50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
80 / 84
第三章 戦王の咆哮

第80話 賢者の力

しおりを挟む
 戦場に立つグロム・ザルガスの巨体は、まるで動く要塞だった。その目には静かな興奮の色が宿っている。

「来たか……小僧ども」

 重く響く声に俺は剣を構えながら応じた。

「ああ。お前に勝つための準備は整った。今度は俺たちが仕留める」

 グロムの口元がつり上がる。

「なら見せてもらおうか……その備えとやらを」

 互いが武器を構え、戦いの合図を待っているようだった。

 その時、風が吹いた。
 空気が震えるほどの威圧感に包まれる中、セリスが動き出す。
 静かに一歩前に出たセリス。彼女は深く息を吸い、心の奥の波を静めていく。殺気を抑え、研ぎ澄まされた意識だけが残る。

(……訓練で的を斬りつけるように、鎧の隙間を目掛けて、無心に斬りつける)

 セリスは風哭ふうこくを構え、ひとつ深く踏み込んだ。
 殺気がこもらぬ斬撃にグロムの反応がわずかに遅れる。先の戦いではカウンターをかぶせるように襲ってきた斧も今は防御にまわっていた。

「……恐怖せず、殺気も感じさせぬとは……見えぬものだな――」

 グロムの言葉が終わる前にセリスの後方に控えていたルナが攻撃を開始する。

「よーし、ここで火の出番っ!」

 放たれた火炎魔法がグロムの顔を目掛けて飛んでいく。
 飛んで行った火の玉はグロムの目の前で弾け、火の粉を舞い上げた。グロムの視界は歪んだように揺らめいてセリスを見失う。

「つまらん小細工だ……だが……」

 グロムは意識を集中させ、セリスの挙動を追った。

 俺の狙い通り、グロムの意識はセリスやルナに向けられたのだ。
 そのときだった。エルンと俺は握りしめていた魔石を触媒に詠唱を開始する。

「風の精霊シルフィードよ、我が魔力と魔石を代償とし風の檻を成せ——風の戒めウィンド・バインド!」

「水精レヴィアよ、 我が魔力と魔石を代償とし重たき水をまとわせろ! 流転の雫アクアオーブ!」

 エルンの詠唱とともに竜巻のような風がグロムの足元から立ち上がり彼を取り巻いた。さらにその中心から粘性のある水が現れ、魔力の粘流がグロムを包み込んだ。
 俺の魔法が風と絡み合い、渦と水の束縛がグロムの動きを封じていく。

「む……っ、……今度は強力な拘束魔法か」

 動きを制限されたグロムから発動魔法の気配が消え去っていく。
 セリスはその変化を見逃さなかった。

「斧の魔力が……薄れてる!」

 彼女は疾風のように駆け出し、愛剣『風哭ふうこく』を振り抜いた。
 その一撃が魔力の流れが乱れた斧の柄に叩き込まれ——。

 ガギィンッ!

 金属が砕ける音が響いた。柄が折れ、斧は魔法の力を失って重い塊と化した。
 鎧の魔力も次第に鈍っていく。セリスは一気に間合いを詰め、胸元を狙って『風哭ふうこく』を突き入れようとする。

「はぁあああっ!」

 だが、グロムの体が爆発的な力を解き放つ。拘束を部分的に引き剥がし、何とか利き腕だけを自由にする。

「まだだ!」

 グロムの胸に剣が突き刺さる直前、素手で刃を受け止めた。

「くっ……これ以上、押し切れない……!」

 セリスの腕が震える。それでも諦めない瞳がグロムを見据える。
 その瞬間だった。

「エルン、いけるか!」

「もちろん!」

「ウンディーヴァよ、蒼き閃光を放ち眼前の敵を撃て——蒼閃そうせん!」

「イルディアよ、終わりの光を束ね獣魔を灰塵と化せ——終光ラスト・レイ!」

 蒼き斬光と紫の閃光、二つの魔法が交差する。

「……間に合わぬ……ッ!」

 グロムは掴んでいたセリスの剣を放り投げ、全身で拘束を振りほどこうとするが、完全には間に合わない。

 蒼閃そうせんがわき腹を、終光ラスト・レイが右肩を撃ち抜いた。

「ぐおおおおおおおおおっ!!!」

 肉がえぐれ、鎧を貫いた衝撃にグロムの膝が沈む。
 彼はしばしうずくまり、血と汗に塗れた顔をわずかに上げた。

「……見事だ、小僧ども……」

 その言葉には誇りと敗北が混じっていた。
 斧は地面に落ち、鎧は音を立ててひび割れていた。

「……負けたのか……」

 戦場に、一瞬の静寂が訪れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...