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第十一章 混沌の使徒
第192話 友が感じた違和感
「俺は試されていた。そして期待されていたんだ。この世界に『混沌』をもたらす新たな駒としてな」
カズエルの言葉に談話室は重い沈黙に包まれた。
「駒だと……?」
レオナルドが絞り出すようにつぶやく。
「貴様ほどの男をただの駒としてか。奴らは一体何様のつもりだ」
「人の魂を意図的に異世界から呼び寄せるなど……なんて恐ろしいことを……」
エルンの声もまた、驚きと嫌悪に震えていた。
カズエルは仲間たちの反応に自嘲気味に肩をすくめると、話を続けた。
「だが、当時の俺にはそんな裏の意図など知る由もなかった。『学術都市』での最初の数年間は正直に言って、天国のようだったよ」
彼の語る『学術都市』は知を愛する者にとって、まさに理想郷だった。
果てしなく続く書庫、世界中から集められた古代の遺物、そして、各分野の頂点を極めた、神官と呼ばれる研究者たちとの刺激的な議論の日々。
彼は水を得た魚のように理式魔術の知識を吸収していった。
「全てが新鮮で、面白くて、夢中だった。だが、しばらくすると奇妙な『歪み』に気づき始めたんだ」
カズエルは、そこで一度、言葉を切った。
「歴史書の一部が不自然に欠落している。特定の時代の、ある魔術に関する記述だけが、まるで最初から存在しなかったかのように、きれいに消されているんだ。それに、一部の急進的な神官たちの間で、時折囁かれる『大いなる刷新』や『停滞を打ち破るための聖なる混沌』といった、不穏な言葉……」
彼は、その違和感の正体を突き止めるため調査を始めたが、核心に触れることはできなかったという。
「彼らの研究室や書庫は巧妙に隠されていた。俺が少しでも探りを入れると、どこからか監視の目が光る。そして、俺を歓迎してくれた、あの筆頭神官を始めとする一派は、俺の能力を評価する一方で、その瞳の奥には常に値踏みするような、冷たい光があった。まるで、実験動物でも観察するようにな」
「……それで、お前は」
「ああ。俺は確信した。この都市には何か得体のしれない危険な研究に手を染めている者たちがいると。だが証拠がない。下手に動けば俺の方が『秩序を乱す異物』として処分されていただろう」
彼は自分がどうすることもできない巨大な悪意の存在を前に無力感を覚えていた。
「そんな中だ。ドワーフの都から奇妙な噂が流れてきた。『双冠の英雄と呼ばれるエルフが異世界の知識を用いて、ヴァルグリム鉱を加工した』……と」
カズエルは、そこで初めて、ふっと笑みを浮かべた。
「ウォータージェットカッターなんて、突飛な技術を知っているのは、俺たちの世界の人間だけだ。その時、らしくないが祈ったんだ。それがお前であって欲しいってな。竹内……お前を探しに行くこと。それが、あの知の牢獄から抜け出す、俺の希望になった」
彼は『英雄の調査』を名目に『学術都市』を離れた。
彼を監視していた神官たちも、カズエルがカインと接触することを、あるいは新たな『ざわめき』の始まりとして、静観していたのかもしれない。
カズエルの長い話が終わった。誰もが、その壮絶な事実に言葉を失っていた。
俺はゆっくりと立ち上がった。
「……つまり、だ」
俺の声は自分でも驚くほど静かだった。
「俺たちが追うべき敵は、まだ輪郭すらハッキリしない。だが、その巣窟は『学術都市』にある。そして、お前が感じた違和感の正体と、『嘆きの谷』で起きた悲劇は、間違いなく繋がっている」
親友が知の牢獄で感じた恐怖と孤独。
その源流を俺たちは、これから見極めに行かなければならない。
カズエルの言葉に談話室は重い沈黙に包まれた。
「駒だと……?」
レオナルドが絞り出すようにつぶやく。
「貴様ほどの男をただの駒としてか。奴らは一体何様のつもりだ」
「人の魂を意図的に異世界から呼び寄せるなど……なんて恐ろしいことを……」
エルンの声もまた、驚きと嫌悪に震えていた。
カズエルは仲間たちの反応に自嘲気味に肩をすくめると、話を続けた。
「だが、当時の俺にはそんな裏の意図など知る由もなかった。『学術都市』での最初の数年間は正直に言って、天国のようだったよ」
彼の語る『学術都市』は知を愛する者にとって、まさに理想郷だった。
果てしなく続く書庫、世界中から集められた古代の遺物、そして、各分野の頂点を極めた、神官と呼ばれる研究者たちとの刺激的な議論の日々。
彼は水を得た魚のように理式魔術の知識を吸収していった。
「全てが新鮮で、面白くて、夢中だった。だが、しばらくすると奇妙な『歪み』に気づき始めたんだ」
カズエルは、そこで一度、言葉を切った。
「歴史書の一部が不自然に欠落している。特定の時代の、ある魔術に関する記述だけが、まるで最初から存在しなかったかのように、きれいに消されているんだ。それに、一部の急進的な神官たちの間で、時折囁かれる『大いなる刷新』や『停滞を打ち破るための聖なる混沌』といった、不穏な言葉……」
彼は、その違和感の正体を突き止めるため調査を始めたが、核心に触れることはできなかったという。
「彼らの研究室や書庫は巧妙に隠されていた。俺が少しでも探りを入れると、どこからか監視の目が光る。そして、俺を歓迎してくれた、あの筆頭神官を始めとする一派は、俺の能力を評価する一方で、その瞳の奥には常に値踏みするような、冷たい光があった。まるで、実験動物でも観察するようにな」
「……それで、お前は」
「ああ。俺は確信した。この都市には何か得体のしれない危険な研究に手を染めている者たちがいると。だが証拠がない。下手に動けば俺の方が『秩序を乱す異物』として処分されていただろう」
彼は自分がどうすることもできない巨大な悪意の存在を前に無力感を覚えていた。
「そんな中だ。ドワーフの都から奇妙な噂が流れてきた。『双冠の英雄と呼ばれるエルフが異世界の知識を用いて、ヴァルグリム鉱を加工した』……と」
カズエルは、そこで初めて、ふっと笑みを浮かべた。
「ウォータージェットカッターなんて、突飛な技術を知っているのは、俺たちの世界の人間だけだ。その時、らしくないが祈ったんだ。それがお前であって欲しいってな。竹内……お前を探しに行くこと。それが、あの知の牢獄から抜け出す、俺の希望になった」
彼は『英雄の調査』を名目に『学術都市』を離れた。
彼を監視していた神官たちも、カズエルがカインと接触することを、あるいは新たな『ざわめき』の始まりとして、静観していたのかもしれない。
カズエルの長い話が終わった。誰もが、その壮絶な事実に言葉を失っていた。
俺はゆっくりと立ち上がった。
「……つまり、だ」
俺の声は自分でも驚くほど静かだった。
「俺たちが追うべき敵は、まだ輪郭すらハッキリしない。だが、その巣窟は『学術都市』にある。そして、お前が感じた違和感の正体と、『嘆きの谷』で起きた悲劇は、間違いなく繋がっている」
親友が知の牢獄で感じた恐怖と孤独。
その源流を俺たちは、これから見極めに行かなければならない。
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