50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第六章 ロルディアの動乱

第121話 選択の代償

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 翌朝、空はどこまでも澄みわたっていた。
 まるで、昨夜の葛藤など存在しなかったかのように——。
 だが、俺の中に残る重さは消えなかった。

 フェルシアの集会所。第二王子レオンハルトの使者が再び訪れていた。

「……決めた」

 俺は使者の前で静かにそう告げた。

「俺は殿下の申し出を受ける。レオンハルト陣営に協力する」

 使者の眼差しがわずかに揺れる。だがすぐに深い敬意と安堵を込めた礼を返してきた。

「この判断、王子殿下にとっても大きな力となります。ありがとうございます、カイン殿」

 だが俺は礼には応えず、淡々と続けた。

「ただし、俺は『精霊との共存』を貫く。命じられたから戦うんじゃない。……俺自身の立場を、自分と仲間たちの居場所を守るために俺は戦うんだ」

 言葉に力を込めると、使者は静かにうなずいた。

「その覚悟、しかと受け取りました。準備が整い次第、前線の連絡地へとご案内します」

「その前に、一つ確認させてくれ。王が亡くなってから、レオンハルト殿下はどう動いた?」

 使者はうなずき、静かに語り始めた。

「王の死後、第一王子による即位とヴィンドールの顧問就任に異議を唱えた殿下は王都を離脱。志を同じくする貴族や近衛兵と共に南方の軍事拠点レストリア砦にて陣営を築かれました」

「逃げたわけじゃない、守るために拠点を移したんだな」

「はい。殿下は当初、王都との対話を模索されていましたが、反精霊政策と異種族排斥はいせきが進む中、それも限界だと判断されたのです。現在ではドワーフ王国との同盟を確立し、排斥された者たちを受け入れる体制を築かれています」

 その説明に俺は深くうなずいた。

「分かった。俺はその『守る側』に加わる。俺たちにはそれを選ぶ理由がある」

 そのとき、ルナが駆け込んできた。

「カイン、本当に……決めちゃったんだね」

「ああ」

 言葉を返す俺の声は驚くほど静かだった。

「……怖い?」

「怖いさ。でも、何もできなかったって悔やむ方が俺はもっと怖い」

 ルナはしばらく俺を見つめ、ぽつりとつぶやいた。

「カインって、やっぱり、かっこいいね」

「お前に言われると、ちょっとだけ救われるよ」

「うん、カインのそばにいてよかった」

 そこへエルンも現れる。

「レストリア砦までは三日の行程。護衛も手配されるそうよ」

「ありがとう、エルン」

「当然、私も行くわ。戦うためじゃなく、あなたの決断を見届けるために」

「もちろん。俺たちはずっと一緒だ」

 そのやり取りを見ていたセリスが一歩前へ出た。

「私は……カイン殿とはここで別れます」

「……セリス」

 彼女は真っすぐこちらを見据えて言う。

「森で支持者と話をした後、第二王子軍と接触し、森の状況を伝えるつもりです」

「この状況下だ……一緒に来てくれても、かまわないんだぞ」

「カイン殿、私はグロム・ザルガスと対峙する時、多くの兵たちと共に前線に立ちました。このまま軍に加われば、あの時背中を預け合った兵たちと剣を交えることになるかもしれない。私はそれを……できれば避けたい」

 その声に誰も言葉を挟めなかった。

「それに私は別の形でも戦えます。カイン殿が信じる未来に別の場所から力を送る。そう決めました」

「……ありがとう、セリス」

「また会えます。今度は平和な世界で」

 そのとき、リゼリアが駆け込んできた。

「第一王子軍の一部が『魔術統制令』を理由に周辺集落への立ち入りを開始しました!」

「ヴィンドールの法案か……」

「精霊との交信記録を提出しない者を監視対象とし、抵抗すれば拘束もあり得るとのことです」

 俺の中で何かが静かに燃え始めていた。

「つまり、俺たちそのものが標的ってことか」

 もう迷いはなかった。

「準備を整えてくれ。出るぞ」

「了解です!」

 リゼリアが駆けていく。その背を見送りながらエルンがつぶやいた。

「争いはもう始まっているのね……」

「ああ。だからこそ、俺たちはどう生きるかを選ばないといけない」

 ——俺はもう、流される側じゃない。異物と呼ばれようと俺は俺の信じる道を選ぶ。
 そして、守る。俺自身と、俺の仲間たちと、この世界の未来を。
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