292 / 330
第十七章 灼熱の三頭竜
第292話 激戦、覚醒の炎
「……一体、討ち取ったり」
レオナルドの静かな勝利宣言は、森の奥から湧き上がった割れんばかりの歓声にかき消された。
だが、その歓喜は一瞬で凍りつく。頭上から、同胞を討たれたことへの純粋な怒りと、激しい憎悪に満ちた咆哮が二重に降り注いだのだ。
ゴオオオオオオオッ!!
空に残された二体のワイバーンロードが、その巨大な瞳を血走らせ、俺たち――カイン、エルン、ルナの三人を捉えていた。
地上でちまちまと抵抗する戦士はもはや奴らの眼中にはない。高い魔力を持つ魔術師たちに狙いを定めたのだ。
結界はすでに消失している。ここから先、考えている余裕などない。
「来るわ!」
エルンが叫ぶ。
彼女が咄嗟に展開した風の障壁に、二体の竜による時間差のブレス攻撃が続け様に激突した。
障壁がみしみしと悲鳴を上げ、俺たちの乗る馬がその熱量と衝撃に怯えて嘶く。
「くそっ、連携してきやがった!」
俺は手綱を必死で引き絞り、暴れる馬を制御しながら上空を睨みつけた。
一体がブレスでこちらの動きを封じ、もう一体が死角から爪で引き裂こうとする。その動きは単なる獣のものではなく、知性を持った狩人のそれだった。
「カイン、左のやつ、一瞬だけこっち向くよ!」
背後からルナの警告が飛ぶ。
彼女の感知の魔眼は敵の動作を正確に読み取っていた。
俺はその未来予測を信じ、馬を駆けさせながら、あえて隙だらけに見える位置へと移動する。
案の定、一体のワイバーンが俺を格好の獲物と判断し、翼を畳んで急降下してきた。
「――そこだ!」
俺は反転しながら魔力を収束させる。
「ウンディーヴァよ、ワイバーンの翼を穿て! ――蒼閃!」
放たれた蒼き水の刃はワイバーンの翼膜をわずかにかすめた。だが、敵は手練れだった。俺の攻撃を読んでいたかのように空中で身を捻り、最小限のダメージで攻撃を回避してみせたのだ。
「チッ、浅いか……!」
刃は鱗を数枚剥ぎ取ったのみ。俺が舌打ちした、その一瞬の隙。
もう一体のワイバーンが、エルンただ一人へと狙いを定めた。
それは、この場で最も強力な魔法の使い手を最初に潰そうという冷徹な戦術的判断。
「エルン!」
距離がある。間に合わない。
竜の巨体が質量を持った隕石のような速度で彼女へと突っ込んでくる。
「……!」
エルンは覚悟を決めたようだった。
彼女は回避を捨て、その場で杖を構えている。その瞳には相打ちさえも覚悟した、揺るぎない光が宿っていた。
切り札である終光を放つつもりだと俺は悟った。
だが、それはあまりに無謀だ。たとえ魔法が直撃したとしても、自分に向かって落ちてくる巨体の残骸に押し潰される。
絶体絶命。その光景をルナは見ていた。
スローモーションのように流れる時間の中で、エルンの優しい横顔が死を覚悟した表情に変わっていくのが見えた。いつも自分を妹のように可愛がってくれた大切な仲間。彼女が今、目の前でいなくなってしまう。
(いやだ!)
心の底から叫びが湧き上がった。
(いやだ! いやだ! いやだ! エルンが死んじゃうなんて絶対にいやだ!!)
(エルンを守るんだ! 死なせるもんか!)
