50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく

文字の大きさ
299 / 330
第十七章 灼熱の三頭竜

第299話 反撃の蒼閃

 時間の牢獄。
 俺たちはセイオンが紡いだ理式理式によって、完全に静止していた。
 俺の詠唱も、仲間たちの驚愕の表情も、森の民の絶望も、すべてが灰色の一枚絵のように凍りついている。
 俺の意識だけが、永遠に引き延ばされた時間の中を泥を這うように彷徨っていた。

(くそっ……! 動け……! 動いてくれ……!)

 焦燥だけが思考を焼き尽くす。
 その絶対的な静寂の中で、セイオンは俺たちに静かに背を向けた。彼の目的は賢者の神殿の破壊。俺たちの抵抗を完全に封じた今、その目的を遂行するために再び歩き出したのだ。

 誰もが、森の最期を覚悟した。だが――。その完全に静止した世界の中で、ただ一人、動いている者がいた。エルンだった。
 彼女が握りしめる愛用の杖。そこに仕込まれた、カズエルとの叡智の結晶であるカウンター理式りしきが淡い光を放っている。
 セイオンの時間の牢獄に彼女だけが静かに抗っていた。

(……行かせはしません)

 エルンは凍りついた時の中を、一歩、また一歩と、俺へ歩み寄っていた。
 空気そのものが鋼のように重い中、彼女は血をにじませながらも進んだ。そして、その光り輝く杖を、詠唱を中断されたまま静止している俺の胸へと、そっと押し当てた。
 彼女の魔力が杖を通して、俺を縛る時間の鎖に干渉していく。

 パリンッ……。

 世界に微かな亀裂が走る。セイオンの絶対的な理式りしきがエルンの意志によってこじ開けられたのだ。色彩が、音が、時の流れが――戻る。

「――蒼閃そうせんッ!!」

 せきを切ったように、止まっていた俺の詠唱が解き放たれた。
 森の精霊、そして仲間たちの祈り。それらを一身に受け、極限まで圧縮されていた魔力が炸裂する。
 それはもはや水の刃などという生易しいものではない。世界そのものを切り裂かんばかりの、蒼き奔閃光の奔流だった。

「……なに?」

 背後で爆発的に膨れ上がったエネルギーに、セイオンが初めて驚愕の声を漏らし、とっさに振り向いた。
 彼の目の前に瞬時に幾重もの光の防御壁が展開される。彼の指輪が放つ、神聖にして絶対的な守りのはずだった。

 だが、遅すぎた。そして、重すぎた。

 シュゴォォォーッ!!

 俺が放った蒼閃そうせんはセイオンの防御壁を、まるで薄い紙を突き破るかのように、いとも容易く貫通し、その傲慢な男の胸を寸分の狂いもなく、深々と穿った。

「……ぁ……」

 セイオンの口から、信じられないといったように、声にならない声が漏れた。
 奔流が突き抜けた後、彼はゆっくりと、自らの胸に開いた風穴を見下ろした。そして、その穴から流れ出る自らの血に、震える手で、そっと触れた。

 彼は膝から崩れ落ちた。
 その瞳にはもはや傲慢さはなく、ただ純粋な驚愕と、自らの計算を超えた理不尽に対する、子供のような好奇の色だけが浮かんでいた。

「……これ、が……ごり押しか……」

 彼は、ふっと笑った。

「……私の……負け……だ」

 そして、彼は最後の力を振り絞るように、不気味な言葉を俺たちに残した。

「……次は……君の番……だ」

 その言葉を最後に、セイオンの身体は風化した砂像のようにさらさらと崩れ落ち、風に吹かれて跡形もなく消え去っていった。

 戦いは終わった。
 三体のワイバーン、そして、混沌の首魁しゅかいであるセイオンを、ついに俺たちは退けたのだ。

 戦場に残された静寂。

 その静寂を破ったのは森の民の、大地を揺るがすほどの爆発的な大歓声だった。

「うおおおおおおおおおおっ!!」
「勝った……! 俺たちは勝ったんだ!」

 俺は力を使い果たし、その場に膝をついた。
 エルンとルナが、涙ながらに俺に駆け寄り、その身体を支えてくれる。
 意識を取り戻したレオナルド、ヴィンドール、ミラネもまた、信じられないといった表情で、目の前の光景を見つめていた。

 俺は仲間たちに支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。
 そして、歓喜に沸く森の民に向かって、最後の力を振り絞り、高らかに宣言した。

「――我々は勝利した! この森は守られたのだ!」

 その声が森の隅々まで響き渡る。
 混沌との一つの戦いは確かに終わった。だが俺の心は晴れやかではなかった。

(カズエル……セリス……そっちは無事なのか……?)

 俺は仲間たちが戦う、もう一つの戦場――アーカイメリアの空を見上げ、ただ想いを馳せることしかできなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!