12 / 65
噂の聖女、爆誕編
第12話 褒賞とすんごい人だかり
しおりを挟む
隣国との戦争を回避した功績は、想像をはるかに超えるものだった。
私たちは国王陛下から、城に一室を与えられるという破格の褒賞を受け、さらに一生遊んで暮らせるほどの金貨を下賜された。
「やったぜ! これで美味い酒が飲み放題だ!」
ダインさんが、金貨の詰まった袋を軽々と持ち上げて笑う。
「ふふん、俺の目に狂いはなかっただろう? ルルナをパーティに入れた俺の判断は、国をも救ったというわけだ!」
ユウキ様は、自分の手柄のように胸を張っている。
「……これだけの褒賞をいただいておきながら、なぜ私の探究心は満たされないのでしょうか」
シルヴィアさんは、金貨には目もくれず、遠い目をして呟いていた。
王城での暮らしは、私にとって針の筵(むしろ)だった。
すれ違う兵士や侍女たちが、皆ひそひそと私の噂をし、敬意と好奇の入り混じった視線を向けてくる。
(もう、お家に帰りたい……いや、帰る家もなかったんだわ……)
そんなある日、ユウキ様が「たまには城の外の空気を吸いに行こうぜ!」と提案した。
「せっかく大金も手に入ったんだ。市場でぱーっと買い物して、美味いものでも食いに行こう!」
その提案に、私は全力で首を横に振った。
「む、無理です! 私が外を歩いたら、また騒ぎになります!」
「大丈夫だって! 俺に任せておけ!」
ユウキ様の根拠のない自信に押し切られる形で、私たちは久しぶりに王都の市場へと繰り出すことになった。
しかし、その心配は、すぐに現実のものとなる。
私がフードを目深にかぶり、仲間たちの陰に隠れるようにして歩いていたにもかかわらず、一人の果物屋の店主が、私のことを見つけたのだ。
「あ! あの方は、もしや……『聖女』ルルナ様!?」
その一言が、引き金だった。
市場にいた全ての人々が、一斉にこちらを振り返る。あっという間に、私たちは巨大な人だかりの中心になってしまった。
「本物の聖女様だ!」「お美しい……!」
「聖女様、どうか我が子に祝福を!」「一度でいいから、そのお胸に触らせて……」
「おい、それはセクハラだろ!」
人々が、熱狂した様子で私たちに殺到してくる。
「ひぃぃぃ! ご、ごめんなさい!」
パニックになった私は、後ずさろうとして、すぐそばにあった果物の山積みにぶつかってしまった。
あっ!
荷車に山と積まれた果物が、バランスを崩し、ガラガラと崩れ落ちそうになる。
「きゃっ!」
私は咄嗟に、荷車を支えようと手を伸ばした。
その時、私の胸が、荷車の縁に、ぽすん、と優しく当たった。
次の瞬間。
崩れかけていたはずの果物の山が、まるで意思を持ったかのように、ぴたり、と動きを止めた。それどころか、一つも落ちることなく、元の美しいピラミッド状に、勝手に積み上がってしまったのだ。
「「「おおおおおっ!」」」
広場から、地鳴りのような歓声が上がる。
「見たか! 聖女様が、念動力で果物を!」「なんと慈悲深い!」
果物屋の店主は、その場で泣き崩れてしまった。
「はっはっは! 皆の者、落ち着いてくれ! 聖女様はプライベートでお忍びなんだ!」
ユウキ様が、まるで私のマネージャーのように、慣れた様子で群衆をさばき始める。
「くっ、この混乱に乗じて、ルルナの髪の毛を一本……魔力特性のサンプルに……!」
シルヴィアさんが、混乱に乗じて怪しい動きをしている。
「てめえら、いつまで騒いでやがる! 俺は腹が減ってんだぞ!」
ダインさんが、空腹で怒り始めた。
カオスと化した状況に、私はもう、泣き出す寸前だった。
なんとかその場を逃げ出し、私たちは薄暗い路地裏へと駆け込んだ。
壁に手をつき、ぜえぜえと肩で息をする。
「はぁ……はぁ……もう、無理です……」
「いやー、すごい人気だったな、ルルナ!」
能天気なユウキ様の言葉に、私が反論しようとした、その時だった。
ふと、視線を感じた。
見上げると、路地裏を見下ろす建物の屋根の上に、一瞬、黒い影が見えた気がした。
(気のせい……?)
