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第十四章 鋼の誓いと禁断の火
第245話 王都への帰還、それぞれの夜
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ドワーフの都からの帰路は、行きとは全く違う空気に満ちていた。
焚き火を囲んで互いの胸の内を明かし、一つの覚悟を固めた俺とカズエルの間には、もう迷いはなかった。
ただ、これから待つ決戦の時と、その前にあるもう一つの告白に向けて、静かな決意だけが俺たちの歩みを速めていた。
***
数日後。
王都ロルディアの壮麗な城壁が、再び俺たちの眼前に姿を現す。
活気を取り戻した街並み、行き交う人々の穏やかな表情。その光景に、俺たちは、この日常を守るために戦うのだと改めて胸に刻んだ。
王家から与えられた屋敷の重厚な扉を開けると、そこには、俺たちの帰りを待つ仲間たちの姿があった。
「カイン! カズエル!」
一番に駆け寄ってきたのは、やはりルナだった。彼女は満面の笑みで俺とカズエルの周りをぴょんぴょんと跳ね回っている。
「おかえりなさい! 指輪、できた!? すごいのできた!?」
「まあ、待て。ルナ、飛びつくな。……後のお楽しみだ」
俺がルナの頭を軽く撫でてなだめると、レオナルドが壁に寄りかかったまま、静かにうなずいた。
「……無事だったか。顔つきが少し変わったな」
彼のぶっきらぼうな言葉には、彼なりの鋭い観察眼と安堵がにじんでいる。
そして、エルンとセリスが俺たちの前に進み出た。その瞳には緊張と、そして隠しきれない期待の色が揺らめいていた。
「おかえりなさい、カイン」
「ご無事で何よりです。……お待ちしておりました」
二人の出迎えに俺とカズエルは短く「ただいま」とだけ返した。それ以上の言葉は、今はまだ胸の内にしまっておく。
「不在の間、王国の動向について、いくつかまとめておきました」
談話室のテーブルには、エルンたちがまとめたであろう、いくつかの報告書が几帳面に広げられていた。
レオンハルト王の改革が順調に進んでいること、反乱分子の残党が一掃されたこと、そして、民衆の間に俺たち英雄への信頼が、より一層深く根付いていること。
彼女たちは、ただ待っていただけではない。俺たちが安心して戻れるよう、自分たちの役割を確かに果たしてくれていたのだ。
「……ありがとう。助かる」
俺は報告書に目を通しながら、懐の小さな革袋の感触を、そっと確かめた。
その日の夕食は久しぶりに六人全員が揃った温かい食卓だった。
前回のあの凍りつくような気まずい空気はもうない。だが、その代わりに、どこかそわそわとした、落ち着かない甘やかな空気が漂っている。
特に、俺とカズエル、そしてエルンとセリスの間には、言葉にならない緊張感が流れていた。誰も核心には触れないが、誰もが、その時が近いことを予感している。
やがて夜が更け、レオナルドとルナが気を利かせて早々に自室へと戻っていった。
俺は談話室に一人残り、パチパチと爆ぜる暖炉の火を見つめていた。
革袋から、二つの指輪を取り出す。
水の精霊の加護を宿した、静かな輝き。これを彼女に渡す。そして伝えるんだ。作戦でも、けじめでもない、俺の本当の気持ちを。
(……できるか、俺に)
恋愛経験など、元の世界でもはるか昔の遠い記憶だ。
賢者と呼ばれようと中身はただの不器用な男だ。そんな俺が、あの気高い彼女に何を伝えられるというのか。
不安が胸をよぎる。だが、俺は強く指輪を握りしめた。その冷たく硬い感触が俺に勇気をくれる。
その時、ふと書斎の方に目をやると、カズエルが窓辺に立ち、一人で月を見上げているのが見えた。
彼もまた、覚悟を決めているのだろう。
俺たちはガラス越しに視線が合うと、互いに無言のまま、一つ、強くうなずき合った。
もう、後には引けない。賽は投げられたのだ。
俺はエルンがいるであろう、屋敷のバルコニーへと向かって、ゆっくりと歩き出した。
カズエルもまた、セリスが日課の素振りをしているであろう、中庭の訓練場へと静かに足を向ける。
