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第八章 落星の裂け目
第158話 賢者の賭け
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エクリプスの欠片を打ち破った後の静寂が裂け目の底を支配していた。
仲間たちは消耗しつつも、警戒を解くことなく、中央にそびえる封印の古木を睨みつけている。
古木の幹に巻き付いた光の鎖は今も不安定に明滅を繰り返している。次の鎖がいつ砕けるか、予測がつかない状況だ。
「……このまま、ただ見ているわけにはいかないな」
俺は一歩前に出ると、仲間たちに下がるよう手で示した。
「カイン? 何をする気?」
「一度、俺の魔法を撃ち込んでみる。次の欠片が出てくるのを待っていても埒が明かない。こちらの攻撃が本体に通じるのか、それに、封印がどう反応するのか……試す必要がある」
俺の提案にエルンは一瞬ためらったが、すぐにその意図を理解してうなずいた。
「わかりました。……ですが、慎重にお願いします」
「ああ、分かってる」
俺は封印の鎖の隙間に狙いを定めて魔力を練り上げた。全力の一撃ではないが、相手の強度を測るには十分な威力を込める。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光となりて穿て――蒼閃!」
放たれた水の刃は一直線に古木へと向かった。
だが——。
刃が古木に巻き付く黄金の光の鎖に触れようとした瞬間、音もなく、すっと光の中に吸い込まれて消滅した。
「……なんだと?」
衝撃すら、ない。俺の魔法が完全に無効化されたのだ。
『無駄だ、カイン』
驚愕する俺の脳裏に、カイランの冷静な声が響いた。
『光の賢者アウレリウスが施したこの封印は内なるものを閉じ込めるだけでなく、外からの干渉を一切拒絶する完璧な結界でもある。この光の鎖がある限り、お前の攻撃は決して核には届かん』
「拒絶する結界……? じゃあ、どうすればいい!? 外から手出しができず、内側からは壊れかけている。このまま崩壊を待つしかないのか!」
『……道は一つ。お前が持つ『賢者の印』。あれは、この封印を内側から制御するための鍵だ』
カイランの言葉に俺はゴクリと唾を呑んだ。
封印に直接干渉する。それは、眠る災厄を自らの手で揺り起こすに等しい行為だった。
俺は仲間たちに向き直り、カイランから聞いた事実と、そして、あまりにも危険な一つの可能性を告げた。
「……賭けに出るしかないようだ」
俺の言葉に仲間たちが息を呑む。
「この封印は外からの攻撃を一切通さない。だが、俺の『賢者の印』を使えば、内側から錠前を一つだけ開けるように、鎖を一本だけ意図的に解けるかもしれない」
「正気か、カイン」
レオナルドが鋭い目つきで俺を見た。
「それは自ら災厄を解き放つということだぞ」
「ああ、そうだ。だが、これは無策で突っ込むわけじゃない」
俺は仲間たちの目を見据えて続けた。
「自然に壊れるのを待っていれば、不意を突かれるだけだ。だが、こちらから意図的に解放すれば、迎撃の準備ができる。漏れ出してくる力は危険だが、その性質を分析できれば、本体との戦いで必ず有利になるはずだ。……これは敵を知るための危険な偵察だ」
その提案に誰もが言葉を失った。あまりに危険で、あまりに無謀な作戦。だが、この膠着した状況を打破するには、それしか道はないのかもしれない。
俺の心臓が恐怖と覚悟で、ない交ぜになって激しくざわついた。
最初に沈黙を破ったのはレオナルドだった。
「……狂った賭けだ。だが、座して死を待つよりはマシか。いいだろう、乗ってやる」
「あなたが賢者としてそう決断するのであれば、私は全力で援護します」
エルンもまた、覚悟を決めた瞳でうなずく。
「ルナも! ルナも、カインの作戦に乗る!」
ルナが小さな拳を強く握りしめた。
仲間たちの信頼を背に受け、俺は再び封印の古木へと向き直った。
「ありがとう。……皆で、やり遂げよう」