私が目をこすっている間に、その影はもうどこにも見えなかった。
しかし、私の胸の奥に、これまで感じたことのない、冷たい不安の染みが、じわりと広がっていくのを感じていた。
その視線の主が、海の向こうからやってきた魔王軍の斥候であることなど、今の私には知る由もなかった。
私たちは国王陛下から、城に一室を与えられるという破格の褒賞を受け、さらに一生遊んで暮らせるほどの金貨を下賜された。
「やったぜ! これで美味い酒が飲み放題だ!」
ダインさんが、金貨の詰まった袋を軽々と持ち上げて笑う。
「ふふん、俺の目に狂いはなかっただろう? ルルナをパーティに入れた俺の判断は、国をも救ったというわけだ!」
ユウキ様は、自分の手柄のように胸を張っている。
「……これだけの褒賞をいただいておきながら、なぜ私の探究心は満たされないのでしょうか」
シルヴィアさんは、金貨には目もくれず、遠い目をして呟いていた。
王城での暮らしは、私にとって針の筵(むしろ)だった。
すれ違う兵士や侍女たちが、皆ひそひそと私の噂をし、敬意と好奇の入り混じった視線を向けてくる。
(もう、お家に帰りたい……いや、帰る家もなかったんだわ……)
そんなある日、ユウキ様が「たまには城の外の空気を吸いに行こうぜ!」と提案した。
「せっかく大金も手に入ったんだ。市場でぱーっと買い物して、美味いものでも食いに行こう!」
その提案に、私は全力で首を横に振った。
「む、無理です! 私が外を歩いたら、また騒ぎになります!」
「大丈夫だって! 俺に任せておけ!」
ユウキ様の根拠のない自信に押し切られる形で、私たちは久しぶりに王都の市場へと繰り出すことになった。
しかし、その心配は、すぐに現実のものとなる。
私がフードを目深にかぶり、仲間たちの陰に隠れるようにして歩いていたにもかかわらず、一人の果物屋の店主が、私のことを見つけたのだ。
「あ! あの方は、もしや……『聖女』ルルナ様!?」
その一言が、引き金だった。
市場にいた全ての人々が、一斉にこちらを振り返る。あっという間に、私たちは巨大な人だかりの中心になってしまった。
「本物の聖女様だ!」「お美しい……!」
「聖女様、どうか我が子に祝福を!」「一度でいいから、そのお胸に触らせて……」
「おい、それはセクハラだろ!」
人々が、熱狂した様子で私たちに殺到してくる。
「ひぃぃぃ! ご、ごめんなさい!」
パニックになった私は、後ずさろうとして、すぐそばにあった果物の山積みにぶつかってしまった。
あっ!
荷車に山と積まれた果物が、バランスを崩し、ガラガラと崩れ落ちそうになる。
「きゃっ!」
私は咄嗟に、荷車を支えようと手を伸ばした。
その時、私の胸が、荷車の縁に、ぽすん、と優しく当たった。
次の瞬間。
崩れかけていたはずの果物の山が、まるで意思を持ったかのように、ぴたり、と動きを止めた。それどころか、一つも落ちることなく、元の美しいピラミッド状に、勝手に積み上がってしまったのだ。
「「「おおおおおっ!」」」
広場から、地鳴りのような歓声が上がる。
「見たか! 聖女様が、念動力で果物を!」「なんと慈悲深い!」
果物屋の店主は、その場で泣き崩れてしまった。
「はっはっは! 皆の者、落ち着いてくれ! 聖女様はプライベートでお忍びなんだ!」
ユウキ様が、まるで私のマネージャーのように、慣れた様子で群衆をさばき始める。
「くっ、この混乱に乗じて、ルルナの髪の毛を一本……魔力特性のサンプルに……!」
シルヴィアさんが、混乱に乗じて怪しい動きをしている。
「てめえら、いつまで騒いでやがる! 俺は腹が減ってんだぞ!」
ダインさんが、空腹で怒り始めた。
カオスと化した状況に、私はもう、泣き出す寸前だった。
なんとかその場を逃げ出し、私たちは薄暗い路地裏へと駆け込んだ。
壁に手をつき、ぜえぜえと肩で息をする。
「はぁ……はぁ……もう、無理です……」
「いやー、すごい人気だったな、ルルナ!」
能天気なユウキ様の言葉に、私が反論しようとした、その時だった。
ふと、視線を感じた。
見上げると、路地裏を見下ろす建物の屋根の上に、一瞬、黒い影が見えた気がした。
(気のせい……?)
私が目をこすっている間に、その影はもうどこにも見えなかった。
しかし、私の胸の奥に、これまで感じたことのない、冷たい不安の染みが、じわりと広がっていくのを感じていた。
その視線の主が、海の向こうからやってきた魔王軍の斥候であることなど、今の私には知る由もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる