13 / 65
噂の聖女、爆誕編
第13話 斥候とすんごい肩すかし
しおりを挟む
王城の一室に戻った後も、私の心は落ち着かなかった。
市場での騒動と、最後に感じたあの不気味な視線が、胸に重くのしかかっている。
「さっき、屋根の上に誰かいたような気がして……」
私がそう打ち明けても、ユウキ様は「ファンだよ、ファン!」と笑うだけだった。
シルヴィアさんだけが、「……確かに、ただの視線ではなかったかもしれません。今夜は警戒を強めましょう」と同意してくれたが、それ以上の手掛かりはなかった。
その夜。
私たちは、国王陛下から下賜された褒賞の金貨を、テーブルの上に広げていた。
「すっげえ量だな! これだけありゃ、一生遊んで暮らせるぜ!」
ダインさんが、山となった金貨を嬉しそうにかき混ぜる。
「ふふん、これぞ俺たちの実力よ!」
ユウキ様が胸を張った、その時だった。
ミシッ、と。テーブルが、嫌な音を立てた。
王城の備品である、猫足の優雅なテーブルは、金貨の重みに耐えきれなかったらしい。一本の脚が、根元からへし折れたのだ。
「「「あっ!」」」
テーブルがぐらりと傾き、金貨の山がなだれを打って床にこぼれ落ちそうになる。こんな音を立てれば、衛兵が飛んでくるに違いない。
「ひゃっ!」
私は一番近くにいたため、パニックになりながらも、とっさにテーブルの天板を両手で押さえた。
全体重をかけるように、胸を天板に強く押し付ける。
(だめ、重たい……! 支えきれない……!)
そう思った瞬間。
私の胸が当たっている部分から、ふわり、とごく微かな光が放たれたのを、私だけが感じた。
すると、先ほどへし折れたはずのテーブルの脚が、まるで逆再生でもしているかのように、ひとりでに元の形へと戻っていく。砕けた木片が吸い寄せられるように繋がり、ひび割れが完全に消え、テーブルはぴたりと、その傾きを止めた。
「…………え?」
目の前で起こった奇跡に、私たちが唖然としている、その頃。
城の向かいの塔の上では、一人の斥候が舌打ちをしていた。
黒装束に身を包んだ魔王軍の斥候、ザイル。
彼の任務は、噂の『聖女』の戦力を探り、脅威度を測ること。
(なんだ、あいつらは……)
ザイルの目には、こう映っていた。
『勇者パーティが、金貨の重みでテーブルを壊す。』
『例の女が、慌てて胸でテーブルを押さえつける。』
『仲間と協力し、なんとかテーブルを元に戻して、ほっと一息ついている。』
そこには、奇跡も魔法も見当たらない。
あるのは、下品な金勘定と、間抜けな事故だけ。
彼がいた位置からは、テーブルの脚が修復した様子も、ましてや、私の胸が放った微かな光など、到底見えるはずもなかった。
(馬鹿馬鹿しい……。『聖女』が戦争を止めたなど、やはり人間の政治的なプロパガンダか。あるいは、何かの偶然が重なっただけのこと)
ザイルは、完全に興味を失った。
この女に、脅威はない。組織を動かしてまで、警戒する必要など微塵もない。
(報告する価値もなし、か)
彼は小さく溜め息をつくと、音もなく闇の中へと姿を消した。
部屋の中では、仲間たちが大騒ぎしていた。
「ルルナ! 今のは……触れただけで物質を原子レベルで再構築する『修復のおっぱい(リペア・バスト)』か!?」
「いえ、ありえません……接着痕も、魔力による溶接の痕跡も皆無……木の繊維が、完全に、繋がっている……? なぜ……?」
シルヴィアさんが、修復されたテーブルの脚を、震える手で撫でている。
私は、ただ首をかしげるばかりだった。
こうして、魔王軍の最初の脅威は、彼らの盛大な勘違いによって、私たちに気づかれることなく去っていった。
私のスキルが、またしても私のあずかり知らぬところで、国だけでなく、私たち自身の命さえも救ったことを、私はまだ知らなかった。
