50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十一章 混沌の使徒

第205話 王都への疾走

 俺たちが『学術都市アーカイメリア』の正門を駆け抜けると、背後で重い黒曜石の扉が、ゆっくりと閉ざされていった。それは、この知の殿堂が、再び外界との関わりを絶った瞬間だった。
 俺たちは、一度も振り返らず、その場を後にした。

「急ぐぞ。王都まで最短ルートを割り出す」

 カズエルが頭の中に地図を思い描く。彼の理式魔術は戦闘だけでなく、こうした最適化の計算においても絶大な能力を発揮した。

「エルン、皆に風の加護を頼む。 少しでも俺たちの足の負担を減らしたい」

 俺の指示にエルンは即座に応える。

「わかりました! 疾風の精霊シルフィードよ、我が魔力を代償とし我らに軽やかなる追い風を――風速の翼ウィンドブースト!」

 ふわり、と俺たちの身体が軽くなる。
 地面を蹴る一歩一歩が、まるで羽のように感じられた。だが、それだけでは数日に及ぶ強行軍は乗り切れない。

「次は俺の番だな」

 カズエルが走りながら片手で術式を編んでいく。

神授しんじゅの名を授かった技のお披露目だ。――天恵変換エーテルチャージ!」

 彼の理式が発動すると、周囲の風や太陽光といった自然エネルギーが、目に見えない流れとなって俺たちの身体に注ぎ込まれてきた。不思議なことに、走り続けているはずの身体から、疲労だけがきれいに消え去っていく。
 この二つの術の組み合わせにより、俺たち六人は休息をほとんど取ることなく、常人ではありえない速度で王都へと疾走した。

 ***

 その夜、俺たちは街道から外れた森の中で、最小限の焚き火を囲んでいた。休むためではない。次なる戦いのための作戦会議だ。

「さて、と」

 カズエルが、火にかけた鍋をかき混ぜながら口を開いた。

「クライアントは王都全体、要件は『大型飛行魔獣の討伐』、納期は『昨日』だ。典型的な無理筋案件だな。どう攻略するか、今のうちに仕様を固めようじゃないか」

 彼の皮肉めいた言葉に場の空気が少しだけ和らぐ。

 レオナルドが、手入れを終えた双剣を鞘に収めながら言った。

「空を飛ぶ敵は厄介だ。どうやって地に引きずり下ろすか。それが、この戦いの鍵になる」

 その言葉を受け、エルンが口を開いた。

「私の『終光ラスト・レイ』は高速で動く目標には向きません。ですので、まずは、より速射性の高い『光矢ルミナス・レイ』で翼を狙い、飛行能力を削ぐことに専念します」

「ルナの『感知の魔眼センス・アイ』なら、あいつが次にどこへ動くか、先が見えるかもしれない!」

 ルナが、自信ありげに胸を張る。

「ルナが教える場所にカインの『蒼いぴかー』を撃つの!」

 ルナの提案に俺はうなずいた。未来予測と必殺の一撃。最高の組み合わせだ。

「分かった。ルナの予測を信じて、俺の『蒼閃そうせん』で撃ち抜いてみる。敵が動きを止めているようなら、エルンの『終光ラスト・レイ』で、だ」

 俺が作戦の骨子を固める。

「カズエルは敵のブレス攻撃や魔法に対する防御結界を。魔獣が地に落ちたら、レオナルドとセリスが前衛としてとどめを刺す。……いいな?」

 仲間たちの顔に覚悟が決まった者の強い光が宿る。作戦は決まった。

 ***

 翌日、俺たちは再び、走り続けていた。
 道中、王都から避難してくる人々の隊列と何度もすれ違った。彼らの顔には恐怖と疲労が色濃く浮かんでいた。

「街の上を黒い翼の化け物が……」
「騎士団も手が出せないらしい……」

 断片的な情報が、事態の深刻さを物語っていた。

 ***

 そして、旅を始めて三日目の午後。俺たちの目の前に、ついに王都の城壁が見えてきた。
 だが、その光景は俺たちが『学術都市アーカイメリア』へ旅立った時とはあまりにも様変わりしていた。

 城壁のいくつかの塔からは黒い煙が立ち上っている。そして、街の上空を巨大な影が悠然ゆうぜんと旋回していた。
 時折、その影から稲妻のようなものが放たれ、街の一部で爆発が起きるのが遠目にも分かった。

 ゴオオオオオオッ!

 地平線の果てまで響き渡るかのような圧倒的な咆哮ほうこう。それは、この街の支配者が誰であるかを誇示してるようだった。

「……間に合った、のか。それとも手遅れか」

 俺は眼下に広がる惨状を前に拳を強く握りしめた。仲間たちの顔にも、悲壮な決意が浮かんでいる。

 俺たちの苦渋の決断の先に待っていたのは、想像を絶する巨大な絶望の影だった。
 王都の命運を賭けた戦いが、今、始まろうとしていた。
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