50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

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第十六章 生命の理と世界の天秤

第283話 進軍、知の殿堂へ

 アーカイメリアの賢人会議からの挑戦的ともいえる回答。
 それを受け、三国同盟は即座に行動を開始した。
 エルフェンリートの森の境界、広大な平原に、三つの国の軍勢が集結する。その光景はまさに壮観の一言だった。

 ロルディア王国からはレオンハルト王の信頼厚い騎士団。磨き上げられた鋼の鎧をまとい、王家の紋章である金獅子を染め抜いた旗を誇らしげに掲げている。
 ドワーフ王国グラムベルクからはボルン・アイアンフィストが鍛え上げた最新の武具で武装した、屈強な重装歩兵部隊。その一糸乱れぬ隊列はさながら動く鋼鉄の城壁だ。
 そして、エルフェンリートの森からはレオナルドが率いる精鋭のレンジャー部隊。彼らは風のように静かで、その矢の一本一本には森の怒りと、守るべき故郷への想いが込められていた。

 種族も、文化も、思想も違う、三つの軍勢。
 その数百にも及ぶ兵士たちの前に俺は仲間たちと共に立っていた。

「これより、我々は学術都市アーカイメリアへと進軍する」

 各国の代表者による合議の末、この大規模な連合調査軍の総指揮官として、俺が立つことが決定された。その隣には参謀としてカズエルが、そして、各部隊との連携を担う副官として、エルン、セリス、レオナルド、さらに、その鋭敏な感覚で魔力探知を担うルナが並ぶ。

「我々が戦う相手は特定の国ではない。世界のことわりもてあそび、我々を内側から破壊しようとする見えざる混沌だ! だが、俺は信じている。これまで深く交わることのなかった我々の、種族を越えたこの結束こそが、奴らの歪んだ思想を打ち破る最強の剣となることを!」

 俺の不器用だが魂を込めた言葉。それが兵士たちの心に確かに火を灯した。

「「「うおおおおおっ!!」」」

 地を揺るがすほどの雄叫びが平原に響き渡る。
 彼らは今、一つの目的のために拳を突き上げている。三国同盟軍は完全に一つになった。

 壮大な連合軍が知の殿堂アーカイメリアへと、その進軍を開始した。

 ***

 ――その頃。
 アーカイメリアの筆頭神官セイオンの私室。

 彼は水晶に映し出された連合軍の壮大な進軍の様子を、まるで美しい絵画でも鑑賞するかのように満足げに眺めていた。

「……見事だ。実に見事だ」

 彼の口元に穏やかな、しかし、どこか狂気を帯びた笑みが浮かぶ。

「各国に不和の種を撒き、互いに争わせ、引き裂こうという、私のささやかな目論見もくろみ。それを、あの男、カインはことごとく覆して見せた。それどころか、決して深く交わることのなかった三国を一つの目的の元にまとめ上げてしまった」

 彼の計画は失敗したはずだった。だが、彼の瞳には失望の色など微塵も浮かんでいない。

「闘争の先に新たな調和が生まれる。これこそが、私が追い求めてきた混沌のことわり……。カイン、君は私が想像した以上の最高の触媒だよ」

 セイオンはゆっくり立ち上がると、部屋の奥にある巨大な天球儀へと歩み寄った。その表面にはアルヴェントの世界地図が、精緻せいち理式りしきによって描かれている。

「闘争によって生まれた調和は、より大きな破壊によって、次の次元へと昇華されなければならない。……それが、世界の進化というものだ」

 彼は天球儀にそっと手をかざした。
 彼が魔力を込めると、天球儀の盤上の理式が禍々しく輝き始める。

「さあ、始めよう。秩序ある美しい破壊を。君たちの結束が、どれほどの理不尽に耐えられるのか。試させてもらう」

 セイオンの瞳には神の如き冷徹な光が宿っていた。
 彼が仕掛ける次なる一手はもはや、カインたちの予測の範疇を遥かに超えていた。

 進軍する、希望の連合軍。
 そして、それを待ち受ける、冷徹かつ絶対的な悪意。
 二つの巨大な意志が今、知の殿堂を舞台に激突しようとしていた。
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