50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第六章 ロルディアの動乱

第124話 カイランとネフィラ

 ネフィラ――。彼女と向き合う。そう決めた俺の胸の奥に意識の波が静かに広がっていく。
 その中心で、あの声が応えた。

『……カイン。どうやら、お前は決めたようだな』

 カイラン——俺の内に宿るエルフの賢者。その声は夜明けとともに差し込む光のように俺の思考に入ってきた。

『少し長い話になるが……聞く覚悟はあるか?』

 マルヴェスの口から明かされた名——ネフィラ・ヴァレリオ。その正体を知るため、俺はうなずいた。

『ネフィラは、もとはヴィンドールに弟子入りしていた優秀なエルフだった。理論と実践の両面に秀で、信頼も厚かった。だが……ヴィンドールの理想に傾倒するあまり、次第に異論を唱える者への攻撃性を強めていった』

「……攻撃性、か」

『異端とみなした者を排除するようになり、ついには汚れ仕事を任されるようになった。だが、仕事をこなすうちに自分の魔力と技量では限界があると感じたのだろう。やがて、禁術に手を出すようになった』

「それが……精神干渉か」

『ああ。人の心をねじ曲げ、忠誠や恐怖を強制する禁術だ。精霊と共に生きる者として、最も忌避される術。ある貴族を洗脳したことで、ついにその事実が明るみに出た』

 俺は口をはさんだ。

「……お前、そこまで詳しく知ってて、なんで手を打たなかったんだ? ネフィラがそんな危険な奴だって分かってたんだろ?」

 しばし沈黙があったのち、カイランは静かに、少しだけ誇らしげに答えた。

『……本人は知るまいが、彼女の禁術使用を最初に暴いたのは私だ。追放のきっかけを作ったのは他でもない』

「……そうか」

『だが……その後、彼女が魔族領に渡ってからの詳細までは私も把握していない。私の観測領域を超えてしまったからな』

「……なら、なんで警戒しなかった?」

『……自分で言うのも何だが、当時の私の実力は明らかに彼女を凌駕りょうがしていた。彼女の思想や危険性を理解はしていたが、直接的な脅威としては……正直、軽視していたと言わざるを得ない』

 その言葉には少なからぬ悔いがにじんでいた。

 俺はしばらく黙って空を見上げた。霧がわずかに晴れ、朝日が地平を照らし始めている。

「……じゃあ、今の彼女は?」

『魔族領で闇の精霊魔術を研究し、上位の闇の精霊と契約を結んだかもしれん。そうなれば闇に身を溶かし、気配すら断ち、毒や恐怖を操る脅威そのものになっているかもしれん』

「そこまでの脅威に……」

『彼女は今もヴィンドールに心酔しているのだろう。理想の実現のためと信じ、命令がなくとも良かれと思って動く。その暴走は……誰の手にも負えなくなっている可能性が高い……あの、マルヴェスでさえもな』

「だから、俺を狙ってくる……。ヴィンドールにとって危険な存在だから」

『その通りだ。カイン、お前は『ことわりの枠外』の存在だ。ネフィラの目には最も危険な変数に映るだろう』

「なら俺が止める。……もう誰も巻き添えにさせない」

 俺は深く息を吐いて意識を戻した。そして、エルンとルナのもとへ歩み寄る。

「カイン、どうだったの?」

 エルンが問いかける。

「……カイランが教えてくれた。ネフィラはかつて、ヴィンドールに弟子入りしていた優秀なエルフだった。汚れ仕事を請け負ううちに禁術に手を染め、精神干渉を用いたことが発覚して追放された。その後、魔族領に逃れ、今もヴィンドールの理想を実現しようと暗躍してる」

「精神干渉を使うってことは……本当に危険ね」

 エルンが険しい表情を浮かべる。

「……彼女のヴィンドールに対する想いは忠義というより、もはや妄信もうしんだ」

 マルヴェス、そしてカイランの話から、ネフィラが俺たちに悪意を持っているのは間違いないと確信できた。問題はどう解決するかだ。

 ロルディアでの争いもある。
 俺は積み重なっていく難題に心をざわつかせずにはいられなかった。
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