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第十五章 マグナ・イグニスの目覚め
第258話 竜の咆哮
先ほどまでの大地の振動とは明らかに質が違っていた。
それは永い眠りから覚めようとする古の竜王が放つ、大気を震わせる産声。
「……間違いない。完全に覚醒の段階に入っている」
レオナルドが愛剣の柄を指が白くなるほど強く握りしめながら低い声でつぶやく。
俺の肌にも、ビリビリとした高密度の魔力の圧が突き刺さる。カインとしてこの世界で対峙してきたどの魔獣とも比較にならない、絶対的な存在感。神話そのものが、この霊峰を支配していた。
崖の上から見下ろす光景はまさに焦土という言葉がふさわしかった。
見渡す限り、命の気配を拒絶するように黒く焼け焦げた大地。その無数の裂け目からは、どろりとした溶岩が、まるで地脈を流れる赤い血のように鈍い光を放ちながらゆっくりと流れていた。
「あついよぉ……息ができない……」
俺が展開した『水精の護り』の冷気がなければ、ルナはとっくに意識を失っていただろう。それでも、絶えず立ち上る熱気と肺を焼くような硫黄の匂いが、俺たちの呼吸を浅く、苦しくさせる。
「火の精霊たちが……歓喜している。この圧倒的な熱と純粋な破壊を……」
エルンが杖を胸元で抱きしめ、畏怖の念を込めて言った。彼女の目にはこの世の摂理を超越した光景への、逃れようのない驚愕が映っていた。
「気を抜くな。この地形だ、どこからブレスが来てもおかしくないぞ」
レオナルドの警告に、俺たちはさらに身を引き締める。
彼の先導に従い、俺たちは溶岩流を避けながら、盆地の中心部へと続く、かろうじて残された狭い岩道を進んでいった。
そして、ついに。その咆哮が至近距離で轟いた。
ゴオオオオオオオオオオオッ!!!
空気が塊となって叩きつけられた。
もはや音ではない。それは純粋な指向性を持った物理的な圧力だった。足元の分厚い岩盤が悲鳴を上げて震え、立っていることすらままならない。
俺は咄嗟にルナを抱き寄せて庇うように屈み、仲間たちもまた、その圧倒的な衝撃に耐えるように身を低くするしかなかった。
「……今のは威嚇ですらない。ただの呼吸だというのか……!」
カズエルが眼鏡を指で押さえ、信じられないものを見るようにつぶやいた。
その時。盆地の中心、煮えたぎる溶岩の海の中から、ゆっくりと、それが姿を現した。
山脈の一部が動き出したかと見紛うほどの巨大な頭部。
溶岩の赤を映し、月光を鈍く跳ね返す、黒曜石のごとき漆黒の鱗。
俺たちの立っている丘が、まるで足元の小石のように思えるほどの圧倒的な質量。
古竜マグナ・イグニス。
その、あまりにも神々しく、そして、あまりにも絶望的な存在感を前にして、俺たちはただ、言葉を失い立ち尽くすしかなかった。
やがて、その巨大な頭部が、ゆっくりとこちらを向く。溶岩のように赤く、そして星々よりも古い叡智と苛烈さを宿した巨大な瞳がゆっくりと開かれた。
その視線が、俺たちを――。
まるで、広大な砂漠に落ちた一粒の塵芥のように静かに、そして冷徹に捉えた。
戦いの火蓋はまだ切られていない。
だが俺たちはすでにその絶対的な力の奔流に呑み込まれ、本能的な敗北の予感に震えていた。
それは永い眠りから覚めようとする古の竜王が放つ、大気を震わせる産声。
「……間違いない。完全に覚醒の段階に入っている」
レオナルドが愛剣の柄を指が白くなるほど強く握りしめながら低い声でつぶやく。
俺の肌にも、ビリビリとした高密度の魔力の圧が突き刺さる。カインとしてこの世界で対峙してきたどの魔獣とも比較にならない、絶対的な存在感。神話そのものが、この霊峰を支配していた。
崖の上から見下ろす光景はまさに焦土という言葉がふさわしかった。
見渡す限り、命の気配を拒絶するように黒く焼け焦げた大地。その無数の裂け目からは、どろりとした溶岩が、まるで地脈を流れる赤い血のように鈍い光を放ちながらゆっくりと流れていた。
「あついよぉ……息ができない……」
俺が展開した『水精の護り』の冷気がなければ、ルナはとっくに意識を失っていただろう。それでも、絶えず立ち上る熱気と肺を焼くような硫黄の匂いが、俺たちの呼吸を浅く、苦しくさせる。
「火の精霊たちが……歓喜している。この圧倒的な熱と純粋な破壊を……」
エルンが杖を胸元で抱きしめ、畏怖の念を込めて言った。彼女の目にはこの世の摂理を超越した光景への、逃れようのない驚愕が映っていた。
「気を抜くな。この地形だ、どこからブレスが来てもおかしくないぞ」
レオナルドの警告に、俺たちはさらに身を引き締める。
彼の先導に従い、俺たちは溶岩流を避けながら、盆地の中心部へと続く、かろうじて残された狭い岩道を進んでいった。
そして、ついに。その咆哮が至近距離で轟いた。
ゴオオオオオオオオオオオッ!!!
空気が塊となって叩きつけられた。
もはや音ではない。それは純粋な指向性を持った物理的な圧力だった。足元の分厚い岩盤が悲鳴を上げて震え、立っていることすらままならない。
俺は咄嗟にルナを抱き寄せて庇うように屈み、仲間たちもまた、その圧倒的な衝撃に耐えるように身を低くするしかなかった。
「……今のは威嚇ですらない。ただの呼吸だというのか……!」
カズエルが眼鏡を指で押さえ、信じられないものを見るようにつぶやいた。
その時。盆地の中心、煮えたぎる溶岩の海の中から、ゆっくりと、それが姿を現した。
山脈の一部が動き出したかと見紛うほどの巨大な頭部。
溶岩の赤を映し、月光を鈍く跳ね返す、黒曜石のごとき漆黒の鱗。
俺たちの立っている丘が、まるで足元の小石のように思えるほどの圧倒的な質量。
古竜マグナ・イグニス。
その、あまりにも神々しく、そして、あまりにも絶望的な存在感を前にして、俺たちはただ、言葉を失い立ち尽くすしかなかった。
やがて、その巨大な頭部が、ゆっくりとこちらを向く。溶岩のように赤く、そして星々よりも古い叡智と苛烈さを宿した巨大な瞳がゆっくりと開かれた。
その視線が、俺たちを――。
まるで、広大な砂漠に落ちた一粒の塵芥のように静かに、そして冷徹に捉えた。
戦いの火蓋はまだ切られていない。
だが俺たちはすでにその絶対的な力の奔流に呑み込まれ、本能的な敗北の予感に震えていた。
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