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第六章 ロルディアの動乱
第125話 討伐の是非
レオンハルト陣営の軍拠点・レストリア砦。その石造りの城塞は荒野の中にあってなお、揺るぎない威容を放っていた。
砦の中庭では兵たちが訓練を行い、物資の積み下ろしが絶えず行われている。緊張感の中に統制された秩序が漂っていた。
「……これが、第二王子軍の前線か」
砦の門をくぐった俺は背後のルナとエルンを振り返る。
「けっこうピリピリしてるね。ルナたち浮いてない?」
「いえ、いまは情報も不足しているのだと思うわ。案内が来るまで静かにしてましょう」
俺たちは事前に送った伝令により、立ち入り許可を得ていた。案内役の若い兵がすぐに現れ、俺たちを作戦指揮棟へと導いた。
応接室に通されて、しばらくして現れたのは、中年の軍人とその補佐官だった。胸元に装飾の入った軍服。立場は副将か、あるいは戦略参謀か。
「カイン殿。ようこそお越しくださいました。王子殿下よりご指名を受け、我らが陣営の一員として参戦くださったこと、心より感謝いたします。本来であれば歓迎の式典でも開きたいところでしたが、いまは軍務優先ゆえ、ご理解いただければ幸いです」
副将はそう言いながら一礼した。俺も頭を下げた後、すぐに本題へと切り込んだ。
「恐縮ですが、合流早々ひとつ提案があります。――ネフィラ・ヴァレリオ討伐について、許可をいただけないでしょうか」
室内に一瞬、硬い沈黙が走る。相手の眉がわずかに動いた。
「……ネフィラ・ヴァレリオ、ですか? 申し訳ありません、その名については存じ上げません。軍としても、その者に関する記録や報告は届いておりませんが……どういった人物なのですか?」
「魔族側に与するダークエルフの魔術師です。精神干渉と闇の魔法を操り、魔族を使って私を標的に動いています」
副将が腕を組み、椅子に深く腰掛けた。
「……なるほど、だがそのような存在について、我々は正式な報告を一件も受けていない。今この戦況で、あなたの判断ひとつを信じて討伐部隊を編成するのは……難しいと言わざるを得ない」
「ですが、放っておけばいずれ――」
「あなたのご懸念は理解します。しかし現在、あなたは戦線における象徴的存在です。もしもあなたが抜ければ、戦力はもちろん、士気にも大きく影響します」
「……それは分かっています」
「分かっているなら、なぜそんな無茶を?」
補佐官が鋭く問う。俺は目を逸らさずに答えた。
「昨晩、ある人物が私の前に現れました。マルヴェス・ブラッドロック――伝説級の吸血鬼です。彼はこう言いました。戦争を終わらせたいなら、ネフィラを排除しろと」
ふたりの表情が強張った。やはり、マルヴェスの名は無視できるものではないらしい。
「……そのような人物と接触したとなれば、なおさら容易には判断できませんな。彼が敵か味方かも分からぬ現状では信頼を置くには危うい」
「けれど、このままでは――」
「あなたが前線を離れることは、短期的には我が軍の崩壊を招きかねない。従って、現時点では討伐の件は却下とさせていただきます」
決断の言葉は冷たく、だが的確だった。俺は深く頭を下げた。
「……ご理解いただき、ありがとうございます」
作戦棟を出た俺たちは無言のまま砦の外縁へと出た。
風が冷たい。空は晴れているのに、胸の奥だけが重い。
「……ダメだったね」
ルナがぽつりと漏らす。
「当然よ。根拠も薄いし、いまはカインの存在が軍にとって重要すぎるわ」
エルンが現実を語る。それが正しいことは俺も分かっている。
だが――。
「……それでも、ネフィラを放っておくわけにはいかない」
俺は空を仰いだ。
第一王子の排他政策が進めば、俺たちに居場所はなくなる。
だから俺はこの戦いに勝たなければならない――ネフィラも、そのために止める。
砦の中庭では兵たちが訓練を行い、物資の積み下ろしが絶えず行われている。緊張感の中に統制された秩序が漂っていた。
「……これが、第二王子軍の前線か」
砦の門をくぐった俺は背後のルナとエルンを振り返る。
「けっこうピリピリしてるね。ルナたち浮いてない?」
「いえ、いまは情報も不足しているのだと思うわ。案内が来るまで静かにしてましょう」
俺たちは事前に送った伝令により、立ち入り許可を得ていた。案内役の若い兵がすぐに現れ、俺たちを作戦指揮棟へと導いた。
応接室に通されて、しばらくして現れたのは、中年の軍人とその補佐官だった。胸元に装飾の入った軍服。立場は副将か、あるいは戦略参謀か。
「カイン殿。ようこそお越しくださいました。王子殿下よりご指名を受け、我らが陣営の一員として参戦くださったこと、心より感謝いたします。本来であれば歓迎の式典でも開きたいところでしたが、いまは軍務優先ゆえ、ご理解いただければ幸いです」
副将はそう言いながら一礼した。俺も頭を下げた後、すぐに本題へと切り込んだ。
「恐縮ですが、合流早々ひとつ提案があります。――ネフィラ・ヴァレリオ討伐について、許可をいただけないでしょうか」
室内に一瞬、硬い沈黙が走る。相手の眉がわずかに動いた。
「……ネフィラ・ヴァレリオ、ですか? 申し訳ありません、その名については存じ上げません。軍としても、その者に関する記録や報告は届いておりませんが……どういった人物なのですか?」
「魔族側に与するダークエルフの魔術師です。精神干渉と闇の魔法を操り、魔族を使って私を標的に動いています」
副将が腕を組み、椅子に深く腰掛けた。
「……なるほど、だがそのような存在について、我々は正式な報告を一件も受けていない。今この戦況で、あなたの判断ひとつを信じて討伐部隊を編成するのは……難しいと言わざるを得ない」
「ですが、放っておけばいずれ――」
「あなたのご懸念は理解します。しかし現在、あなたは戦線における象徴的存在です。もしもあなたが抜ければ、戦力はもちろん、士気にも大きく影響します」
「……それは分かっています」
「分かっているなら、なぜそんな無茶を?」
補佐官が鋭く問う。俺は目を逸らさずに答えた。
「昨晩、ある人物が私の前に現れました。マルヴェス・ブラッドロック――伝説級の吸血鬼です。彼はこう言いました。戦争を終わらせたいなら、ネフィラを排除しろと」
ふたりの表情が強張った。やはり、マルヴェスの名は無視できるものではないらしい。
「……そのような人物と接触したとなれば、なおさら容易には判断できませんな。彼が敵か味方かも分からぬ現状では信頼を置くには危うい」
「けれど、このままでは――」
「あなたが前線を離れることは、短期的には我が軍の崩壊を招きかねない。従って、現時点では討伐の件は却下とさせていただきます」
決断の言葉は冷たく、だが的確だった。俺は深く頭を下げた。
「……ご理解いただき、ありがとうございます」
作戦棟を出た俺たちは無言のまま砦の外縁へと出た。
風が冷たい。空は晴れているのに、胸の奥だけが重い。
「……ダメだったね」
ルナがぽつりと漏らす。
「当然よ。根拠も薄いし、いまはカインの存在が軍にとって重要すぎるわ」
エルンが現実を語る。それが正しいことは俺も分かっている。
だが――。
「……それでも、ネフィラを放っておくわけにはいかない」
俺は空を仰いだ。
第一王子の排他政策が進めば、俺たちに居場所はなくなる。
だから俺はこの戦いに勝たなければならない――ネフィラも、そのために止める。
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