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第二章 ロルディアの影
第57話 ひとのすがた
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エルンが演習場で光の矢を放ち、セリスが無音の空間を生み出す。
仲間たちが次々と新たな魔法を習得していく中、俺は木陰に腰を下ろし、湯を注いだ湯呑みを片手にぼんやりとその様子を見ていた。
その膝の上に、ふわりと軽い重みが乗る。
「……カイン、ねぇ」
ルナだった。相変わらずふさふさの尻尾を揺らしながら、俺の足に乗ってこちらを見上げてくる。
「なんだ?」
「ルナにも教えてよ。カインが教えてる、すごい魔法」
その声は拗ねたような響きで、けれど真剣でもあった。
「ルナが使う魔法って、感知とか未来視とか、すでにすごいと思うけど……なにか覚えたいのか?」
「うん。でも、それだけじゃ、たりない。エルンみたいに、びしーっ! ってやりたい」
その様子があまりに一生懸命で、俺は思わず笑いながら言った。
「そういえば、俺のいた世界ではな、キツネといえば人間に化けたり、幻を見せたりするって言い伝えがあったんだ」
「……ほんと?」
ルナの耳がぴくんと動いた。瞳がぱっと輝く。そして、声を潜めて、そっと言った。
「じゃあ……内緒ね、カインにだけ教える」
「ん?」
「ルナたちはね。大人になると、人の姿になれるの」
唐突な告白に俺は少し目を見開いた。
「えっ? ほんとに?」
「ほんと。でも、誰にも言っちゃだめなの。ルナたち、むかしから、人間にまぎれて生きるために、この力を使ってきた。冬に食べ物がなくなったときとか、人間に捕まりそうになったとき」
「……なるほど、そういう種族的な理由があるのか」
ルナはこくりとうなずくと、続けた。
「だから、ルナが変身したって知られたら困るの。でも……カインが教えてくれたから変身できたってことにしてくれたら、きっと大丈夫」
俺は小さく笑った。彼女なりに真剣で、なおかつ俺を頼ってくれているのが嬉しかった。
「いいよ。じゃあ、教えたってことにしよう。……でも、どんな姿になるんだ?」
すると、ルナがちょこんと座り直して俺を見つめる。
「ねえ、カイン。どんな姿がいい?」
「え?」
「カインの知ってる人間の女の子とか?」
「女の子か……。うーん……そうだな」
少し悩んでから、冗談めかして言ってみた。
「じゃあ、娘ができたみたいでいいかもな。小さくて元気な子だったら、旅がちょっと楽しくなりそうだ」
「わかった!」
ルナが跳ねるように言った次の瞬間——。眩しい光が彼女の身体を包み込んだ。
その光が収まったとき、そこには見慣れた小さなキツネではなく、淡い金色の髪と青の瞳を持った人間の少女が立っていた。月明かりを受けたその髪はどこかキツネの毛並みの面影を残して輝いていた。
年の頃は十歳ほど。肩にかかる髪はやわらかく、耳元には名残のように小さな獣耳がぴくりと揺れる。
「……できた!」
彼女はそう叫び、ぴょんと跳ねた。
「カイン、これで、もっといっしょに歩けるよ! 剣も使うし、魔法も練習する!」
その口調はこれまでのたどたどしい言葉遣いとは違い、滑らかで流暢だった。
俺が少し驚いていると、ルナは得意げに胸を張る。
「口がね、もう動かしやすいの。キツネのときは言葉、ぜんぶ難しかった。でも今は人間の形だから、ちゃんと話せるの」
「そっか。なるほど、構造的な問題か……」
俺は納得すると同時に少し感慨深さを覚えた。いつの間にか、ルナはこんなにも成長していたのだ。
「じゃあ、これからは人の姿でも一緒に旅をして、時々キツネにもどって休めばいいよ」
「うん! ルナ、これからは魔法使い! エルンたちと一緒に頑張る!」
変身後のルナは満面の笑みで拳を握って見せる。が、その姿をよく見て、俺はようやく重大なことに気がついた。
——服を着ていない。
「……あの、ルナ。ちょ、ちょっと待って! 今、完全に……その、素っ裸だぞ……!」
「え? うん。そうだよ?」
ルナはきょとんとした顔で自分の体を見下ろし、何が問題なのか分からないという様子で首をかしげた。
「毛、ないけど……普通じゃないの? キツネのときも、なにも着てなかったよ?」
「いや、まぁ、そうなんだけど……今は人の姿だろ!? こう、いろいろと常識的に……!」
「カインは変なこと気にするねぇ」
ルナはにっこりと笑い、ぴょんと一回転してみせる。
「これで、ぜんぜん平気。軽いし、動きやすいし」
「だめだ、やっぱり服を着せよう……!」
俺は顔を手で覆いながら、自分の外套を脱ぎ、ルナに渡した。
「これでいいから、せめて今は羽織ってくれ……頼む……」
「カイン、大変だねぇ」
ルナはくすくす笑いながら外套を羽織り、フードをかぶって得意げにポーズをとった。
「でもね、ルナのこと、もっと見てほしいの。ちゃんと仲間なんだって。一緒に戦えるんだって」
「ああ、もちろんさ。これからは魔法キツネのルナじゃなくて、人間の仲間ルナとしても、よろしく頼むよ」
俺は思わず笑いながら、ルナの頭に手を置いた。
「それにしても……エルンやセリスが見たら、絶対びっくりするぞ」
「ふふっ、ぜったい驚くね!」
