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第十六章 生命の理と世界の天秤
第282話 不在の神官、開かれた扉
学術都市からの使者が訪れたという報せに、エルフェンリートの森の議事堂は再び、三国の代表者たちが集う緊張の舞台となった。
議事堂に現れたのはアーカイメリアの法衣をまとった一人の高官だった。
無機質な銀縁眼鏡をかけ、感情の読めない瞳をしたその男は俺たち三国同盟の代表者を前にしても動じることなく、恭しく一礼した。
「三国同盟の代表者様方。賢人会議より、貴殿らの要求に対する正式な回答をお持ちしました」
議事堂の空気が張り詰める。
カズエルが眼鏡の奥の瞳を細め、ドランが腕組みをして鼻を鳴らす。俺は静かに先を促した。
「聞こう」
使者は羊皮紙を広げ、淡々とした口調で読み上げ始めた。
「まず、筆頭神官セイオンの身柄引き渡し要求について。我々は応じることができない」
予想通りの回答に議場から落胆と憤りの声が漏れる。だが、使者はその声を遮るように言葉を続けた。
「理由は拒絶ではありません。不在です。彼は長きにわたる研究の旅に出ており、我々にも、その行方を知ることができないのです」
「不在だと……? ふざけたことを!」
レオナルドが怒りを押し殺した低い声で吐き捨てる。
誰の目にも、それが見え透いた言い訳であることは明らかだった。だが、使者はそんな俺たちの反応など意にも介さず、淡々と次の言葉を紡いだ。
「……だが、賢人会議は三国同盟が抱く懸念を、深く、そして重く受け止めている。よって、我々は貴殿らとの無用な争いを避けるため、特例措置を決定した」
使者は一度言葉を切り、俺たちの顔をゆっくりと見回した。
「筆頭神官セイオンが所有、あるいは管理する全ての施設に対する調査権を三国同盟に委譲します」
その提案に議場は静まり返った。
拒絶どころか、最も秘密にされていた場所への招待状。あまりにも話が出来すぎている。
議場がざわめく中、俺は片手を上げてそれを制し、使者を真っ直ぐに見据えた。
「……申し出は理解した。だが、これは我々の一存だけで即決できることではない。同盟内で協議し、正式な回答は後ほど通達する」
使者は、まるで俺たちの反応すら想定内であるかのように、表情一つ変えずにうなずいた。
「承知いたしました。賢明なご判断をお待ちしております」
彼は再び恭しく一礼すると、踵を返し、足音一つ立てずに議事堂を後にした。
重い扉が閉ざされる音が静寂を取り戻した議場に響く。
使者が退室した後、俺たちは緊急の軍議を開いた。
「明らかに罠ですな」
ドランが吐き捨てるように言った。
「奴は俺たちがこの提案を断れないことを知っている。そして、自らの庭に俺たちを招き入れ、その上で完璧に叩き潰すつもりだ。……これはセイオンからの悪趣味で傲慢な挑戦状だ」
カズエルが俺の隣で確信を込めて言い放った。
「……どうする、カイン殿」
ロルディアの騎士団長が俺に同盟の総意を問うように視線を向ける。
俺は一度、固く目を閉じた。そしてゆっくりと、その目を開いた。
「……この挑戦、受けて立ちましょう」
俺の声は自分でも驚くほど静かだった。だが、その奥には決して揺らぐことのない闘志の炎が確かに宿っていた。
「奴が扉を開けて待っているというのなら、堂々とその中へ入ってやるまでだ。そして、奴の庭で奴の秘密を根こそぎ暴き出し、その傲慢な鼻をへし折ってやる」
俺の宣言を聞いた仲間たちの瞳に強い光が宿った。そうだ、俺たちはもう迷わない。
混沌の使徒が仕掛けた、この理不尽なゲーム。そのルールの上で、俺たちは俺たちのやり方で勝利を掴み取るのだ。
.
次なる目的地は決まった。再び、あの偽りの叡智の巣窟、アーカイメリアへ。
今度は招待客として、俺たちはその心臓部へと乗り込む。
議事堂に現れたのはアーカイメリアの法衣をまとった一人の高官だった。
無機質な銀縁眼鏡をかけ、感情の読めない瞳をしたその男は俺たち三国同盟の代表者を前にしても動じることなく、恭しく一礼した。
「三国同盟の代表者様方。賢人会議より、貴殿らの要求に対する正式な回答をお持ちしました」
議事堂の空気が張り詰める。
カズエルが眼鏡の奥の瞳を細め、ドランが腕組みをして鼻を鳴らす。俺は静かに先を促した。
「聞こう」
使者は羊皮紙を広げ、淡々とした口調で読み上げ始めた。
「まず、筆頭神官セイオンの身柄引き渡し要求について。我々は応じることができない」
予想通りの回答に議場から落胆と憤りの声が漏れる。だが、使者はその声を遮るように言葉を続けた。
「理由は拒絶ではありません。不在です。彼は長きにわたる研究の旅に出ており、我々にも、その行方を知ることができないのです」
「不在だと……? ふざけたことを!」
レオナルドが怒りを押し殺した低い声で吐き捨てる。
誰の目にも、それが見え透いた言い訳であることは明らかだった。だが、使者はそんな俺たちの反応など意にも介さず、淡々と次の言葉を紡いだ。
「……だが、賢人会議は三国同盟が抱く懸念を、深く、そして重く受け止めている。よって、我々は貴殿らとの無用な争いを避けるため、特例措置を決定した」
使者は一度言葉を切り、俺たちの顔をゆっくりと見回した。
「筆頭神官セイオンが所有、あるいは管理する全ての施設に対する調査権を三国同盟に委譲します」
その提案に議場は静まり返った。
拒絶どころか、最も秘密にされていた場所への招待状。あまりにも話が出来すぎている。
議場がざわめく中、俺は片手を上げてそれを制し、使者を真っ直ぐに見据えた。
「……申し出は理解した。だが、これは我々の一存だけで即決できることではない。同盟内で協議し、正式な回答は後ほど通達する」
使者は、まるで俺たちの反応すら想定内であるかのように、表情一つ変えずにうなずいた。
「承知いたしました。賢明なご判断をお待ちしております」
彼は再び恭しく一礼すると、踵を返し、足音一つ立てずに議事堂を後にした。
重い扉が閉ざされる音が静寂を取り戻した議場に響く。
使者が退室した後、俺たちは緊急の軍議を開いた。
「明らかに罠ですな」
ドランが吐き捨てるように言った。
「奴は俺たちがこの提案を断れないことを知っている。そして、自らの庭に俺たちを招き入れ、その上で完璧に叩き潰すつもりだ。……これはセイオンからの悪趣味で傲慢な挑戦状だ」
カズエルが俺の隣で確信を込めて言い放った。
「……どうする、カイン殿」
ロルディアの騎士団長が俺に同盟の総意を問うように視線を向ける。
俺は一度、固く目を閉じた。そしてゆっくりと、その目を開いた。
「……この挑戦、受けて立ちましょう」
俺の声は自分でも驚くほど静かだった。だが、その奥には決して揺らぐことのない闘志の炎が確かに宿っていた。
「奴が扉を開けて待っているというのなら、堂々とその中へ入ってやるまでだ。そして、奴の庭で奴の秘密を根こそぎ暴き出し、その傲慢な鼻をへし折ってやる」
俺の宣言を聞いた仲間たちの瞳に強い光が宿った。そうだ、俺たちはもう迷わない。
混沌の使徒が仕掛けた、この理不尽なゲーム。そのルールの上で、俺たちは俺たちのやり方で勝利を掴み取るのだ。
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