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第九章 光と闇を抱いて
第174話 森のざわめきと賢者の遺言
エルドレア様の訃報は瞬く間に森全体へと広がり、深い悲しみと、そして不穏なざわめきを生んだ。
賢者の議事堂には森の民の代表と残された長老たちが集まっていた。
広間の中央には安らかな顔で横たわるエルドレア様の亡骸が安置されている。
その光景は誰の目にも、森の大きな柱が一本、失われたことを痛感させた。
俺は仲間たちと共に壁際に静かに立っていた。
降り注ぐ視線は、同情、困惑、そして――非難。特に保守派を率いるラゼル長老のそれは、隠すことのない敵意に満ちていた。
「皆、聞かれよ!」
ラゼルはこの機を待っていたかのように一歩前に出て声を張り上げた。
「この悲劇は我らが、異邦人を賢者などと認めたがゆえに起きたこと! 彼が己の身に受けたという闇の呪いを解くために、森で最も尊敬されるべきエルドレア様がその命を落とされたのだ!」
彼の扇動的な言葉に民衆の間に動揺が走る。
ラゼルは俺の胸の内で渦巻く闇の力を指差すかのように続けた。
「見よ! あの男の纏う気配を! もはや光の賢者ではない、闇に汚染された危険な存在だ! このような者をこれ以上森に置いておけば、第二、第三の災厄を招くことになる! 今すぐ、この者から賢者の印を剥奪し、森から永久に追放すべきだ!」
「黙れ、ラゼル殿!」
その声を遮ったのはレオナルドだった。彼はラゼルの前に立ちはだかり、その鋭い瞳で睨みつけた。
「貴殿はエルドレア様の気高い最期を自らの私怨のために汚すおつもりか。あの方はカイン殿のせいで死んだのではない。この森の未来をカイン殿という希望に託すため、自らの意志でその命を捧げられたのだ!」
「その通りです!」
エルンもまた、震える声を振り絞ってレオナルドの後に続いた。
「エルドレア様は私を、そしてカインを、未来を築くべき若者だとおっしゃいました。彼の最後の選択を侮辱することは許しません!」
議事堂は賛否両論で騒然となった。
ラゼル派の者たちが「闇の力は危険だ」と叫び、レオナルドを支持する者たちが「英雄を疑うな」と応酬する。森の秩序が今まさに崩壊しかけていた。
その混沌を凛とした声が制した。
「お待ちください、皆様」
議事堂の入り口にミラネが静かに立っていた。彼女はゆっくりと広間の中央へと進み出ると、懐から一通の封蝋された巻物を取り出した。
「エルドレア様はこうなることすらも予見しておられました。そして、その最後の御心をこの私に託されたのです」
ミラネがエルドレアの遺書を携えていたのだ。
彼女が巻物を開くと議、事堂は水を打ったように静まり返る。ミラネはそこに記されたエルドレアの最後の言葉を朗々と読み上げ始めた。
『これを読む頃、わしはもうこの世にはおるまい。わが死は誰の罪でもない。ただ、この森の未来のために、わしが自ら選んだ道である。賢者カインを責めることは、わしの意志に背くことと知れ』
ラゼルの顔色が変わる。だが、遺言はさらに続いた。
『賢者カインは我らが失った光を取り戻してくれた。だが、森の存続には光だけでは足りぬ時もある。時に影を御し、闇を知ることでしか断ち切れぬ絶望がある。彼が背負うことになった力はそのためのものだ。彼こそが時に必要となる影を御し、未来を切り開く唯一の希望である』
遺言は俺の内に宿った闇の力すらも肯定していた。エルドレアは全てを理解した上で、俺に未来を託したのだ。
『カイン殿。そなたが背負うものは重いだろう。だが、そなたならできると、この老いぼれは信じておる。どうか、我らの森を……』
ミラネが遺書を読み終えると議事堂には深い沈黙が落ちた。ラゼルは唇を噛みしめ、もはや何も言うことができずに下がっていく。
民衆の目から俺への疑念は消え、代わりに深い悲しみと、そして新たな信頼が宿っていた。
俺は、ただ、その場で立ち尽くしていた。
エルドレアの最後の言葉。それは非難されるべきだとさえ思っていた俺の存在を、この森の希望として力強く肯定してくれていた。その信頼が、あまりにも重く、そして温かかった。
