50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
134 / 330
第六章 ロルディアの動乱

第134話 闇の残滓、揺らぐ心

 『地穿熱泉グラウンド・ゲイザー』の余波に濡れたネフィラが、闇の中から引きずり出されたように現れた。彼女は膝をつき、顔を上げたままこちらを睨みつけていた。

 まだ何をしてくるかわからない。俺は油断せずに彼女から視線を逸らさなかった。
 エルンの治癒によって命をとりとめたルナは、まだ額に汗を浮かべて苦しげに横たわっている。

「エルン、ルナのことを頼む」

「ええ……。熱はあるけど、今のところ毒は浄化できたと思うわ」

 エルンがうなずき、ルナの額に冷たい布を当てる。

「まだ……負けてないよ……」

 うわごとのようにつぶやいたルナの手をエルンがそっと握った。

 俺は警戒しながらネフィラに近づいていき、様子をうかがった。
 ネフィラの体はやけどと裂傷で酷く損傷していた。もう立ち上がる力もなさそうだ。

 止めを刺すべきなのだろう。だが、出来るのであれば俺は確証を得たかった。彼女とヴィンドールとのつながり、そしてヴァルディスやグロムとの関わりについて――。

「魔族をけしかけてきたのは、お前なのか?」

 俺の問いにネフィラは口の端を持ち上げた。

「ふふ……それを私の口から聞いたとして、あなたはその言葉を信じるのかしら?」

 嘲笑ちょうしょうするような声音。その中に確かに狂気と執念が見えた。
 言葉の真偽は分からない。だが、俺は確信した。この女は敵だ。明確な悪意を俺たちに向けている。俺はそれを言葉にして伝えた。俺の意思を示すために。

「信じるかどうかじゃない。お前が俺たちの敵であることは十分に伝わっている」

 そう言って剣を構えかけたそのとき、ネフィラは震える手を持ち上げ、言葉をつむいだ。

「私は最後まで……ヴィンドール様のお役に立ってみせる。あの方の理想を妨げる者を……決して許しはしない……」

 その言葉と共に空気がひどく濁ったように感じた。

「この痛みも、この怒りも、全部……あなたに返してあげる。命すら代償にして……私は闇とちぎる――」

 うわごとをつぶやいていた彼女の身体が闇の粒子となって、ゆっくりと崩れていく。
 残されたのは黒く焼け焦げた土の匂いと、微かに残る闇の気配だけだった。

「……終わったな」

 俺は小さくつぶやいた。だがその言葉の重さは簡単に肩から下ろせるものではなかった。

 その場に座り込み、深く息を吐く。

「無理もないわ……あれは見ているだけでも心に傷がつく……正気を保つのが精いっぱいだった」

 エルンがそっと俺の横に腰を下ろす。

「……ごめん。ルナを守れなかった」

「守れたわよ、ちゃんと。あの子が無事なのはカインの判断と魔法のおかげ」

 俺の肩に温かい手が置かれる。俺は顔を上げ、エルンと視線を交わす。

「……ありがとう」

「ええ、こんな状況でも、ちゃんと礼を言えるのは立派よ」

 ルナがかすかに目を開けた。

「ふたりとも……お話ししてるなら、ルナも混ぜて……」

 その声に俺とエルンは顔を見合わせて笑う。

「よし、戻ろう。ここに長くいるべきじゃない」

「ええ、でも……歩けそう?」

「うん……ちょっとくらいなら、平気」

 ルナが頑張って体を起こす。俺が肩を貸し、エルンが荷物をまとめる。

 儀式の広場にはもう戦いの気配はなかった。
 朝日が昇り始めた空の下、俺たちは静かにその場を後にした。

 ネフィラという闇は消えた。だが、この闘いが意味していたこと、それを俺はきっとこれからも考え続けるのだろう。

 俺たちは砦へと向かって歩き出した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!