50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第六章 ロルディアの動乱

第119話 死の報せ、揺れる王都

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 ――その知らせはフェルシアの朝を震わせた。

「……ロルディア国王、崩御ほうぎょ

 文を受け取ったリゼリアがそうつぶやいたとき、周囲の空気が凍りついたように感じた。

「つい先日まで病に伏していたとは聞いていましたが……あまりに突然すぎます」

 集会所に集められた面々が静まり返る中、リゼリアの声だけが木製の柱に反響するように落ちていく。

「本当に病死なのか?」

 俺の口から思わず漏れた言葉に誰も答えなかった。

「病死かもしれない。でも……都合が良すぎる」

 セリスが沈んだ声で言った。
 彼女はエルフェンリートから戻ったばかりで、報告任務の途中だった。道中で届いた王都からの急報を携えて、俺たちのもとに現れたのだ。

「第一王子アーレストはすでに王位継承の準備を始めているそうです。そして……ヴィンドールが正式に『王政顧問』に任じられたとも」

「ヴィンドールが……?」

 俺は思わず拳を握る。あの男の名を聞くだけで胸の奥が冷えるような感覚が走る。

「カイン殿」

 セリスがこちらを見据えた。

「これから王都では反異種族、そして異端に対する政策が動き出す可能性があります。すでに都市周辺のエルフやドワーフに対して、露骨な監視や排斥はいせきの動きが起きているとの報告も」

 その言葉を聞いたエルンが静かに息を吸い込んだ。

「つまり……ヴィンドールとアーレストは本格的に種族の選別に乗り出すつもりなのね」

「そういうことだろうな」

 俺は低くつぶやいた。

「フェルシアは今のところ安全圏ですが……この流れが広がれば、いつこちらにも波が来るか分からない状況です」

 セリスの声に誰も反論できなかった。

 そんな中、扉がノックされた。

「失礼します。第二王子陣営より、使者が来訪しております」

 リゼリアが眉を寄せ、目で俺たちを促す。

 応接室に通された使者は年若いが理知的な雰囲気を持つ男だった。銀縁の眼鏡と質素な衣服。どこかで見覚えがある気がしたが、彼は丁寧に頭を下げると、はっきりと告げた。

「カイン殿、ならびにご一行の皆さま。ロルディア第二王子、レオンハルト殿下よりご伝言を預かってまいりました」

「……レオンハルト王子から?」

 俺の眉が自然とひそまる。

 使者はうなずいた。

「はい。殿下は『ロルディア王国がこのまま第一王子の手に落ちれば、思想をたがえる者や異種族の者たちは公的に排除されるだろう』と憂慮ゆうりょされています」

 言葉を切り、彼は続けた。

「そして、貴殿——カイン殿はヴィンドールの視点では、世界の秩序を乱す異物として既に名指しされています」

「……」

 俺は言葉を返せなかった。わかっていた。いつか、こうなることは。

 使者は懐から文書を取り出した。封印のしるしは確かにレオンハルトのものだった。

「殿下は言われました。『もし、私に力を貸してくれるのであれば、貴殿に対する追放処分を撤回するよう動き、フェルシアの自治を保証する』と」

 その条件は俺にとって魅力的なものだった。

「だが……戦争に加担しろってことだよな?」

 俺が問うと、使者は静かにうなずいた。

「殿下は、あなたに命じるのではなく、選んでほしいと仰っています。カイン殿の行動にはこの世界の未来を左右する力があると……」

 静まり返る室内。それを破ったのはルナの声だった。

「……そんなのって変だよ。カインが何をしたっていうの? 誰よりも、この世界のことを考えて頑張ってるのに…!」

 その言葉にエルンがゆっくりと口を開く。

「……それでも、世界は誰が正しいかより、誰が都合がいいかで動くのよ」

 彼女の声には冷たい現実を受け入れた強さがあった。

 使者は深く一礼し、部屋を辞した。
 残された沈黙の中で俺は深く息を吸い込んだ。

(争いは望まない——だが)

 セリスが俺を見つめていた。
 言葉はなかったが、その視線は語っていた。——どんな立場であっても、選ばなければならない時があるのだと。
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