俺は彼の遺志に応えなければならない。この手に宿る光と、そして闇の力の意味を自らで見つけ出すために。
賢者の議事堂には森の民の代表と残された長老たちが集まっていた。
広間の中央には安らかな顔で横たわるエルドレア様の亡骸が安置されている。
その光景は誰の目にも、森の大きな柱が一本、失われたことを痛感させた。
俺は仲間たちと共に壁際に静かに立っていた。
降り注ぐ視線は、同情、困惑、そして――非難。特に保守派を率いるラゼル長老のそれは、隠すことのない敵意に満ちていた。
「皆、聞かれよ!」
ラゼルはこの機を待っていたかのように一歩前に出て声を張り上げた。
「この悲劇は我らが、異邦人を賢者などと認めたがゆえに起きたこと! 彼が己の身に受けたという闇の呪いを解くために、森で最も尊敬されるべきエルドレア様がその命を落とされたのだ!」
彼の扇動的な言葉に民衆の間に動揺が走る。
ラゼルは俺の胸の内で渦巻く闇の力を指差すかのように続けた。
「見よ! あの男の纏う気配を! もはや光の賢者ではない、闇に汚染された危険な存在だ! このような者をこれ以上森に置いておけば、第二、第三の災厄を招くことになる! 今すぐ、この者から賢者の印を剥奪し、森から永久に追放すべきだ!」
「黙れ、ラゼル殿!」
その声を遮ったのはレオナルドだった。彼はラゼルの前に立ちはだかり、その鋭い瞳で睨みつけた。
「貴殿はエルドレア様の気高い最期を自らの私怨のために汚すおつもりか。あの方はカイン殿のせいで死んだのではない。この森の未来をカイン殿という希望に託すため、自らの意志でその命を捧げられたのだ!」
「その通りです!」
エルンもまた、震える声を振り絞ってレオナルドの後に続いた。
「エルドレア様は私を、そしてカインを、未来を築くべき若者だとおっしゃいました。彼の最後の選択を侮辱することは許しません!」
議事堂は賛否両論で騒然となった。
ラゼル派の者たちが「闇の力は危険だ」と叫び、レオナルドを支持する者たちが「英雄を疑うな」と応酬する。森の秩序が今まさに崩壊しかけていた。
その混沌を凛とした声が制した。
「お待ちください、皆様」
議事堂の入り口にミラネが静かに立っていた。彼女はゆっくりと広間の中央へと進み出ると、懐から一通の封蝋された巻物を取り出した。
「エルドレア様はこうなることすらも予見しておられました。そして、その最後の御心をこの私に託されたのです」
ミラネがエルドレアの遺書を携えていたのだ。
彼女が巻物を開くと議、事堂は水を打ったように静まり返る。ミラネはそこに記されたエルドレアの最後の言葉を朗々と読み上げ始めた。
『これを読む頃、わしはもうこの世にはおるまい。わが死は誰の罪でもない。ただ、この森の未来のために、わしが自ら選んだ道である。賢者カインを責めることは、わしの意志に背くことと知れ』
ラゼルの顔色が変わる。だが、遺言はさらに続いた。
『賢者カインは我らが失った光を取り戻してくれた。だが、森の存続には光だけでは足りぬ時もある。時に影を御し、闇を知ることでしか断ち切れぬ絶望がある。彼が背負うことになった力はそのためのものだ。彼こそが時に必要となる影を御し、未来を切り開く唯一の希望である』
遺言は俺の内に宿った闇の力すらも肯定していた。エルドレアは全てを理解した上で、俺に未来を託したのだ。
『カイン殿。そなたが背負うものは重いだろう。だが、そなたならできると、この老いぼれは信じておる。どうか、我らの森を……』
ミラネが遺書を読み終えると議事堂には深い沈黙が落ちた。ラゼルは唇を噛みしめ、もはや何も言うことができずに下がっていく。
民衆の目から俺への疑念は消え、代わりに深い悲しみと、そして新たな信頼が宿っていた。
俺は、ただ、その場で立ち尽くしていた。
エルドレアの最後の言葉。それは非難されるべきだとさえ思っていた俺の存在を、この森の希望として力強く肯定してくれていた。その信頼が、あまりにも重く、そして温かかった。
俺は彼の遺志に応えなければならない。この手に宿る光と、そして闇の力の意味を自らで見つけ出すために。
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