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第十五章 マグナ・イグニスの目覚め
第259話 初撃と絶望
神と見紛うほどの質量。古竜マグナ・イグニス。
その巨大な瞳が俺たちを――広大な砂漠に落ちた一粒の塵芥を見るかのように、静かに捉えていた。
周囲の空気が鉛のように重く、肺が酸素を拒絶する。
パーティーの誰もが、その圧倒的な存在感を前に、生存本能が命じるまま指一本動かせずにいた。
「……レオナルド、セリス!」
俺は凍りついた喉の奥から血を吐くような思いで叫んだ。
「威力偵察だ! 奴の初動と鱗の硬度を探る……動けッ!」
その悲鳴に近い号令が、仲間たちの覚悟に火を灯した。
二人の剣士は弾かれたように同時に地を蹴る。
レオナルドは右から、セリスは左から。異なる軌道を描き、死角から竜の巨体へと肉薄していく。
だが、マグナ・イグニスはその二人を敵とすら認識していなかった。
その視線は後方に控える俺たち――魔法という火力を有する者たちへと緩慢に向けられる。
その瞬間、周囲の空気が一点へと吸い込まれ、真空状態が生まれた。奴の巨大な顎が開かれ、その喉の奥に世界の終焉を凝縮したような眩い光が収束していく。
「まずい、ブレスが来るぞ! 総員、最大防御ッ!」
カズエルが絶叫し、俺が魔法を展開したのはほぼ同時だった。
「理式障壁、最大展開!」
「ウンディーヴァよ、我が魔力を代償に大いなる水の壁をここに築け――大水壁!」
透明な理の壁と、逆巻く水の壁。俺たちが今なし得る二重の絶対防御が形成された。
直後、世界が白と赤に塗り潰された。
マグナ・イグニスが放った広範囲のマグマブレスが、全てを薙ぎ払ったのだ。
轟音。
俺の水壁は接触した瞬間に水蒸気爆発を起こして霧散した。
カズエルの理式障壁にも、一瞬で蜘蛛の巣のような亀裂が走る。障壁がみしみしと軋み、悲鳴を上げる。
俺たちは直接ブレスを浴びてすらいない。その余波と熱風だけで、身体は数メートルも後方へと吹き飛ばされた。
「ぐっ……ぁ……ッ!」
溶岩流の熱を孕んだ地面に叩きつけられ、肺から無理やり空気が絞り出される。視界が火花の散る暗転に襲われた。
「まだよ……ここで引いたら……!」
熱水の霧の中から、エルンが立ち上がった。彼女の杖の先には万物を崩壊させる紫色の終焉が宿っている。
「これなら……届いて! ――終光!」
彼女が放った不可視の破壊光線が竜の側腹部に着弾した。だが――。
その硬い黒曜鱗は、最高位の攻撃魔法すらも、まるで春の雨でも浴びるかのように受け流した。術は鱗の表面を焦がすことすらできず、虚しく光の粒となって霧散した。
「嘘……私の最大火力が……かすりもしないなんて……」
エルンが絶望に目を見開く。
その横をセリスの剣が風を切って走った。彼女はブレスの隙を突き、竜の左後脚へと滑り込むように回り込む。そして、その巨大な足首目掛けて、愛剣『風哭』を渾身の力で叩き込んだ。
キィィィィィィィンッ!!
耳を劈く金属音。
刃は黒曜鱗に弾かれ、凄まじい火花を散らした。手応えはない。まるで、そびえ立つ山そのものを細剣で突いたかのような無力感。
鱗の表面をわずかに削っただけで、セリスの手首は衝撃に悲鳴を上げ、剣を握り続けることすら困難なほどに痺れていた。
「……なんて、硬さ……」
最強の剣も、極大の魔法も。この絶対的な摂理の前では、ただの児戯に過ぎなかった。
「……撤退だ! 全員下がれッ!」
俺は叫んだ。これ以上やれば、無駄死にするだけだ。
「ここから離れるぞ! 総員退却だ!」
俺たちは負傷した仲間を互いに担ぎ、命からがらその場から離脱した。
マグナ・イグニスは、そんな俺たちの逃亡を追おうともしなかった。ただ、その巨大な赤き瞳で、羽虫の逃走を見送るかのように、静かに見下ろしているだけだった。
圧倒的な力の差。抗うことすら許されない絶対的な絶望。
賢者として、英雄として、数々の死線を乗り越えてきたはずの俺の心に、この世界に来て初めて、完全な敗北の二文字が、重く、刻み込まれていた。
その巨大な瞳が俺たちを――広大な砂漠に落ちた一粒の塵芥を見るかのように、静かに捉えていた。
周囲の空気が鉛のように重く、肺が酸素を拒絶する。
パーティーの誰もが、その圧倒的な存在感を前に、生存本能が命じるまま指一本動かせずにいた。
「……レオナルド、セリス!」
俺は凍りついた喉の奥から血を吐くような思いで叫んだ。
「威力偵察だ! 奴の初動と鱗の硬度を探る……動けッ!」
その悲鳴に近い号令が、仲間たちの覚悟に火を灯した。
二人の剣士は弾かれたように同時に地を蹴る。
レオナルドは右から、セリスは左から。異なる軌道を描き、死角から竜の巨体へと肉薄していく。
だが、マグナ・イグニスはその二人を敵とすら認識していなかった。
その視線は後方に控える俺たち――魔法という火力を有する者たちへと緩慢に向けられる。
その瞬間、周囲の空気が一点へと吸い込まれ、真空状態が生まれた。奴の巨大な顎が開かれ、その喉の奥に世界の終焉を凝縮したような眩い光が収束していく。
「まずい、ブレスが来るぞ! 総員、最大防御ッ!」
カズエルが絶叫し、俺が魔法を展開したのはほぼ同時だった。
「理式障壁、最大展開!」
「ウンディーヴァよ、我が魔力を代償に大いなる水の壁をここに築け――大水壁!」
透明な理の壁と、逆巻く水の壁。俺たちが今なし得る二重の絶対防御が形成された。
直後、世界が白と赤に塗り潰された。
マグナ・イグニスが放った広範囲のマグマブレスが、全てを薙ぎ払ったのだ。
轟音。
俺の水壁は接触した瞬間に水蒸気爆発を起こして霧散した。
カズエルの理式障壁にも、一瞬で蜘蛛の巣のような亀裂が走る。障壁がみしみしと軋み、悲鳴を上げる。
俺たちは直接ブレスを浴びてすらいない。その余波と熱風だけで、身体は数メートルも後方へと吹き飛ばされた。
「ぐっ……ぁ……ッ!」
溶岩流の熱を孕んだ地面に叩きつけられ、肺から無理やり空気が絞り出される。視界が火花の散る暗転に襲われた。
「まだよ……ここで引いたら……!」
熱水の霧の中から、エルンが立ち上がった。彼女の杖の先には万物を崩壊させる紫色の終焉が宿っている。
「これなら……届いて! ――終光!」
彼女が放った不可視の破壊光線が竜の側腹部に着弾した。だが――。
その硬い黒曜鱗は、最高位の攻撃魔法すらも、まるで春の雨でも浴びるかのように受け流した。術は鱗の表面を焦がすことすらできず、虚しく光の粒となって霧散した。
「嘘……私の最大火力が……かすりもしないなんて……」
エルンが絶望に目を見開く。
その横をセリスの剣が風を切って走った。彼女はブレスの隙を突き、竜の左後脚へと滑り込むように回り込む。そして、その巨大な足首目掛けて、愛剣『風哭』を渾身の力で叩き込んだ。
キィィィィィィィンッ!!
耳を劈く金属音。
刃は黒曜鱗に弾かれ、凄まじい火花を散らした。手応えはない。まるで、そびえ立つ山そのものを細剣で突いたかのような無力感。
鱗の表面をわずかに削っただけで、セリスの手首は衝撃に悲鳴を上げ、剣を握り続けることすら困難なほどに痺れていた。
「……なんて、硬さ……」
最強の剣も、極大の魔法も。この絶対的な摂理の前では、ただの児戯に過ぎなかった。
「……撤退だ! 全員下がれッ!」
俺は叫んだ。これ以上やれば、無駄死にするだけだ。
「ここから離れるぞ! 総員退却だ!」
俺たちは負傷した仲間を互いに担ぎ、命からがらその場から離脱した。
マグナ・イグニスは、そんな俺たちの逃亡を追おうともしなかった。ただ、その巨大な赤き瞳で、羽虫の逃走を見送るかのように、静かに見下ろしているだけだった。
圧倒的な力の差。抗うことすら許されない絶対的な絶望。
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