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第十一章 混沌の使徒
第206話 王都防衛戦
王都ロルディアは紅蓮の炎に包まれていた。
城門をくぐり抜けた瞬間、肌を焼くような熱波と、鼻をつく焦げ臭さが襲いかかってきた。
かつて活気に満ちていた大通りは瓦礫の山と化し、逃げ惑う人々の悲鳴と怒号が耳をつんざくような不協和音となって響き渡る。
「……ひどい。精霊たちの悲鳴が聞こえます……」
エルンが口元を押さえ、悲痛な声でつぶやく。その瞳には理不尽に踏みにじられた生命への涙が浮かんでいた。
俺もまた、奥歯が砕けそうなほど強く噛みしめていた。俺たちがここに来なければ、この光景はさらに広がり、すべてが灰になっていただろう。戻ってきて正解だった。だが――。
「上だ! 来るぞ!」
レオナルドの鋭い警告が俺たちの意識を空へと引き戻した。
頭上を覆う巨大な影。見上げれば、黒鉄の鱗に覆われた悪夢が、王都の空を我が物顔で支配していた。
翼竜とは比較にならない、圧倒的な質量と威圧感。その凶悪な顎門からは、バチバチと青白い火花が散っている。
「……ワイバーンロード。まさか、こんな場所に伝説級の魔獣が現れるとはな……」
カズエルが忌々しげに舌打ちをする。それは、一個師団で挑んでも全滅しかねない、災害そのものと呼べる怪物だ。
魔獣が口を開く。放たれた雷のブレスが、石造りの時計塔を紙細工のように粉砕した。崩れ落ちる瓦礫が逃げ遅れた人々へと降り注ぐ。
「くそっ! 急ぐぞ!」
俺たちは騎士団の臨時指揮所へと走った。
指揮官である壮年の騎士は、煤と血にまみれ、絶望に染まった目で立ち尽くしていた。だが、俺たちの姿を認めた瞬間、その目に一筋の希望が灯る。
「カイン殿! 来てくれたか! だが……見てくれ、この惨状を。我々の矢も魔法も、奴の硬い鱗には傷一つつけられん! もはや、打つ手が……!」
「諦めないでください!」
俺は指揮官の肩を、彼がよろめくほど強くたたいた。
「住民の避難誘導と、救護をお願いします。あの化け物は――俺たちが引き受けます」
俺の言葉に指揮官は涙を溜めて深くうなずいた。
俺たちは被害が最も大きい中央広場へと躍り出た。周囲には遮蔽物がなく、奴を迎え撃つには絶好の、そして最も危険な場所だ。
俺たちの存在に気づいたワイバーンロードが、空気を震わせる甲高い咆哮を上げる。その殺意だけで心臓が止まりそうなほどのプレッシャーが降り注ぐ。
「作戦通り、奴の注意を俺たちに引きつける! カズエル、頼む!」
「ああ、了解だ。……ったく、こいつは想定以上の『重い』処理になりそうだ」
カズエルは広場の中央に立ち、冷静な手つきで空中に幾何学模様を描き始めた。
「理式障壁、展開。全方位、対魔力・対物理、両面防御。……これで凌ぎ切ってみせる」
彼が低くつぶやくと同時に、俺たち六人を包み込む半透明のエネルギードームが形成される。
直後、上空から極太の雷撃が降り注いだ。ドームが激しく明滅し、耳をつんざく破裂音が響く。
「ぐっ……! エネルギー値が桁違いだな……!」
カズエルが膝を折りそうになりながらも、冷や汗を流して耐える。
「ルナ、敵の動きは!」
「見えてる! あいつ、すっごく怒ってる! 次は大きく回って、右から来るよ!」
ルナは恐怖に小さな体を震わせながらも、『感知の魔眼』を見開き、必死に未来を叫んだ。
「エルン、合わせられるか?」
「はい! この街をこれ以上傷つけさせはしません!」
エルンが杖を構える。その先端に収束するのは、彼女の祈りと、守るための決意だ。
「光の精霊ルミナよ、陽光石を代償に邪悪なる翼を射抜け——『光矢』!」
放たれた光の矢が一直線に空を駆け、ワイバーンロードの翼膜を正確に貫いた。ジュッ、と肉が焼ける音と共に魔獣が苦痛の悲鳴を上げる。
「当たった! けれど、浅い!」
セリスが剣を構えながら叫ぶ。傷ついた魔獣は怒りを倍増させ、その赫い瞳で明確に俺たちを――いや、攻撃を放ったエルンを標的に定めた。
「カイン、来るよ! エルンが狙われる! その直後、カインの目の前に尻尾が来る!」
ルナの悲鳴のような警告。死の予知。だが、それは同時に勝利への道筋でもある。
「分かった! 俺の番だな!」
俺は一歩前に踏み出した。
上空から、憤怒の塊となったワイバーンロードが急降下してくる。その巨大な爪がエルンを引き裂こうと迫る。
カズエルの障壁がきしむ音が聞こえる。エルンが息を呑む気配がする。だが、俺は動かない。敵を見ない。
俺が見つめるのは、ルナが示した「何もない空間」一点のみ。
(信じろ。ルナの目を。仲間の力を。そして、俺自身の技を!)
