50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
256 / 330
第十四章 鋼の誓いと禁断の火

第256話 鋼の誓い、竜との戦い

 俺の言葉に鍛冶王バルグラスは心の底から安堵したように、その顔を深く歪ませた。
 玉座の間を支配していた、あの窒息するような緊迫感は霧散した。
 代わりにそこを満たしたのは、友が友の苦悩を受け止め、その未来を共に背負うと決めた、重く、確かな信頼だった。
 王は俺の肩を掴むその屈強な手に、ドワーフの王としての、民の父としての、全ての想いを込めているようだった。

「……恩に着る、カイン。この国は、いや、わしは生涯、そなたという友を忘れん」

 それはもはや、一国の王と一人の英雄との間の公式なやり取りではなかった。魂と魂が交わした、鋼よりも固い誓約。
 セイオンが仕掛けた世界を揺るがす罠は、一人の王の気高い決断と、俺たちの覚悟によって、ひとまずは乗り越えられたのだ。

 だが、平穏が訪れたわけではない。その先には神話の時代から生き続ける炎の化身との、あまりにも過酷な戦いが待っている。

 俺たちは早速、王宮から貸し与えられた書庫で、来るべき決戦に向けた準備を開始した。そこには王家の者しか閲覧を許されない、古竜マグナ・イグニスに関する数少ない古文書が保管されていた。

「……マグナ・イグニス。別名、山を喰らう者。そのブレスは鋼鉄すら一瞬で蒸発させ、その鱗は、いかなる魔法も弾き返す、と……」 

 カズエルが古びた羊皮紙を読み解きながら、淡々と、しかし、どこか苦々しげに、その絶望的な情報を分析していく 。
 書庫にバルグラス王が数名の屈強なドワーフ戦士を伴って現れたのはその時だった。
 王は真剣な眼差しで俺たちを見据えていた。

「ここにいるのは我が国最強の精鋭部隊、炉の斧守フォージ・ガードだ。彼らをそなたたちの討伐隊に同行させよう。必ずや、力になるはずだ」 

 王の共闘を望む誠実な想いが痛いほどに伝わってくる。自国の問題を他人に預けきりにできない、彼らしい矜持きょうじだ。
 俺は深く頭を下げたが、静かに、しかし断固として首を横に振った。

「お気持ち、心から感謝いたします、陛下。ですが……」 

 俺の意図を汲み、カズエルが言葉を引き継ぐ。

「陛下。我々の戦い方は長年の旅で培った特殊な連携の上に成り立っています。そこにどれほど屈強な戦士が加わったとしても、即座に呼吸を合わせるのは難しい。古竜という理不尽な相手に対し、その、ほんの一瞬の乱れが部隊全体の全滅を招きかねないのです」

 俺も王の目を見てうなずいた。

「俺たちは少数精鋭で敵の懐に飛び込む戦い方を得意としています。まずは俺たちだけで竜の巣へと潜入し、活路を探りたい。……もし、それでも状況が打開できず、援軍が必要になった時は、必ずこちらから声をかけます。どうかそれまで、我々を信じてはいただけませんか」 

 俺の言葉にバルグラスはしばらくの間、腕を組み、深く考え込んでいた。
 やがて彼は一つ大きく息を吐くと、その決断を受け入れ、精鋭たちを下がらせた。

「……わかった。そなたたちの力を信じよう。だが、決して無駄死にはするな。生きて帰ること。それこそが友であるわしの願いだ」

 出発の朝。グラムベルクの北門にはバルグラス王自らが見送りに立っていた。

「カインよ。これは我が国が誇る最高の装備だ。持っていくがいい」 

 彼が差し出したのは竜の炎熱にも耐えうるという黒光りする耐熱軽鎧と、霊峰の正確な地図だった。
 鎧は驚くほど軽く、それでいて鉄壁の守りを感じさせる。俺はその重厚な装備と、そこに込められた王の想いを確かに受け取った。

 俺たちはドワーフ王国の未来をその両肩に背負い、竜が棲むという北の霊峰へ、その一歩を踏み出した。空は高く、空気はひりつくほどに冷たい。

(……カイラン、聞こえているか? 闇の精霊との一件以来、お前の声がずっと聞こえない。でも、まだ、俺の中にいるのは分かるんだ)

 俺は心の中で沈黙を続ける、もう一人の自分に語りかけた。

(……エルンと結婚を誓い、神話に出てくるような古竜を討伐しに行くことになったよ。大切な仲間と一緒に)

 俺は共に歩む仲間たちの、その頼もしい背中を見つめた。

(今は俺たちが、六人の力だけで、この絶望を突破してみせる。……見ていてくれ、カイラン)

 俺たちの新たな、そして、これまでの旅で最も過酷な戦いが始まろうとしていた。

第十四章・完
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!