それぞれの夜。それぞれの誓いのために。
偽りの婚約に真実の想いを灯すための、長く、そして熱い夜が始まろうとしていた。
焚き火を囲んで互いの胸の内を明かし、一つの覚悟を固めた俺とカズエルの間には、もう迷いはなかった。
ただ、これから待つ決戦の時と、その前にあるもう一つの告白に向けて、静かな決意だけが俺たちの歩みを速めていた。
***
数日後。
王都ロルディアの壮麗な城壁が、再び俺たちの眼前に姿を現す。
活気を取り戻した街並み、行き交う人々の穏やかな表情。その光景に、俺たちは、この日常を守るために戦うのだと改めて胸に刻んだ。
王家から与えられた屋敷の重厚な扉を開けると、そこには、俺たちの帰りを待つ仲間たちの姿があった。
「カイン! カズエル!」
一番に駆け寄ってきたのは、やはりルナだった。彼女は満面の笑みで俺とカズエルの周りをぴょんぴょんと跳ね回っている。
「おかえりなさい! 指輪、できた!? すごいのできた!?」
「まあ、待て。ルナ、飛びつくな。……後のお楽しみだ」
俺がルナの頭を軽く撫でてなだめると、レオナルドが壁に寄りかかったまま、静かにうなずいた。
「……無事だったか。顔つきが少し変わったな」
彼のぶっきらぼうな言葉には、彼なりの鋭い観察眼と安堵がにじんでいる。
そして、エルンとセリスが俺たちの前に進み出た。その瞳には緊張と、そして隠しきれない期待の色が揺らめいていた。
「おかえりなさい、カイン」
「ご無事で何よりです。……お待ちしておりました」
二人の出迎えに俺とカズエルは短く「ただいま」とだけ返した。それ以上の言葉は、今はまだ胸の内にしまっておく。
「不在の間、王国の動向について、いくつかまとめておきました」
談話室のテーブルには、エルンたちがまとめたであろう、いくつかの報告書が几帳面に広げられていた。
レオンハルト王の改革が順調に進んでいること、反乱分子の残党が一掃されたこと、そして、民衆の間に俺たち英雄への信頼が、より一層深く根付いていること。
彼女たちは、ただ待っていただけではない。俺たちが安心して戻れるよう、自分たちの役割を確かに果たしてくれていたのだ。
「……ありがとう。助かる」
俺は報告書に目を通しながら、懐の小さな革袋の感触を、そっと確かめた。
その日の夕食は久しぶりに六人全員が揃った温かい食卓だった。
前回のあの凍りつくような気まずい空気はもうない。だが、その代わりに、どこかそわそわとした、落ち着かない甘やかな空気が漂っている。
特に、俺とカズエル、そしてエルンとセリスの間には、言葉にならない緊張感が流れていた。誰も核心には触れないが、誰もが、その時が近いことを予感している。
やがて夜が更け、レオナルドとルナが気を利かせて早々に自室へと戻っていった。
俺は談話室に一人残り、パチパチと爆ぜる暖炉の火を見つめていた。
革袋から、二つの指輪を取り出す。
水の精霊の加護を宿した、静かな輝き。これを彼女に渡す。そして伝えるんだ。作戦でも、けじめでもない、俺の本当の気持ちを。
(……できるか、俺に)
恋愛経験など、元の世界でもはるか昔の遠い記憶だ。
賢者と呼ばれようと中身はただの不器用な男だ。そんな俺が、あの気高い彼女に何を伝えられるというのか。
不安が胸をよぎる。だが、俺は強く指輪を握りしめた。その冷たく硬い感触が俺に勇気をくれる。
その時、ふと書斎の方に目をやると、カズエルが窓辺に立ち、一人で月を見上げているのが見えた。
彼もまた、覚悟を決めているのだろう。
俺たちはガラス越しに視線が合うと、互いに無言のまま、一つ、強くうなずき合った。
もう、後には引けない。賽は投げられたのだ。
俺はエルンがいるであろう、屋敷のバルコニーへと向かって、ゆっくりと歩き出した。
カズエルもまた、セリスが日課の素振りをしているであろう、中庭の訓練場へと静かに足を向ける。
それぞれの夜。それぞれの誓いのために。
偽りの婚約に真実の想いを灯すための、長く、そして熱い夜が始まろうとしていた。
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