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第八章 落星の裂け目
第159話 賭けの結末
「……賭けに乗ってくれるか?」
俺の問いに仲間たちは覚悟を決めた瞳でうなずいた。
「ありがとう。だが、時間はかけられない」
俺は弱々しく明滅を続ける封印の鎖を睨みつけた。次の欠片がいつ漏れ出すか分からない。
「エルン、魔力回復薬を。全員、息を整えよう。ほんの少し休んだら、すぐに作戦を開始する」
俺の言葉にエルンがうなずき、腰のポーチから小さな小瓶を取り出して皆に手渡す。高純度の魔力が凝縮された霊薬だ。
口に含むと、消耗した体にじんわりと力が戻ってくる。だが、裂け目の底に満ちる異様な静寂が休まることを許さない。俺たちの心臓の鼓動だけが、やけに大きく聞こえた。
数分後、俺は立ち上がり、封印の古木へと向き直った。
「いくぞ。鎖を一本だけ解いてみる」
俺は古木の幹に手を置き、『賢者の印』に魔力を集中させる。そして、無数に絡みつく光の鎖の中から、最も弱っている一本に狙いを定めた。
(開け――!)
俺の意志に呼応し、『賢者の印』の宝石が蒼く輝く。その光が対象の鎖へと流れ込み、古代の術式を内側から解いていく。
荘厳な、しかし不吉な静けさの中、黄金の鎖がゆっくりと輝きを失い、音もなく砂へと還っていった。
一瞬の静寂。作戦は成功したかに見えた。だが、次の瞬間――。
「ぐっ……!?」
俺たちの脳に直接突き刺さるような強烈な精神衝撃が走った。
「まずい、反動が……大きい! 欠片じゃない、本体が直接干渉してきたぞ!」
レオナルドが叫ぶ。
鎖が一本解かれたことで生まれたわずかな隙間から、エクリプス本体が俺たちの存在を感知したようだ。
封印の古木がミシミシと軋み、幹に深々と亀裂が走る。そこから溢れ出したのは獲物を求めようとする、いびつな触手。
それは決まった形を持たず、どす黒い血の塊のように、あるいは流動的な鞭のように、ゆらめきながら伸びてくる。
『……喰らう……喰らう……喰らう……』
声ではない。
直接、脳に流れ込んでくる純粋な飢餓の思念。その渇望が俺たちの心を侵食しようとする。
「来るぞ!」
レオナルドの警告と同時にエクリプスから無数の触手が俺たちに襲いかかった。
「疾風の精霊シルフィードよ、我が魔力を代償とし嵐となって我らを護れ!――風の障壁!」
エルンが必死に精霊との絆を手繰り寄せ、風の障壁を展開した。
触手の波は風に煽られ、一度は向きをそらしたが、あきらめる事はないようだ。
再び俺たちに襲い掛かろうと、形を変え、狙いを定めている。
「カイン……核が見えないよ!? あいつの中に見つからない!」
ルナが悲鳴に近い声で叫ぶ。俺たちの必勝戦術は早くも根底から覆されようとしていた。
「くそっ……!」
偵察のつもりが、いきなりラスボス戦とは。賢者の最初の賭けは、どうやら最悪の目を出してしまったらしい。
額から冷や汗が噴き出し、視界が歪むほどの重圧が全身を叩く。だが、ここで立ち止まれば全滅だ。
「レオナルド、ルナ! 奴を撹乱し続けてくれ! エルンは俺に合わせて!」
俺は叫び、震える手で自らの短剣を抜き放ち、前へと飛び出した。
「俺たちが核をこじ開ける!」
エクリプスは俺たちの動揺など意に介さず、その不定形の体を爆発的に膨れ上がらせた。
俺たちは決して起こしてはならない怪物を自らの手で目覚めさせてしまったのだ。
生き残るか、喰われるか。
後戻りできない決戦の幕が最悪の形で切って落とされた。
俺の問いに仲間たちは覚悟を決めた瞳でうなずいた。
「ありがとう。だが、時間はかけられない」
俺は弱々しく明滅を続ける封印の鎖を睨みつけた。次の欠片がいつ漏れ出すか分からない。
「エルン、魔力回復薬を。全員、息を整えよう。ほんの少し休んだら、すぐに作戦を開始する」
俺の言葉にエルンがうなずき、腰のポーチから小さな小瓶を取り出して皆に手渡す。高純度の魔力が凝縮された霊薬だ。
口に含むと、消耗した体にじんわりと力が戻ってくる。だが、裂け目の底に満ちる異様な静寂が休まることを許さない。俺たちの心臓の鼓動だけが、やけに大きく聞こえた。
数分後、俺は立ち上がり、封印の古木へと向き直った。
「いくぞ。鎖を一本だけ解いてみる」
俺は古木の幹に手を置き、『賢者の印』に魔力を集中させる。そして、無数に絡みつく光の鎖の中から、最も弱っている一本に狙いを定めた。
(開け――!)
俺の意志に呼応し、『賢者の印』の宝石が蒼く輝く。その光が対象の鎖へと流れ込み、古代の術式を内側から解いていく。
荘厳な、しかし不吉な静けさの中、黄金の鎖がゆっくりと輝きを失い、音もなく砂へと還っていった。
一瞬の静寂。作戦は成功したかに見えた。だが、次の瞬間――。
「ぐっ……!?」
俺たちの脳に直接突き刺さるような強烈な精神衝撃が走った。
「まずい、反動が……大きい! 欠片じゃない、本体が直接干渉してきたぞ!」
レオナルドが叫ぶ。
鎖が一本解かれたことで生まれたわずかな隙間から、エクリプス本体が俺たちの存在を感知したようだ。
封印の古木がミシミシと軋み、幹に深々と亀裂が走る。そこから溢れ出したのは獲物を求めようとする、いびつな触手。
それは決まった形を持たず、どす黒い血の塊のように、あるいは流動的な鞭のように、ゆらめきながら伸びてくる。
『……喰らう……喰らう……喰らう……』
声ではない。
直接、脳に流れ込んでくる純粋な飢餓の思念。その渇望が俺たちの心を侵食しようとする。
「来るぞ!」
レオナルドの警告と同時にエクリプスから無数の触手が俺たちに襲いかかった。
「疾風の精霊シルフィードよ、我が魔力を代償とし嵐となって我らを護れ!――風の障壁!」
エルンが必死に精霊との絆を手繰り寄せ、風の障壁を展開した。
触手の波は風に煽られ、一度は向きをそらしたが、あきらめる事はないようだ。
再び俺たちに襲い掛かろうと、形を変え、狙いを定めている。
「カイン……核が見えないよ!? あいつの中に見つからない!」
ルナが悲鳴に近い声で叫ぶ。俺たちの必勝戦術は早くも根底から覆されようとしていた。
「くそっ……!」
偵察のつもりが、いきなりラスボス戦とは。賢者の最初の賭けは、どうやら最悪の目を出してしまったらしい。
額から冷や汗が噴き出し、視界が歪むほどの重圧が全身を叩く。だが、ここで立ち止まれば全滅だ。
「レオナルド、ルナ! 奴を撹乱し続けてくれ! エルンは俺に合わせて!」
俺は叫び、震える手で自らの短剣を抜き放ち、前へと飛び出した。
「俺たちが核をこじ開ける!」
エクリプスは俺たちの動揺など意に介さず、その不定形の体を爆発的に膨れ上がらせた。
俺たちは決して起こしてはならない怪物を自らの手で目覚めさせてしまったのだ。
生き残るか、喰われるか。
後戻りできない決戦の幕が最悪の形で切って落とされた。
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