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最終章 零(ゼロ)の賢者
第317話 仲間たちの誓い
「……それでも、俺と一緒に来てくれるか?」
俺の問いかけに書斎は一瞬、静寂に包まれた。
俺が選んだのは世界を救う英雄の道ではない。腐敗した部分を切り捨て、時には世界を敵に回してでも停滞を打破する剪定者としての道だ。
それに巻き込むことへの罪悪感が俺の胸には少なからずあった。
その静寂を最初に破ったのはエルンだった。
「カイン」
エルンが一歩、俺の前に進み出る。その翡翠色の瞳は真っ直ぐに俺の瞳――そしてその奥にいるカイランをも見据えていた。
「私は見てきました。あなたがこの世界に召喚されてからの、あの日々を。戸惑い、傷つきながらも、それでもこの世界の人々を放っておけずに戦い続けたあなたの姿を」
彼女はそっと、俺の手を両手で包み込んだ。その温もりが、冷え切っていた俺の決意を溶かしていくようだ。
「言葉では混沌だの悪だのと仰っていますが……私には分かります。あなたがそう決断したのは誰よりも深く、この世界を愛しているからだということを。その愛の深さは二百年前から何一つ変わっていません」
「……エルン」
「ですから、私はあなたの決意を全面的に支持します。あなたが信じる道こそが、この世界の進むべき道だと私は確信しています」
エルンの言葉には一点の曇りもなかった。
俺の最大の理解者からの承認。それがどれほど俺の心を軽くしたか計り知れない。
だが、エルンはそこで一度言葉を切り、少しだけ申し訳なさそうに、けれど強い意志を持って続けた。
「ですが……一つだけ、私の我儘を聞いてはいただけませんか?」
「我儘? なんだ、言ってみてくれ」
エルンはふわりと微笑んだ。それは一人の女性として、家族を守ろうとする母のような強さを秘めた笑みだった。
「私はこの森に残ります」
「……なっ!?」
予想外の言葉に俺だけでなく、ルナとアルヴィンも目を見開いた。
「あなたのその戦いはあまりにも孤独で、あまりにも過酷なものになるでしょう。だからこそ、あなたにはいつでも帰ってこられる場所が必要です。心が折れそうになった時、全てを投げ出したくなった時、必ず戻ってこられる温かい場所が」
エルンは包み込んだ俺の手に少しだけ力を込めた。
「この森の守りは私が引き受けます。あなたが後顧の憂いなく、その使命を果たせるように。……あなたは、あなたの信じる道を存分に進んでください。私はこの場所で、ずっとあなたの帰りを待っていますから」
それは別れの言葉ではなかった。
共に戦うための最も強く、そして最も優しい、彼女なりの誓いの言葉だった。
後ろを振り返れば必ずそこにはエルンがいる。その安心感がどれほど戦いにおける支えになるか。
(……良い判断だ。彼女の言う通り、補給基地の確保は戦略上極めて重要だ)
カイランもまた、彼女の賢明な判断に賛辞を送っていた。
「……分かった。ありがとう、エルン。お前に背中を預けるよ」
「はい。任せてください、カイン」
俺とエルンの絆が新たな形で結ばれた瞬間だった。
そして、その空気を切り裂くように元気な声が響いた。
「あーっもう! しんみりするのはそこまで!」
ルナだ。彼女はテーブルにひょいと腰掛けると、ニカっと笑って足をぶらつかせた。
「エルンが森を守るなら、ルナはカインの隣でカインを守る! ルナの炎と、この目で、カインの進む道を照らしてあげる!」
彼女は腰に下げた短剣を愛おしそうに撫でた。
「カインが起こすざわめきかあ。また昔みたいに、ガオーって奴が現れるかな」
その奔放で、全幅の信頼に満ちた言葉。俺の口元が自然と緩む。
「頼もしいな、ルナ」
続いて、アルヴィンが一歩前へ進み出た。彼は腰の剣に手を添え、騎士のように背筋を伸ばして俺を見据えた。
「賢者殿。……父上は常々言っていました。技術革新には痛みが伴う、と」
彼はロルディア王国の地図を見つめた。
「古いシステムが世界を蝕んでいるなら、それを刷新するのは次世代の責務です。父が夢見た世界の更新……その実行者として、私はあなたの剣となりたい。あなたの隣で、その新しい理が世界に刻まれる瞬間を、この目で見届けさせてください」
「……ああ。頼りにしているぞ、アルヴィン」
役者は揃った。
最強の矛となる紅蓮の魔導師。
新たな理を拓く魔法剣士。
そして、帰るべき場所を護る妻。これ以上の布陣はない。
俺は仲間たちを見回し、高らかに宣言した。
「よし、決まりだ! これより、世界更新チームを結成する!」
少々ダサいネーミングかもしれないが、今の俺たちにはしっくりくる。俺たちは顔を見合わせ、力強くうなずき合った。
「俺たちは、ただの破壊者じゃない。世界を治療する医療チームだ」
俺は窓の外、広がる青空を指差した。
「今、この瞬間から、俺たちは新たな道をゆく。停滞した空気を吹き飛ばし、淀んだ流れを叩き割り……この静まり返った世界を派手にざわつかせてやろうじゃないか!」
俺たちの瞳に覚悟の炎が宿る。
