50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
53 / 84
第二章 ロルディアの影

第53話 影の異形、再び

しおりを挟む
 仮面の男は霧と共に姿を消した。
 足元に転がる仮面の破片と残された魔力の残滓。わずかだが、確かに手応えはあった。だが、それ以上に確信も得た。

「……あの男、ヴァルディスと深く繋がっている。スレイン丘陵はやつらの拠点だ」

 俺の言葉にヴェルナーもうなずく。

「ここまで鮮やかに現れ、撤退したとなると、この周辺に魔術陣か隠れ拠点があるのは間違いない。だが、今の戦力では索敵に限界がある。いったんギルドへ戻って、魔力探知や追跡に長けたメンバーを加えた調査班を再編成する」

 セリスは剣を収め、小さく息をついた。

「体力も充分ですし、確実な手順でいきましょう。私も準備は整えられます」

 全員がうなずき、帰還の準備を整え始めた——そのとき。

「……くる」

 ルナの耳がぴくりと動いた。ふさふさの尾を丸め、背を低くして震える。

 異様な気配と共に黒い靄が地面から滲み出るように現れた。それは人の形を模した、だが明らかに人ではない何か。長く伸びた手足、顔のない影。——影の異形。

「しまった、逃げたんじゃない……!」

 ヴェルナーが素早く構える。が、異形は音もなく地を這い、まずはガルドに飛びかかった。

「っく!」

 ガルドの巨大な盾が異形の一撃を受け止めるも、重い打撃に身体ごと吹き飛ばされる。続いてミリアが風の足運びで横へ跳ぶが、異形の腕がかすめて鎧を裂いた。
 ヴェルナーも斬りかかるが、異形はその動きすら先読みしたかのように滑らかにかわし、逆に爪で肩口を切り裂いた。
 すぐに俺たちが飛び込む。

「エルン、ヴェルナーを!」

「了解……!」

 エルンは即座に精霊に呼びかける。

「光の精霊リュミエールよ。我が魔力を代償とし彼を守る盾となれ——聖域の閃壁セイクリッド・バリア!」

 淡い金光の膜がヴェルナーを包み、異形の追撃を防ぐ。

「セリス!」

「いきます!」

 セリスの剣が異形の脇腹を切り裂く。さらに異形の連撃を受け流し、間合いを詰めて斬撃を叩き込む。だが、異形の身体はまるで黒い液体のように、その切断面が徐々にふさがっていく。

「効いてる……けど、浅い!」

 俺はすぐに水の精霊を喚び出す。

「水精レヴィアよ! 我が魔力を代償とし粘性の鎧で絡めとれ——流転の雫アクアオーブ!」

 ぶよぶよと粘度の高い水球が異形を包み込み、足の動きを鈍らせる。異形はバランスを崩し、もたついていた。

「エルン、今だ!」

「はいっ——!」

 エルンが狙いを定め、詠唱を開始する。

「光の精霊ルミナよ、我が魔力を代償とし聖なる光の矢を放て——聖光の矢ルミナス・レイ!」
 輝く光線が一直線にほとばしり、異形の胸部を貫いた。

「いくぞ……とどめだ!」

 俺は咆哮と共に詠唱した。

「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち眼前の敵を消し飛ばせ——蒼閃そうせん!」

 青い斬光が閃き、エルンの魔法で弱体化した異形を打ち抜いた。その身体がひときわ強く震え——そして、影の異形は吹き飛ぶようにして霧散した。

 地に膝をつきながら、ガルドがうめく。

「……生きては、いる……が、左腕が……」

「私も、肋骨が……ヒビくらいは……」

 ミリアが苦笑しながら腰を下ろす。

 ヴェルナーも腕を押さえながらうめいた。

「……だが、奴の狙いが見えたな。あの異形、エルフには一度も触れようとしなかった」

 俺とエルンは顔を見合わせる。

「……確かに。エルンにも、セリスにも、俺にも」

「おそらく、ヴァルディスはお前たちを実験体として温存している。捕らえることはしても、傷つけるなと命令されていたのだろう」

 ヴェルナーは静かに仮面の破片を見つめる。

「影の魔術……完成に近づいてるのかもしれん」

 帰還準備が整い、皆が背を向けようとした時、ルナが俺の隣にやって来た。

「……カイン」

「ん?」

「さっきの仮面のひと、いる場所……だいたい、わかった」

 俺は思わずルナの目を見つめた。そこには確信が宿っていた。

「本当か?」

 ルナはこくりとうなずき、その尻尾がゆらりと風に揺れた。

「そこ、すっごく……こわい。気持ち、ざわざわする」

「……ありがとう、ルナ」

 俺はルナの小さな背にそっと手を置く。
 敵は確かに神出鬼没だった。だが、もう、お前らを捉えたぞ。
 被害は大きかったものの、俺は今回の作戦に手ごたえを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...