ルナの、その想いが引き金となった。
魂の奥底で燻っていた火の精霊との契約が真の扉を開く。
彼女の小さな身体から、黄金の炎がまるで太陽フレアのように噴き上がった。
「――お願い! プロミネンス!」
彼女の魂の叫びに高位精霊が応える。
ルナの瞳が燃えるような金色に輝きを増す。未来予測の力がこれまでにない精度で研ぎ澄まされ、竜の軌道をその数瞬先の未来まで完璧に映し出した。
彼女が意識を向けたのは竜がいる場所ではない。竜がこれから到達するであろう、今はまだ何もない空間。
その一点へ、周囲の大気から高濃度の魔力が急速に集まっていく。陽炎のように空間が揺らめき、目に見えない燃料が極限まで圧縮されていった。
「お願い、届いて! ――燃え上がれ!」
ルナが叫び、引き金を引いた。
次の刹那、その空間の中心に一点の金色の火花が散り――空気を震わす轟音と共に空間そのものが黄金の爆炎となって球状に炸裂した。
ドゴォォォォォォォォォンッ!! ギシャアアアアアアアアアアアッ!!
天地を揺るがす爆発音と、断末魔の絶叫が重なる。
突進していたワイバーンは、その爆発を顔面からまともに喰らった。
目に見えぬ巨人の鉄槌で殴りつけられたかのように、巨体は後方へと大きく弾き飛ばされる。胸部から腹にかけての鱗は砕け散って黒く焦げ付き、自慢の翼も千切れかけていた。
これまでにない苦痛と驚愕。竜は必死に翼を羽ばたかせた。もはや攻撃のためではない。ただ、この規格外の炎から逃れるためだけに。一度、二度と高度を落としながらも、なんとか空気を掴み、力なく上空へと敗走していく。
「……え……?」
助かったエルンが呆然とその光景を見つめている。
俺も、レオナルドも、そして森の民も、誰もが言葉を失っていた。
戦場に残された最後の一体のワイバーンロードが、そのありえない光景を前にして、初めて動きを止めた。恐怖にその巨体を震わせ、生存本能に従ってさらに空高くへと舞い上がる。うかつには近づけないと悟ったのだ。
戦場の中心。
ルナは黄金の炎の残滓をその身にまといながら静かに立っていた。
その小さな背中は今、この森の誰よりも大きく、そして頼もしく見えた。
レオナルドの静かな勝利宣言は、森の奥から湧き上がった割れんばかりの歓声にかき消された。
だが、その歓喜は一瞬で凍りつく。頭上から、同胞を討たれたことへの純粋な怒りと、激しい憎悪に満ちた咆哮が二重に降り注いだのだ。
ゴオオオオオオオッ!!
空に残された二体のワイバーンロードが、その巨大な瞳を血走らせ、俺たち――カイン、エルン、ルナの三人を捉えていた。
地上でちまちまと抵抗する戦士はもはや奴らの眼中にはない。高い魔力を持つ魔術師たちに狙いを定めたのだ。
結界はすでに消失している。ここから先、考えている余裕などない。
「来るわ!」
エルンが叫ぶ。
彼女が咄嗟に展開した風の障壁に、二体の竜による時間差のブレス攻撃が続け様に激突した。
障壁がみしみしと悲鳴を上げ、俺たちの乗る馬がその熱量と衝撃に怯えて嘶く。
「くそっ、連携してきやがった!」
俺は手綱を必死で引き絞り、暴れる馬を制御しながら上空を睨みつけた。
一体がブレスでこちらの動きを封じ、もう一体が死角から爪で引き裂こうとする。その動きは単なる獣のものではなく、知性を持った狩人のそれだった。
「カイン、左のやつ、一瞬だけこっち向くよ!」
背後からルナの警告が飛ぶ。
彼女の感知の魔眼は敵の動作を正確に読み取っていた。
俺はその未来予測を信じ、馬を駆けさせながら、あえて隙だらけに見える位置へと移動する。
案の定、一体のワイバーンが俺を格好の獲物と判断し、翼を畳んで急降下してきた。
「――そこだ!」
俺は反転しながら魔力を収束させる。
「ウンディーヴァよ、ワイバーンの翼を穿て! ――蒼閃!」
