64 / 330
第二章 ロルディアの影
第64話 静けさの果てに、歩む先
王都の石畳が足元に心地よい重みを伝えてきた。
幾日ぶりかに戻ったこの街は相変わらず人の声と商人の掛け声に満ちていて、カラスの鳴き声すら懐かしく思えた。
俺たちはヴァルディスを討った後、残された影の残党を一掃し、遺跡の調査隊と引き継ぎを済ませて王都へ戻ってきた。
クリスタルの破片と捕らわれていたエルフの記録、そしてヴァルディスが遺した魔術式の写し。すべてがこの戦いの証となる。
ギルド本部に入ると重傷から復帰したばかりのギルドマスター・ヴェルナーが迎えてくれた。
「戻ったか。……無事で何よりだ」
その目は少しだけ赤かった。
「討伐は成功。核とおぼしきクリスタルは破壊。ヴァルディスは消滅。被害者の記録と証拠も確保してきた」
俺が手短に報告するとヴェルナーは静かにうなずいた。
「……よくやった。お前たちがいなければ、この影の災いはもっと広がっていたはずだ。ギルドは今回の働きを公式に記録として残す。王家からも直接の表彰があるだろう」
報告が終わると俺たちは王都の王宮へ案内された。
第二王子レオンハルト・ロルディア殿下はあの日のままの理知的な眼差しで、俺たちを迎えてくれた。
「報告はギルドより受けている。君たちの働きに感謝する。……カイン、君は王国を救ったと言っても過言ではない」
「……ありがとうございます」
「この件に関わった貴族、影魔術に加担した者たちについては我が手で粛清を進めるつもりだ。だが、君たちは……少し休むべきだろう」
そう言われて、俺はようやく背負っていたものが軽くなった気がした。
***
その夜。
ギルド宿舎の屋上に腰を下ろしていると、静かな足音がした。
隣に座ったのはエルンだった。風にそよぐ淡い髪が月明かりに溶け込んでいる。
「カイン、お疲れ様。本当に全部……終わったのね」
「そうだな。……実感がわかないくらいには色々あったけど」
エルンは軽く笑って視線を空に向けた。
「ヴァルディスは静けさを求めていたのね。でも、命を止めてまで得る平穏なんて、私は好きになれないわ」
「ああ。俺もそう思う」
星のない夜空が静かに広がっていた。
続いて現れたのはルナだった。人の姿で小さな包みを抱え、ふわりと俺の膝に腰を下ろす。
「カイン、おやつ持ってきた! 頑張ったから、ごほうび!」
「結局それか……まあ、ありがとな」
「うん! ルナもいっぱい頑張った!」
その笑顔はどこまでも無邪気で、でも確かに強くなっていた。
少し遅れてセリスも屋上に現れた。手には温かい紅茶のカップが二つ。
「私からも。……皆さん、お疲れ様でした」
「セリスこそな。よくあんな化け物相手に盾を構えて立ってられたもんだ」
「ふふっ……カイン殿のおかげで、恐れる暇もなかったのかもしれません」
誰も欠けずに終えられた戦い。それが何よりの奇跡だった。
夜が更け、屋上の空気も少しずつ冷えてくる。
「ねえ、カイン。これから先は何をするの?」
エルンがぽつりと問う。
「そうだな……まだ決めてない。でも、このまま何もせずにはいられないだろうな。今までみたいに旅をしながら人を助けて、戦って……それが俺のやれることだと思う」
皆、静かにうなずいた。
「ルナも行くー! ぜったい行くー!」
「私も、同行させていただきます」
「じゃあ、また四人で……出発ですね」
その瞬間、ふと頭の中に冗談めいた口調で声が響いた。
『まったく、面倒見が良すぎるのではないか、カインよ』
「……カイランか。出てくるの遅いよ」
『私が知恵を貸すまでもなく、正しい道を選んだな』
「そうか?」
『ああ。ヴァルディスの誘いにも乗らず、誰も見捨てなかった。何より、同胞の悲劇を止めたのだからな』
その言葉にほんの少し胸の奥が温かくなる。
「じゃあ……これからも一緒に頼むよ、賢者カイラン」
『もちろん。ようやくお前に興味を持ち始めたところだ』
(長命のエルフってやつはこれだから……)
振り返れば、俺、竹内悟志は――。50代で、何も成せず、終わったと思っていた。
だが今は違う。この世界で俺は生きている。
「——さあ、行こう。俺たちで、世界をざわつかせてやるんだ」
その声に仲間たちが笑った。
第二章・完
