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第一章 エルフの森の試練
第14話 薬草庫の夜警
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夜が更け、森の中は静寂に包まれた。月の光が薬草庫の屋根を淡く照らし、冷たい風が木々の間を揺らしている。俺は近くの茂みに身を潜め、じっと息を殺していた。元無職の50代男が、異世界でエルフの体を持ち、薬草庫を荒らす犯人を突き止めるために罠を仕掛けて張り込んでいるわけだ。
「準備はできましたか?」
隣に潜むライルが緊張を滲ませた低い声で俺に尋ねた。彼の仲間である数名のエルフも、少し離れた茂みで息を殺しているのが気配で分かる。
「ああ、罠は仕掛けた。あとはお客さんが来るのを待つだけだ」
俺たちが仕掛けたのは殺傷能力のない三種の罠だ。細い糸に鈴をつけた音鳴らしの罠。踏むと軽く絡みつく足留めの罠。そして動物が好む薬草をあえて外に置いて誘き寄せる匂いの誘引。これで、相手の正体を探る。
静かな時間が、まるで水底に沈んでいくように過ぎていく。森の中では小さな虫の羽音や遠くで鳴く夜鳥の声が微かに響くだけだった。
(本当に来るのか……?)
そんな疑念が浮かびかけた、その瞬間——。
カサッ。
茂みが揺れるかすかな音。俺は反射的に身を低くし、音のした方向に視線を向けた。小さな影が月明かりの下をすばやく動いている。
「……来たぞ」
俺の囁きにライルが息を呑む。影は罠の区域へと慎重に足を踏み入れた。
チリン、と鈴が微かな音を立てる。影は驚いて一瞬動きを止めたが、すぐに体勢を立て直し、薬草庫へと向かおうとした。その正体は月光を浴びて淡い金色に輝く毛並みを持つ、一匹の狐だった。
「……魔法キツネ?」
ライルが驚きの声を漏らした。
「知ってるのか?」
「ええ。おそらく、『霧隠れのフォックス』と呼ばれる種です。非常に知能が高く、人間の言葉を理解する個体もいるとか。ですが、彼らが人里の薬草を盗むなど、聞いたことがありません……」
俺はその魔法キツネの動きを注意深く観察した。確かに、ひどく慎重に辺りを警戒している。だが、その動きにはどこか必死さがにじんでいた。
「……こいつ、薬草を食べるために盗んでいるんじゃないな」
俺はそこで、あることに気がついた。魔法キツネの金色の毛並みの一部が乱れ、そこが黒く汚れている。よく見れば、浅いが痛々しい傷が無数に走っていたのだ。
「もしかすると群れからはぐれて、森の魔獣にでも襲われたのかもしれません」
ライルの言葉に俺は改めて魔法キツネを見つめた。
「だとすれば、ただ追い払うだけじゃ問題の解決にはならない。……治療が必要なんだ」
俺は静かに立ち上がり、ゆっくりと魔法キツネに近づいた。キツネは鋭く警戒心を強めたが、すぐには逃げ出さなかった。俺から敵意が感じられないことを、その知性で理解しているようだった。
「お前……その傷の手当てのために薬草が必要なのか?」
俺が低く、優しく声をかけると、魔法キツネは一瞬、動きを止めた。そして、その大きな瞳が懇願するように俺を見つめてくる。
俺はゆっくりと膝をつき、何も持っていない手のひらを魔法キツネに差し出した。
「大丈夫だ。俺が助けてやる」
魔法キツネはしばらく俺を見つめていたが、やがて恐る恐る、その小さな一歩を俺の方へと踏み出した。この夜、俺はただの賢者の候補者としてではなく、この森に生きる者として、初めて誰かを守ることを決意した。
「準備はできましたか?」
隣に潜むライルが緊張を滲ませた低い声で俺に尋ねた。彼の仲間である数名のエルフも、少し離れた茂みで息を殺しているのが気配で分かる。
「ああ、罠は仕掛けた。あとはお客さんが来るのを待つだけだ」
俺たちが仕掛けたのは殺傷能力のない三種の罠だ。細い糸に鈴をつけた音鳴らしの罠。踏むと軽く絡みつく足留めの罠。そして動物が好む薬草をあえて外に置いて誘き寄せる匂いの誘引。これで、相手の正体を探る。
静かな時間が、まるで水底に沈んでいくように過ぎていく。森の中では小さな虫の羽音や遠くで鳴く夜鳥の声が微かに響くだけだった。
(本当に来るのか……?)
そんな疑念が浮かびかけた、その瞬間——。
カサッ。
茂みが揺れるかすかな音。俺は反射的に身を低くし、音のした方向に視線を向けた。小さな影が月明かりの下をすばやく動いている。
「……来たぞ」
俺の囁きにライルが息を呑む。影は罠の区域へと慎重に足を踏み入れた。
チリン、と鈴が微かな音を立てる。影は驚いて一瞬動きを止めたが、すぐに体勢を立て直し、薬草庫へと向かおうとした。その正体は月光を浴びて淡い金色に輝く毛並みを持つ、一匹の狐だった。
「……魔法キツネ?」
ライルが驚きの声を漏らした。
「知ってるのか?」
「ええ。おそらく、『霧隠れのフォックス』と呼ばれる種です。非常に知能が高く、人間の言葉を理解する個体もいるとか。ですが、彼らが人里の薬草を盗むなど、聞いたことがありません……」
俺はその魔法キツネの動きを注意深く観察した。確かに、ひどく慎重に辺りを警戒している。だが、その動きにはどこか必死さがにじんでいた。
「……こいつ、薬草を食べるために盗んでいるんじゃないな」
俺はそこで、あることに気がついた。魔法キツネの金色の毛並みの一部が乱れ、そこが黒く汚れている。よく見れば、浅いが痛々しい傷が無数に走っていたのだ。
「もしかすると群れからはぐれて、森の魔獣にでも襲われたのかもしれません」
ライルの言葉に俺は改めて魔法キツネを見つめた。
「だとすれば、ただ追い払うだけじゃ問題の解決にはならない。……治療が必要なんだ」
俺は静かに立ち上がり、ゆっくりと魔法キツネに近づいた。キツネは鋭く警戒心を強めたが、すぐには逃げ出さなかった。俺から敵意が感じられないことを、その知性で理解しているようだった。
「お前……その傷の手当てのために薬草が必要なのか?」
俺が低く、優しく声をかけると、魔法キツネは一瞬、動きを止めた。そして、その大きな瞳が懇願するように俺を見つめてくる。
俺はゆっくりと膝をつき、何も持っていない手のひらを魔法キツネに差し出した。
「大丈夫だ。俺が助けてやる」
魔法キツネはしばらく俺を見つめていたが、やがて恐る恐る、その小さな一歩を俺の方へと踏み出した。この夜、俺はただの賢者の候補者としてではなく、この森に生きる者として、初めて誰かを守ることを決意した。
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