放たれた蒼き水の刃はワイバーンの翼膜をわずかにかすめた。だが、敵は手練れだった。俺の攻撃を読んでいたかのように空中で身を捻り、最小限のダメージで攻撃を回避してみせたのだ。
「チッ、浅いか……!」
刃は鱗を数枚剥ぎ取ったのみ。俺が舌打ちした、その一瞬の隙。
もう一体のワイバーンが、エルンただ一人へと狙いを定めた。
それは、この場で最も強力な魔法の使い手を最初に潰そうという冷徹な戦術的判断。
「エルン!」
距離がある。間に合わない。
竜の巨体が質量を持った隕石のような速度で彼女へと突っ込んでくる。
「……!」
エルンは覚悟を決めたようだった。
彼女は回避を捨て、その場で杖を構えている。その瞳には相打ちさえも覚悟した、揺るぎない光が宿っていた。
切り札である終光を放つつもりだと俺は悟った。
だが、それはあまりに無謀だ。たとえ魔法が直撃したとしても、自分に向かって落ちてくる巨体の残骸に押し潰される。
絶体絶命。その光景をルナは見ていた。
スローモーションのように流れる時間の中で、エルンの優しい横顔が死を覚悟した表情に変わっていくのが見えた。いつも自分を妹のように可愛がってくれた大切な仲間。彼女が今、目の前でいなくなってしまう。
(いやだ!)
心の底から叫びが湧き上がった。
(いやだ! いやだ! いやだ! エルンが死んじゃうなんて絶対にいやだ!!)
(エルンを守るんだ! 死なせるもんか!)
ルナの、その想いが引き金となった。
魂の奥底で燻っていた火の精霊との契約が真の扉を開く。
彼女の小さな身体から、黄金の炎がまるで太陽フレアのように噴き上がった。
「――お願い! プロミネンス!」
彼女の魂の叫びに高位精霊が応える。
ルナの瞳が燃えるような金色に輝きを増す。未来予測の力がこれまでにない精度で研ぎ澄まされ、竜の軌道をその数瞬先の未来まで完璧に映し出した。
彼女が意識を向けたのは竜がいる場所ではない。竜がこれから到達するであろう、今はまだ何もない空間。
その一点へ、周囲の大気から高濃度の魔力が急速に集まっていく。陽炎のように空間が揺らめき、目に見えない燃料が極限まで圧縮されていった。
「お願い、届いて! ――燃え上がれ!」
ルナが叫び、引き金を引いた。
次の刹那、その空間の中心に一点の金色の火花が散り――空気を震わす轟音と共に空間そのものが黄金の爆炎となって球状に炸裂した。
ドゴォォォォォォォォォンッ!! ギシャアアアアアアアアアアアッ!!
天地を揺るがす爆発音と、断末魔の絶叫が重なる。
突進していたワイバーンは、その爆発を顔面からまともに喰らった。
目に見えぬ巨人の鉄槌で殴りつけられたかのように、巨体は後方へと大きく弾き飛ばされる。胸部から腹にかけての鱗は砕け散って黒く焦げ付き、自慢の翼も千切れかけていた。
これまでにない苦痛と驚愕。竜は必死に翼を羽ばたかせた。もはや攻撃のためではない。ただ、この規格外の炎から逃れるためだけに。一度、二度と高度を落としながらも、なんとか空気を掴み、力なく上空へと敗走していく。
「……え……?」
助かったエルンが呆然とその光景を見つめている。
俺も、レオナルドも、そして森の民も、誰もが言葉を失っていた。
戦場に残された最後の一体のワイバーンロードが、そのありえない光景を前にして、初めて動きを止めた。恐怖にその巨体を震わせ、生存本能に従ってさらに空高くへと舞い上がる。うかつには近づけないと悟ったのだ。
戦場の中心。
ルナは黄金の炎の残滓をその身にまといながら静かに立っていた。
その小さな背中は今、この森の誰よりも大きく、そして頼もしく見えた。
あなたにおすすめの小説
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!