世界がスローモーションになる。俺は右手に全ての魔力を集中させた。水流を高圧で圧縮し、刃の形へと練り上げるイメージを固める。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光となりて迸れ——『蒼閃』!」
俺は誰もいない空へ向かって、全力で水の刃を解き放った。
一瞬の静寂。
その直後、ブレスを吐き終え、体勢を立て直そうと翼を広げたワイバーンロードの巨体が、自ら俺の刃の軌道へと飛び込んできた。
ザシュッ!!
水と肉が激突する生々しい音が響く。
『蒼閃』は寸分の狂いもなく、傷ついた翼の付け根、その最も脆い一点を深々と断ち切った。
「ギシャアアアアアアアアッ!!」
空気を震わす絶叫。
片翼を失った伝説の魔獣が、大量の鮮血を撒き散らしながらバランスを崩す。空の王者は、もはやただの墜落する肉塊と化し、錐揉しながら俺たちのいる広場へと迫る。
「来るぞ! 総員、衝撃に備えろ!」
レオナルドが叫び、セリスと共に俺たちの前に立ちはだかる。
ズウウウウンッ!
大地が悲鳴を上げ、凄まじい轟音と土煙が巻き上がった。俺たちは土埃の中で、砂を噛みながらも、墜ちた絶望を睨みつけた。
まだだ。戦いは、ここからが本番だ。
城門をくぐり抜けた瞬間、肌を焼くような熱波と、鼻をつく焦げ臭さが襲いかかってきた。
かつて活気に満ちていた大通りは瓦礫の山と化し、逃げ惑う人々の悲鳴と怒号が耳をつんざくような不協和音となって響き渡る。
「……ひどい。精霊たちの悲鳴が聞こえます……」
エルンが口元を押さえ、悲痛な声でつぶやく。その瞳には理不尽に踏みにじられた生命への涙が浮かんでいた。
俺もまた、奥歯が砕けそうなほど強く噛みしめていた。俺たちがここに来なければ、この光景はさらに広がり、すべてが灰になっていただろう。戻ってきて正解だった。だが――。
「上だ! 来るぞ!」
レオナルドの鋭い警告が俺たちの意識を空へと引き戻した。
頭上を覆う巨大な影。見上げれば、黒鉄の鱗に覆われた悪夢が、王都の空を我が物顔で支配していた。
翼竜とは比較にならない、圧倒的な質量と威圧感。その凶悪な顎門からは、バチバチと青白い火花が散っている。
「……ワイバーンロード。まさか、こんな場所に伝説級の魔獣が現れるとはな……」
カズエルが忌々しげに舌打ちをする。それは、一個師団で挑んでも全滅しかねない、災害そのものと呼べる怪物だ。
魔獣が口を開く。放たれた雷のブレスが、石造りの時計塔を紙細工のように粉砕した。崩れ落ちる瓦礫が逃げ遅れた人々へと降り注ぐ。
「くそっ! 急ぐぞ!」
俺たちは騎士団の臨時指揮所へと走った。
指揮官である壮年の騎士は、煤と血にまみれ、絶望に染まった目で立ち尽くしていた。だが、俺たちの姿を認めた瞬間、その目に一筋の希望が灯る。
「カイン殿! 来てくれたか! だが……見てくれ、この惨状を。我々の矢も魔法も、奴の硬い鱗には傷一つつけられん! もはや、打つ手が……!」
「諦めないでください!」
俺は指揮官の肩を、彼がよろめくほど強くたたいた。
「住民の避難誘導と、救護をお願いします。あの化け物は――俺たちが引き受けます」
俺の言葉に指揮官は涙を溜めて深くうなずいた。
俺たちは被害が最も大きい中央広場へと躍り出た。周囲には遮蔽物がなく、奴を迎え撃つには絶好の、そして最も危険な場所だ。
俺たちの存在に気づいたワイバーンロードが、空気を震わせる甲高い咆哮を上げる。その殺意だけで心臓が止まりそうなほどのプレッシャーが降り注ぐ。