市場での騒動と、最後に感じたあの不気味な視線が、胸に重くのしかかっている。
「さっき、屋根の上に誰かいたような気がして……」
私がそう打ち明けても、ユウキ様は「ファンだよ、ファン!」と笑うだけだった。
シルヴィアさんだけが、「……確かに、ただの視線ではなかったかもしれません。今夜は警戒を強めましょう」と同意してくれたが、それ以上の手掛かりはなかった。
その夜。
私たちは、国王陛下から下賜された褒賞の金貨を、テーブルの上に広げていた。
「すっげえ量だな! これだけありゃ、一生遊んで暮らせるぜ!」
ダインさんが、山となった金貨を嬉しそうにかき混ぜる。
「ふふん、これぞ俺たちの実力よ!」
ユウキ様が胸を張った、その時だった。
ミシッ、と。テーブルが、嫌な音を立てた。
王城の備品である、猫足の優雅なテーブルは、金貨の重みに耐えきれなかったらしい。一本の脚が、根元からへし折れたのだ。
「「「あっ!」」」
テーブルがぐらりと傾き、金貨の山がなだれを打って床にこぼれ落ちそうになる。こんな音を立てれば、衛兵が飛んでくるに違いない。
「ひゃっ!」
私は一番近くにいたため、パニックになりながらも、とっさにテーブルの天板を両手で押さえた。
全体重をかけるように、胸を天板に強く押し付ける。
(だめ、重たい……! 支えきれない……!)
そう思った瞬間。
私の胸が当たっている部分から、ふわり、とごく微かな光が放たれたのを、私だけが感じた。
すると、先ほどへし折れたはずのテーブルの脚が、まるで逆再生でもしているかのように、ひとりでに元の形へと戻っていく。砕けた木片が吸い寄せられるように繋がり、ひび割れが完全に消え、テーブルはぴたりと、その傾きを止めた。
「…………え?」
目の前で起こった奇跡に、私たちが唖然としている、その頃。
城の向かいの塔の上では、一人の斥候が舌打ちをしていた。
黒装束に身を包んだ魔王軍の斥候、ザイル。
彼の任務は、噂の『聖女』の戦力を探り、脅威度を測ること。
(なんだ、あいつらは……)
ザイルの目には、こう映っていた。
『勇者パーティが、金貨の重みでテーブルを壊す。』
『例の女が、慌てて胸でテーブルを押さえつける。』
『仲間と協力し、なんとかテーブルを元に戻して、ほっと一息ついている。』
そこには、奇跡も魔法も見当たらない。
あるのは、下品な金勘定と、間抜けな事故だけ。
彼がいた位置からは、テーブルの脚が修復した様子も、ましてや、私の胸が放った微かな光など、到底見えるはずもなかった。
(馬鹿馬鹿しい……。『聖女』が戦争を止めたなど、やはり人間の政治的なプロパガンダか。あるいは、何かの偶然が重なっただけのこと)
ザイルは、完全に興味を失った。
この女に、脅威はない。組織を動かしてまで、警戒する必要など微塵もない。
(報告する価値もなし、か)
彼は小さく溜め息をつくと、音もなく闇の中へと姿を消した。
部屋の中では、仲間たちが大騒ぎしていた。
「ルルナ! 今のは……触れただけで物質を原子レベルで再構築する『修復のおっぱい(リペア・バスト)』か!?」
「いえ、ありえません……接着痕も、魔力による溶接の痕跡も皆無……木の繊維が、完全に、繋がっている……? なぜ……?」
シルヴィアさんが、修復されたテーブルの脚を、震える手で撫でている。
私は、ただ首をかしげるばかりだった。
こうして、魔王軍の最初の脅威は、彼らの盛大な勘違いによって、私たちに気づかれることなく去っていった。
私のスキルが、またしても私のあずかり知らぬところで、国だけでなく、私たち自身の命さえも救ったことを、私はまだ知らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる