の場に似つかわしくない、子供のような一言だった。
会議室が、しんと静まり返る。
グライゼン大使が、ギロリと私を睨みつけた。
「……なんだ、この小娘は。我々を愚弄しているのか?」
「ひっ……!」
その殺気にも似た眼光に、私は完全に我を忘れた。
「も、申し訳ありませんでしたっ!」
私は、テーブルに頭を打ち付けるほどの勢いで、深々と頭を下げた。
その時だった。
――ぽすん。
頭より先に、私の胸が、重厚なマホガニーのテーブルに、柔らかく、しかし確かにぶつかった。
次の瞬間、グライゼン大使の巨体が、ピクリと震えた。
彼の怒りに満ちた表情が、ふっと緩む。その険しい瞳は、どこか遠くを見つめ、焦点が合っていない。
「……おお……マリーダ……」
大使が、誰かの名前を、かすれた声で呟いた。
一体、何が起きているのか?
誰もが固唾をのんで見守る中、グライゼン大使は、ゆっくりと我に返った。
彼は自分の大きな掌を見つめ、それから、頭を下げたままの私に視線を移す。その表情から、先程までの刺々しい雰囲気は、嘘のように消え失せていた。
彼は、長い、長いため息をついた。
「……小娘よ。いや……聖女殿。どうやら、あんたの言う通りかもしれん。戦など……実に、つまらんことだ」
そして、我が国の国王陛下に向き直ると、深々と頭を下げたのだ。
「陛下。これまでの無礼、どうかお許し願いたい。頭を冷やして、もう一度、貴国の提案を検討させていただこう」
会議室は、先程とは違う意味で、静寂に包まれた。
大臣たちは、信じられないという顔で、口をあんぐりと開けている。
「……やったな」
私の後ろで、ユウキ様が勝利を確信した声で呟いた。
「テーブルに衝撃を与え、その振動に乗せて鎮静効果のある魔力波を送り込む、直接接触型の精神干渉攻撃……! なんて高度なテクニックだ! まさに『おっぱい・インパクト・セラピー』!」
「木のテーブルの共振周波数が……彼女の魔力特性と同期して……ありえない……物理法則を完全に無視した、超常現象……」
シルヴィアさんは、またしても頭を抱えて、ぶつぶつと呟いている。
その後、嘘のように穏やかになった交渉は、とんとん拍子に進み、両国は平和的合意に至った。
一触即発だった戦争の危機は、回避されたのだ。
私は、自分が何をしたのか、全くわからないままだった。
ただ、テーブルに胸をぶつけて謝ったら、なぜか頑固な大使が優しくなった。それだけだ。
しかし、王都ソリスティアでは、新たな伝説が生まれていた。
「聖女ルルナ様、テーブルに胸を置くだけで、隣国との戦争を未然に防ぐ」と。
私の〝すんごいおっぱい〟は、ついに国境を越える奇跡を起こしてしまった。
その評判が、やがて海の向こうの魔王軍にまで届くことを、私はまだ知る由もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる