267 / 330
第十五章 マグナ・イグニスの目覚め
第267話 失われたもの
蒼き閃光が竜の体を貫き、内部を崩壊させていく。
マグナ・イグニスは天を仰いだまま、その巨体を大きく震わせた。もはや、声にならない断末魔の咆哮が天地を揺るがす。
「ギ……シャアアアアア……ア……」
それは、神話の時代から生きてきた絶対的な存在の最期の叫びだった。
やがて、漆黒の巨体から、ゆっくりと力が抜けていく。山と見紛うほどの体躯は、その重さに耐えきれず、轟音と共に大地へと倒れ伏した。
地響きが収まり、戦場には完全な静寂が訪れる。
古竜マグナ・イグニスは永い生の終わりをついに迎えたのだ。
俺はその場に膝から崩れ落ち、荒い呼吸を繰り返した。
仲間たちもまた、疲労困憊で、その場から一歩も動けずにいる。
ただ一人、筆頭神官セイオンだけが、まるで美しい劇の終幕を観劇したかのように、崖の上で佇んでいた。
「……素晴らしい結末だ」
彼は満足げにそうつぶやき、眼下で繰り広げられる俺たちの惨状を見下ろし続けていた。
戦いは終わった。だが、俺たちの心に勝利の歓喜はなかった。
「レオナルド! セリス!」
俺は残された最後の力を振り絞り、倒れている二人の剣士へと駆け寄った。
その隣で、ルナが二人の無残な姿を見て、小さな悲鳴を上げる。
「そんな……腕が……ない……。セリスの腕も、真っ黒……」
ルナの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。彼女は震える声で、駆け寄ってきたエルンに必死に問いかけた。
「ねえ、エルン! 治せるよね? 魔法で、ちゃんと元に戻るんだよね!?」
その、あまりにも純粋な願いに、エルンは強く唇を噛みしめた。
「エルン! 治癒魔法を!」
俺の叫びにエルンが即座に反応する。
「ええ! 今すぐに!」
彼女は腰のポーチから最後の非常用ポーションを取り出し、一気に飲み干す。
わずかに回復させた魔力を必死に杖へと注ぎ込んだ。そして、出血のひどい、レオナルドの治療に取り掛かる。
レオナルドは失われた右腕の付け根をただ呆然と見つめていた。
カズエルの理式が痛覚を完全に遮断しているため、そこに苦痛の色はない。だが、出血したまま動き回っていた彼の意識はこと切れる寸前だった。
その隣ではカズエルがセリスの元に膝をつき、彼女の負傷を観察していた。
セリスの右腕……いや、そこにあったのは、もはや腕ではなかった。肩口から肘にかけては鎧ごと黒く炭化し、かろうじて人の腕の形を留めている。だが、その肘から先はマグマの超高熱によって、完全に蒸発し、消失していた。
「くそっ……! 俺の理式が不完全だったから……!」
カズエルが自分を責めるように叫び、拳を氷の地面に叩きつけた。
そんな彼に朦朧としながらも、セリスはか細い声で語りかけた。
「…指輪のおかげで、命は守られたわ。ありがとう…」
その言葉にカズエルは、ただ、彼女の無事な左手を強く握り返すことしかできなかった。彼の理知的な仮面は完全に剥がれ落ち、大切な人を守りきれなかったという後悔が滲んでいた。
二人の間にはこの過酷な状況下で生まれた、より深く、そして切ない絆が結ばれようとしていた。
「エルン……頼む……!」
カズエルの絞り出すような声に応え、エルンがセリスに癒しの光を注ぐ。
二人の出血は止まり、傷口をふさぐことはできたが、失われた腕の再生まではできなかった。
「いやだ……! 治らないなんて、そんなのって……」
ルナの悲痛な叫びが氷獄の静寂に突き刺さった。
勝ったはずだった。だが、俺たちの目の前にあるのは、あまりにも大きな取り返しのつかない代償だった。
マグナ・イグニスは天を仰いだまま、その巨体を大きく震わせた。もはや、声にならない断末魔の咆哮が天地を揺るがす。
「ギ……シャアアアアア……ア……」
それは、神話の時代から生きてきた絶対的な存在の最期の叫びだった。
やがて、漆黒の巨体から、ゆっくりと力が抜けていく。山と見紛うほどの体躯は、その重さに耐えきれず、轟音と共に大地へと倒れ伏した。
地響きが収まり、戦場には完全な静寂が訪れる。
古竜マグナ・イグニスは永い生の終わりをついに迎えたのだ。
俺はその場に膝から崩れ落ち、荒い呼吸を繰り返した。
仲間たちもまた、疲労困憊で、その場から一歩も動けずにいる。
ただ一人、筆頭神官セイオンだけが、まるで美しい劇の終幕を観劇したかのように、崖の上で佇んでいた。
「……素晴らしい結末だ」
彼は満足げにそうつぶやき、眼下で繰り広げられる俺たちの惨状を見下ろし続けていた。
戦いは終わった。だが、俺たちの心に勝利の歓喜はなかった。
「レオナルド! セリス!」
俺は残された最後の力を振り絞り、倒れている二人の剣士へと駆け寄った。
その隣で、ルナが二人の無残な姿を見て、小さな悲鳴を上げる。
「そんな……腕が……ない……。セリスの腕も、真っ黒……」
ルナの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。彼女は震える声で、駆け寄ってきたエルンに必死に問いかけた。
「ねえ、エルン! 治せるよね? 魔法で、ちゃんと元に戻るんだよね!?」
その、あまりにも純粋な願いに、エルンは強く唇を噛みしめた。
「エルン! 治癒魔法を!」
俺の叫びにエルンが即座に反応する。
「ええ! 今すぐに!」
彼女は腰のポーチから最後の非常用ポーションを取り出し、一気に飲み干す。
わずかに回復させた魔力を必死に杖へと注ぎ込んだ。そして、出血のひどい、レオナルドの治療に取り掛かる。
レオナルドは失われた右腕の付け根をただ呆然と見つめていた。
カズエルの理式が痛覚を完全に遮断しているため、そこに苦痛の色はない。だが、出血したまま動き回っていた彼の意識はこと切れる寸前だった。
その隣ではカズエルがセリスの元に膝をつき、彼女の負傷を観察していた。
セリスの右腕……いや、そこにあったのは、もはや腕ではなかった。肩口から肘にかけては鎧ごと黒く炭化し、かろうじて人の腕の形を留めている。だが、その肘から先はマグマの超高熱によって、完全に蒸発し、消失していた。
「くそっ……! 俺の理式が不完全だったから……!」
カズエルが自分を責めるように叫び、拳を氷の地面に叩きつけた。
そんな彼に朦朧としながらも、セリスはか細い声で語りかけた。
「…指輪のおかげで、命は守られたわ。ありがとう…」
その言葉にカズエルは、ただ、彼女の無事な左手を強く握り返すことしかできなかった。彼の理知的な仮面は完全に剥がれ落ち、大切な人を守りきれなかったという後悔が滲んでいた。
二人の間にはこの過酷な状況下で生まれた、より深く、そして切ない絆が結ばれようとしていた。
「エルン……頼む……!」
カズエルの絞り出すような声に応え、エルンがセリスに癒しの光を注ぐ。
二人の出血は止まり、傷口をふさぐことはできたが、失われた腕の再生まではできなかった。
「いやだ……! 治らないなんて、そんなのって……」
ルナの悲痛な叫びが氷獄の静寂に突き刺さった。
勝ったはずだった。だが、俺たちの目の前にあるのは、あまりにも大きな取り返しのつかない代償だった。
あなたにおすすめの小説
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!