ルナは楽しそうに笑って、金色の髪をふわりとなびかせた。
小さな魔法キツネが人として、仲間として、新たな一歩を踏み出した。
仲間たちが次々と新たな魔法を習得していく中、俺は木陰に腰を下ろし、湯を注いだ湯呑みを片手にぼんやりとその様子を見ていた。
その膝の上に、ふわりと軽い重みが乗る。
「……カイン、ねぇ」
ルナだった。相変わらずふさふさの尻尾を揺らしながら、俺の足に乗ってこちらを見上げてくる。
「なんだ?」
「ルナにも教えてよ。カインが教えてる、すごい魔法」
その声は拗ねたような響きで、けれど真剣でもあった。
「ルナが使う魔法って、感知とか未来視とか、すでにすごいと思うけど……なにか覚えたいのか?」
「うん。でも、それだけじゃ、たりない。エルンみたいに、びしーっ! ってやりたい」
その様子があまりに一生懸命で、俺は思わず笑いながら言った。
「そういえば、俺のいた世界ではな、キツネといえば人間に化けたり、幻を見せたりするって言い伝えがあったんだ」
「……ほんと?」
ルナの耳がぴくんと動いた。瞳がぱっと輝く。そして、声を潜めて、そっと言った。
「じゃあ……内緒ね、カインにだけ教える」
「ん?」
「ルナたちはね。大人になると、人の姿になれるの」
唐突な告白に俺は少し目を見開いた。
「えっ? ほんとに?」
「ほんと。でも、誰にも言っちゃだめなの。ルナたち、むかしから、人間にまぎれて生きるために、この力を使ってきた。冬に食べ物がなくなったときとか、人間に捕まりそうになったとき」
「……なるほど、そういう種族的な理由があるのか」
ルナはこくりとうなずくと、続けた。
「だから、ルナが変身したって知られたら困るの。でも……カインが教えてくれたから変身できたってことにしてくれたら、きっと大丈夫」
俺は小さく笑った。彼女なりに真剣で、なおかつ俺を頼ってくれているのが嬉しかった。
「いいよ。じゃあ、教えたってことにしよう。……でも、どんな姿になるんだ?」
すると、ルナがちょこんと座り直して俺を見つめる。
「ねえ、カイン。どんな姿がいい?」
「え?」
「カインの知ってる人間の女の子とか?」
「女の子か……。うーん……そうだな」
少し悩んでから、冗談めかして言ってみた。
「じゃあ、娘ができたみたいでいいかもな。小さくて元気な子だったら、旅がちょっと楽しくなりそうだ」
「わかった!」
ルナが跳ねるように言った次の瞬間——。眩しい光が彼女の身体を包み込んだ。
その光が収まったとき、そこには見慣れた小さなキツネではなく、淡い金色の髪と青の瞳を持った人間の少女が立っていた。月明かりを受けたその髪はどこかキツネの毛並みの面影を残して輝いていた。
年の頃は十歳ほど。肩にかかる髪はやわらかく、耳元には名残のように小さな獣耳がぴくりと揺れる。
「……できた!」
彼女はそう叫び、ぴょんと跳ねた。
「カイン、これで、もっといっしょに歩けるよ! 剣も使うし、魔法も練習する!」
その口調はこれまでのたどたどしい言葉遣いとは違い、滑らかで流暢だった。
俺が少し驚いていると、ルナは得意げに胸を張る。
「口がね、もう動かしやすいの。キツネのときは言葉、ぜんぶ難しかった。でも今は人間の形だから、ちゃんと話せるの」
「そっか。なるほど、構造的な問題か……」
俺は納得すると同時に少し感慨深さを覚えた。いつの間にか、ルナはこんなにも成長していたのだ。
「じゃあ、これからは人の姿でも一緒に旅をして、時々キツネにもどって休めばいいよ」
「うん! ルナ、これからは魔法使い! エルンたちと一緒に頑張る!」
変身後のルナは満面の笑みで拳を握って見せる。が、その姿をよく見て、俺はようやく重大なことに気がついた。
——服を着ていない。
「……あの、ルナ。ちょ、ちょっと待って! 今、完全に……その、素っ裸だぞ……!」
「え? うん。そうだよ?」
ルナはきょとんとした顔で自分の体を見下ろし、何が問題なのか分からないという様子で首をかしげた。
「毛、ないけど……普通じゃないの? キツネのときも、なにも着てなかったよ?」
「いや、まぁ、そうなんだけど……今は人の姿だろ!? こう、いろいろと常識的に……!」
「カインは変なこと気にするねぇ」
ルナはにっこりと笑い、ぴょんと一回転してみせる。
「これで、ぜんぜん平気。軽いし、動きやすいし」
「だめだ、やっぱり服を着せよう……!」
俺は顔を手で覆いながら、自分の外套を脱ぎ、ルナに渡した。
「これでいいから、せめて今は羽織ってくれ……頼む……」
「カイン、大変だねぇ」
ルナはくすくす笑いながら外套を羽織り、フードをかぶって得意げにポーズをとった。
「でもね、ルナのこと、もっと見てほしいの。ちゃんと仲間なんだって。一緒に戦えるんだって」
「ああ、もちろんさ。これからは魔法キツネのルナじゃなくて、人間の仲間ルナとしても、よろしく頼むよ」
俺は思わず笑いながら、ルナの頭に手を置いた。
「それにしても……エルンやセリスが見たら、絶対びっくりするぞ」
「ふふっ、ぜったい驚くね!」
ルナは楽しそうに笑って、金色の髪をふわりとなびかせた。
小さな魔法キツネが人として、仲間として、新たな一歩を踏み出した。
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