50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第二章 ロルディアの影

第64話 静けさの果てに、歩む先

 王都の石畳が足元に心地よい重みを伝えてきた。
 幾日ぶりかに戻ったこの街は相変わらず人の声と商人の掛け声に満ちていて、カラスの鳴き声すら懐かしく思えた。

 俺たちはヴァルディスを討った後、残された影の残党を一掃し、遺跡の調査隊と引き継ぎを済ませて王都へ戻ってきた。
 クリスタルの破片と捕らわれていたエルフの記録、そしてヴァルディスが遺した魔術式の写し。すべてがこの戦いの証となる。

 ギルド本部に入ると重傷から復帰したばかりのギルドマスター・ヴェルナーが迎えてくれた。

「戻ったか。……無事で何よりだ」

 その目は少しだけ赤かった。

「討伐は成功。核とおぼしきクリスタルは破壊。ヴァルディスは消滅。被害者の記録と証拠も確保してきた」

 俺が手短に報告するとヴェルナーは静かにうなずいた。

「……よくやった。お前たちがいなければ、この影の災いはもっと広がっていたはずだ。ギルドは今回の働きを公式に記録として残す。王家からも直接の表彰があるだろう」

 報告が終わると俺たちは王都の王宮へ案内された。
 第二王子レオンハルト・ロルディア殿下はあの日のままの理知的な眼差しで、俺たちを迎えてくれた。

「報告はギルドより受けている。君たちの働きに感謝する。……カイン、君は王国を救ったと言っても過言ではない」

「……ありがとうございます」

「この件に関わった貴族、影魔術に加担した者たちについては我が手で粛清を進めるつもりだ。だが、君たちは……少し休むべきだろう」

 そう言われて、俺はようやく背負っていたものが軽くなった気がした。

 ***

 その夜。
 ギルド宿舎の屋上に腰を下ろしていると、静かな足音がした。
 隣に座ったのはエルンだった。風にそよぐ淡い髪が月明かりに溶け込んでいる。

「カイン、お疲れ様。本当に全部……終わったのね」

「そうだな。……実感がわかないくらいには色々あったけど」

 エルンは軽く笑って視線を空に向けた。

「ヴァルディスは静けさを求めていたのね。でも、命を止めてまで得る平穏なんて、私は好きになれないわ」

「ああ。俺もそう思う」

 星のない夜空が静かに広がっていた。

 続いて現れたのはルナだった。人の姿で小さな包みを抱え、ふわりと俺の膝に腰を下ろす。

「カイン、おやつ持ってきた! 頑張ったから、ごほうび!」

「結局それか……まあ、ありがとな」

「うん! ルナもいっぱい頑張った!」

 その笑顔はどこまでも無邪気で、でも確かに強くなっていた。

 少し遅れてセリスも屋上に現れた。手には温かい紅茶のカップが二つ。

「私からも。……皆さん、お疲れ様でした」

「セリスこそな。よくあんな化け物相手に盾を構えて立ってられたもんだ」

「ふふっ……カイン殿のおかげで、恐れる暇もなかったのかもしれません」

 誰も欠けずに終えられた戦い。それが何よりの奇跡だった。

 夜が更け、屋上の空気も少しずつ冷えてくる。

「ねえ、カイン。これから先は何をするの?」

 エルンがぽつりと問う。

「そうだな……まだ決めてない。でも、このまま何もせずにはいられないだろうな。今までみたいに旅をしながら人を助けて、戦って……それが俺のやれることだと思う」

 皆、静かにうなずいた。

「ルナも行くー! ぜったい行くー!」

「私も、同行させていただきます」

「じゃあ、また四人で……出発ですね」

 その瞬間、ふと頭の中に冗談めいた口調で声が響いた。

『まったく、面倒見が良すぎるのではないか、カインよ』

「……カイランか。出てくるの遅いよ」

『私が知恵を貸すまでもなく、正しい道を選んだな』

「そうか?」

『ああ。ヴァルディスの誘いにも乗らず、誰も見捨てなかった。何より、同胞の悲劇を止めたのだからな』

 その言葉にほんの少し胸の奥が温かくなる。

「じゃあ……これからも一緒に頼むよ、賢者カイラン」

『もちろん。ようやくお前に興味を持ち始めたところだ』

(長命のエルフってやつはこれだから……)

 振り返れば、俺、竹内悟志は――。50代で、何も成せず、終わったと思っていた。
 だが今は違う。この世界で俺は生きている。

「——さあ、行こう。俺たちで、世界をざわつかせてやるんだ」

 その声に仲間たちが笑った。

第二章・完
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