幾日ぶりかに戻ったこの街は相変わらず人の声と商人の掛け声に満ちていて、カラスの鳴き声すら懐かしく思えた。
俺たちはヴァルディスを討った後、残された影の残党を一掃し、遺跡の調査隊と引き継ぎを済ませて王都へ戻ってきた。
クリスタルの破片と捕らわれていたエルフの記録、そしてヴァルディスが遺した魔術式の写し。すべてがこの戦いの証となる。
ギルド本部に入ると重傷から復帰したばかりのギルドマスター・ヴェルナーが迎えてくれた。
「戻ったか。……無事で何よりだ」
その目は少しだけ赤かった。
「討伐は成功。核とおぼしきクリスタルは破壊。ヴァルディスは消滅。被害者の記録と証拠も確保してきた」
俺が手短に報告するとヴェルナーは静かにうなずいた。
「……よくやった。お前たちがいなければ、この影の災いはもっと広がっていたはずだ。ギルドは今回の働きを公式に記録として残す。王家からも直接の表彰があるだろう」
報告が終わると俺たちは王都の王宮へ案内された。
第二王子レオンハルト・ロルディア殿下はあの日のままの理知的な眼差しで、俺たちを迎えてくれた。
「報告はギルドより受けている。君たちの働きに感謝する。……カイン、君は王国を救ったと言っても過言ではない」
「……ありがとうございます」
「この件に関わった貴族、影魔術に加担した者たちについては我が手で粛清を進めるつもりだ。だが、君たちは……少し休むべきだろう」
そう言われて、俺はようやく背負っていたものが軽くなった気がした。
***
その夜。
ギルド宿舎の屋上に腰を下ろしていると、静かな足音がした。
隣に座ったのはエルンだった。風にそよぐ淡い髪が月明かりに溶け込んでいる。
「カイン、お疲れ様。本当に全部……終わったのね」
「そうだな。……実感がわかないくらいには色々あったけど」
エルンは軽く笑って視線を空に向けた。
「ヴァルディスは静けさを求めていたのね。でも、命を止めてまで得る平穏なんて、私は好きになれないわ」
「ああ。俺もそう思う」
星のない夜空が静かに広がっていた。
続いて現れたのはルナだった。人の姿で小さな包みを抱え、ふわりと俺の膝に腰を下ろす。
「カイン、おやつ持ってきた! 頑張ったから、ごほうび!」
「結局それか……まあ、ありがとな」
「うん! ルナもいっぱい頑張った!」
その笑顔はどこまでも無邪気で、でも確かに強くなっていた。
少し遅れてセリスも屋上に現れた。手には温かい紅茶のカップが二つ。
「私からも。……皆さん、お疲れ様でした」
「セリスこそな。よくあんな化け物相手に盾を構えて立ってられたもんだ」
「ふふっ……カイン殿のおかげで、恐れる暇もなかったのかもしれません」
誰も欠けずに終えられた戦い。それが何よりの奇跡だった。
夜が更け、屋上の空気も少しずつ冷えてくる。
「ねえ、カイン。これから先は何をするの?」
エルンがぽつりと問う。
「そうだな……まだ決めてない。でも、このまま何もせずにはいられないだろうな。今までみたいに旅をしながら人を助けて、戦って……それが俺のやれることだと思う」
皆、静かにうなずいた。
「ルナも行くー! ぜったい行くー!」
「私も、同行させていただきます」
「じゃあ、また四人で……出発ですね」
その瞬間、ふと頭の中に冗談めいた口調で声が響いた。
『まったく、面倒見が良すぎるのではないか、カインよ』
「……カイランか。出てくるの遅いよ」
『私が知恵を貸すまでもなく、正しい道を選んだな』
「そうか?」
『ああ。ヴァルディスの誘いにも乗らず、誰も見捨てなかった。何より、同胞の悲劇を止めたのだからな』
その言葉にほんの少し胸の奥が温かくなる。
「じゃあ……これからも一緒に頼むよ、賢者カイラン」
『もちろん。ようやくお前に興味を持ち始めたところだ』
(長命のエルフってやつはこれだから……)
振り返れば、俺、竹内悟志は――。50代で、何も成せず、終わったと思っていた。
だが今は違う。この世界で俺は生きている。
「——さあ、行こう。俺たちで、世界をざわつかせてやるんだ」
その声に仲間たちが笑った。
第二章・完
あなたにおすすめの小説
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!