これから始まるのは、この森の、そして精霊の未来を賭けた戦い。
俺は揺るがぬ決意を胸に、戦いへ身を投じる覚悟を決めた。
仲間たちは消耗しつつも、警戒を解くことなく、中央にそびえる封印の古木を睨みつけている。
古木の幹に巻き付いた光の鎖は今も不安定に明滅を繰り返している。次の鎖がいつ砕けるか、予測がつかない状況だ。
「……このまま、ただ見ているわけにはいかないな」
俺は一歩前に出ると、仲間たちに下がるよう手で示した。
「カイン? 何をする気?」
「一度、俺の魔法を撃ち込んでみる。次の欠片が出てくるのを待っていても埒が明かない。こちらの攻撃が本体に通じるのか、それに、封印がどう反応するのか……試す必要がある」
俺の提案にエルンは一瞬ためらったが、すぐにその意図を理解してうなずいた。
「わかりました。……ですが、慎重にお願いします」
「ああ、分かってる」
俺は封印の鎖の隙間に狙いを定めて魔力を練り上げた。全力の一撃ではないが、相手の強度を測るには十分な威力を込める。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光となりて穿て――蒼閃!」
放たれた水の刃は一直線に古木へと向かった。
だが——。
刃が古木に巻き付く黄金の光の鎖に触れようとした瞬間、音もなく、すっと光の中に吸い込まれて消滅した。
「……なんだと?」
衝撃すら、ない。俺の魔法が完全に無効化されたのだ。
『無駄だ、カイン』
驚愕する俺の脳裏に、カイランの冷静な声が響いた。
『光の賢者アウレリウスが施したこの封印は内なるものを閉じ込めるだけでなく、外からの干渉を一切拒絶する完璧な結界でもある。この光の鎖がある限り、お前の攻撃は決して核には届かん』
「拒絶する結界……? じゃあ、どうすればいい!? 外から手出しができず、内側からは壊れかけている。このまま崩壊を待つしかないのか!」
『……道は一つ。お前が持つ『賢者の印』。あれは、この封印を内側から制御するための鍵だ』
カイランの言葉に俺はゴクリと唾を呑んだ。
封印に直接干渉する。それは、眠る災厄を自らの手で揺り起こすに等しい行為だった。
俺は仲間たちに向き直り、カイランから聞いた事実と、そして、あまりにも危険な一つの可能性を告げた。
「……賭けに出るしかないようだ」
俺の言葉に仲間たちが息を呑む。
「この封印は外からの攻撃を一切通さない。だが、俺の『賢者の印』を使えば、内側から錠前を一つだけ開けるように、鎖を一本だけ意図的に解けるかもしれない」
「正気か、カイン」
レオナルドが鋭い目つきで俺を見た。
「それは自ら災厄を解き放つということだぞ」
「ああ、そうだ。だが、これは無策で突っ込むわけじゃない」
俺は仲間たちの目を見据えて続けた。
「自然に壊れるのを待っていれば、不意を突かれるだけだ。だが、こちらから意図的に解放すれば、迎撃の準備ができる。漏れ出してくる力は危険だが、その性質を分析できれば、本体との戦いで必ず有利になるはずだ。……これは敵を知るための危険な偵察だ」
その提案に誰もが言葉を失った。あまりに危険で、あまりに無謀な作戦。だが、この膠着した状況を打破するには、それしか道はないのかもしれない。
俺の心臓が恐怖と覚悟で、ない交ぜになって激しくざわついた。
最初に沈黙を破ったのはレオナルドだった。
「……狂った賭けだ。だが、座して死を待つよりはマシか。いいだろう、乗ってやる」
「あなたが賢者としてそう決断するのであれば、私は全力で援護します」
エルンもまた、覚悟を決めた瞳でうなずく。
「ルナも! ルナも、カインの作戦に乗る!」
ルナが小さな拳を強く握りしめた。
仲間たちの信頼を背に受け、俺は再び封印の古木へと向き直った。
「ありがとう。……皆で、やり遂げよう」
これから始まるのは、この森の、そして精霊の未来を賭けた戦い。
俺は揺るがぬ決意を胸に、戦いへ身を投じる覚悟を決めた。
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