長く静かすぎた冬が終わり、世界を変えるための嵐が巻き起ころうとしていた。
俺の問いかけに書斎は一瞬、静寂に包まれた。
俺が選んだのは世界を救う英雄の道ではない。腐敗した部分を切り捨て、時には世界を敵に回してでも停滞を打破する剪定者としての道だ。
それに巻き込むことへの罪悪感が俺の胸には少なからずあった。
その静寂を最初に破ったのはエルンだった。
「カイン」
エルンが一歩、俺の前に進み出る。その翡翠色の瞳は真っ直ぐに俺の瞳――そしてその奥にいるカイランをも見据えていた。
「私は見てきました。あなたがこの世界に召喚されてからの、あの日々を。戸惑い、傷つきながらも、それでもこの世界の人々を放っておけずに戦い続けたあなたの姿を」
彼女はそっと、俺の手を両手で包み込んだ。その温もりが、冷え切っていた俺の決意を溶かしていくようだ。
「言葉では混沌だの悪だのと仰っていますが……私には分かります。あなたがそう決断したのは誰よりも深く、この世界を愛しているからだということを。その愛の深さは二百年前から何一つ変わっていません」
「……エルン」
「ですから、私はあなたの決意を全面的に支持します。あなたが信じる道こそが、この世界の進むべき道だと私は確信しています」
エルンの言葉には一点の曇りもなかった。
俺の最大の理解者からの承認。それがどれほど俺の心を軽くしたか計り知れない。
だが、エルンはそこで一度言葉を切り、少しだけ申し訳なさそうに、けれど強い意志を持って続けた。
「ですが……一つだけ、私の我儘を聞いてはいただけませんか?」
「我儘? なんだ、言ってみてくれ」
エルンはふわりと微笑んだ。それは一人の女性として、家族を守ろうとする母のような強さを秘めた笑みだった。
「私はこの森に残ります」
「……なっ!?」
予想外の言葉に俺だけでなく、ルナとアルヴィンも目を見開いた。
「あなたのその戦いはあまりにも孤独で、あまりにも過酷なものになるでしょう。だからこそ、あなたにはいつでも帰ってこられる場所が必要です。心が折れそうになった時、全てを投げ出したくなった時、必ず戻ってこられる温かい場所が」
エルンは包み込んだ俺の手に少しだけ力を込めた。
「この森の守りは私が引き受けます。あなたが後顧の憂いなく、その使命を果たせるように。……あなたは、あなたの信じる道を存分に進んでください。私はこの場所で、ずっとあなたの帰りを待っていますから」
それは別れの言葉ではなかった。
共に戦うための最も強く、そして最も優しい、彼女なりの誓いの言葉だった。
後ろを振り返れば必ずそこにはエルンがいる。その安心感がどれほど戦いにおける支えになるか。
(……良い判断だ。彼女の言う通り、補給基地の確保は戦略上極めて重要だ)
カイランもまた、彼女の賢明な判断に賛辞を送っていた。
「……分かった。ありがとう、エルン。お前に背中を預けるよ」
「はい。任せてください、カイン」
俺とエルンの絆が新たな形で結ばれた瞬間だった。
そして、その空気を切り裂くように元気な声が響いた。
「あーっもう! しんみりするのはそこまで!」
ルナだ。彼女はテーブルにひょいと腰掛けると、ニカっと笑って足をぶらつかせた。
「エルンが森を守るなら、ルナはカインの隣でカインを守る! ルナの炎と、この目で、カインの進む道を照らしてあげる!」
彼女は腰に下げた短剣を愛おしそうに撫でた。
「カインが起こすざわめきかあ。また昔みたいに、ガオーって奴が現れるかな」
その奔放で、全幅の信頼に満ちた言葉。俺の口元が自然と緩む。
「頼もしいな、ルナ」
続いて、アルヴィンが一歩前へ進み出た。彼は腰の剣に手を添え、騎士のように背筋を伸ばして俺を見据えた。
「賢者殿。……父上は常々言っていました。技術革新には痛みが伴う、と」
彼はロルディア王国の地図を見つめた。
「古いシステムが世界を蝕んでいるなら、それを刷新するのは次世代の責務です。父が夢見た世界の更新……その実行者として、私はあなたの剣となりたい。あなたの隣で、その新しい理が世界に刻まれる瞬間を、この目で見届けさせてください」
「……ああ。頼りにしているぞ、アルヴィン」
役者は揃った。
最強の矛となる紅蓮の魔導師。
新たな理を拓く魔法剣士。
そして、帰るべき場所を護る妻。これ以上の布陣はない。
俺は仲間たちを見回し、高らかに宣言した。
「よし、決まりだ! これより、世界更新チームを結成する!」
少々ダサいネーミングかもしれないが、今の俺たちにはしっくりくる。俺たちは顔を見合わせ、力強くうなずき合った。
「俺たちは、ただの破壊者じゃない。世界を治療する医療チームだ」
俺は窓の外、広がる青空を指差した。
「今、この瞬間から、俺たちは新たな道をゆく。停滞した空気を吹き飛ばし、淀んだ流れを叩き割り……この静まり返った世界を派手にざわつかせてやろうじゃないか!」
俺たちの瞳に覚悟の炎が宿る。
長く静かすぎた冬が終わり、世界を変えるための嵐が巻き起ころうとしていた。
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