「作戦通り、奴の注意を俺たちに引きつける! カズエル、頼む!」
「ああ、了解だ。……ったく、こいつは想定以上の『重い』処理になりそうだ」
カズエルは広場の中央に立ち、冷静な手つきで空中に幾何学模様を描き始めた。
「理式障壁、展開。全方位、対魔力・対物理、両面防御。……これで凌ぎ切ってみせる」
彼が低くつぶやくと同時に、俺たち六人を包み込む半透明のエネルギードームが形成される。
直後、上空から極太の雷撃が降り注いだ。ドームが激しく明滅し、耳をつんざく破裂音が響く。
「ぐっ……! エネルギー値が桁違いだな……!」
カズエルが膝を折りそうになりながらも、冷や汗を流して耐える。
「ルナ、敵の動きは!」
「見えてる! あいつ、すっごく怒ってる! 次は大きく回って、右から来るよ!」
ルナは恐怖に小さな体を震わせながらも、『感知の魔眼』を見開き、必死に未来を叫んだ。
「エルン、合わせられるか?」
「はい! この街をこれ以上傷つけさせはしません!」
エルンが杖を構える。その先端に収束するのは、彼女の祈りと、守るための決意だ。
「光の精霊ルミナよ、陽光石を代償に邪悪なる翼を射抜け——『光矢』!」
放たれた光の矢が一直線に空を駆け、ワイバーンロードの翼膜を正確に貫いた。ジュッ、と肉が焼ける音と共に魔獣が苦痛の悲鳴を上げる。
「当たった! けれど、浅い!」
セリスが剣を構えながら叫ぶ。傷ついた魔獣は怒りを倍増させ、その赫い瞳で明確に俺たちを――いや、攻撃を放ったエルンを標的に定めた。
「カイン、来るよ! エルンが狙われる! その直後、カインの目の前に尻尾が来る!」
ルナの悲鳴のような警告。死の予知。だが、それは同時に勝利への道筋でもある。
「分かった! 俺の番だな!」
俺は一歩前に踏み出した。
上空から、憤怒の塊となったワイバーンロードが急降下してくる。その巨大な爪がエルンを引き裂こうと迫る。
カズエルの障壁がきしむ音が聞こえる。エルンが息を呑む気配がする。だが、俺は動かない。敵を見ない。
俺が見つめるのは、ルナが示した「何もない空間」一点のみ。
(信じろ。ルナの目を。仲間の力を。そして、俺自身の技を!)
世界がスローモーションになる。俺は右手に全ての魔力を集中させた。水流を高圧で圧縮し、刃の形へと練り上げるイメージを固める。
「ウンディーヴァよ、蒼き閃光となりて迸れ——『蒼閃』!」
俺は誰もいない空へ向かって、全力で水の刃を解き放った。
一瞬の静寂。
その直後、ブレスを吐き終え、体勢を立て直そうと翼を広げたワイバーンロードの巨体が、自ら俺の刃の軌道へと飛び込んできた。
ザシュッ!!
水と肉が激突する生々しい音が響く。
『蒼閃』は寸分の狂いもなく、傷ついた翼の付け根、その最も脆い一点を深々と断ち切った。
「ギシャアアアアアアアアッ!!」
空気を震わす絶叫。
片翼を失った伝説の魔獣が、大量の鮮血を撒き散らしながらバランスを崩す。空の王者は、もはやただの墜落する肉塊と化し、錐揉しながら俺たちのいる広場へと迫る。
「来るぞ! 総員、衝撃に備えろ!」
レオナルドが叫び、セリスと共に俺たちの前に立ちはだかる。
ズウウウウンッ!
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まだだ。戦いは、ここからが本番だ。
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