王国の『元』天才騎士様はやる気がない。−異世界×ロボットの操縦士−

十花アキ

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2.宿屋ぐらしの騎士

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 臆病者! と言われても大抵の場合は我慢することができる。……でも、何事にも時と場合があるものだろう、と僕は思うのだ。

「騎士さま、朝ごはんの準備ができました!」

 ドアをノックする音がして、女の子の声が聞こえた。

 僕はベットの上で目を開ける。寝ていたわけではないけれど、考え事をしているうちにそんな時間になっていたらしい。

 実は現在、解決しなければいけない問題を僕は抱えている。だけどその問題は頭をぐるぐる回るばかりで解決策は思い浮かばなかった。
 
 考えに一区切りつけるにはちょうどいいタイミングで声がかけられた。そう僕は思ってベットから身を起こす。

 ドアを開けると女の子が立っていた。

 栗色の髪を三つ編みにしている、見るからに元気そうな子だ。

「おはようございます、騎士さま!」

「おはよう、ナタリー」

 見上げるようにしてハキハキと挨拶をしてくれた彼女に、僕は挨拶を返す。

 ナタリーは、僕がこのところ泊まっている宿屋の看板娘だ。もうすぐ14歳になるらしい。誰にでも明るく接して、場を和ませてくれるとてもいい子だ。
 
「昨日は帰りが遅かったですね。昨日というか、朝帰りなんてめずらしいです!」

「色々あってね」

「あ、あやしい! 何かあったんでしょう!」

「何もないよ」

「騎士さまって嘘が下手なんですね」

 ……意外と鋭いな。

 たしかに、何もなかったわけではないけれど……純朴な目で見つめるこの少女にする話ではない、絶対に。

「気になります! 何があったんです?」

 ナタリーは必要以上に騎士という存在にあこがれを抱いている節がある。彼女が聞きたいような英雄譚など僕は持ち合わせていないのだ。

「着替えたら下に降りるよ」

 ごまかすように言って、ドアを閉めた。少し不満そうに頬を膨らませる少女の顔が見えた気がする。

 ドアを閉めた空間にあるのは、ベットと小さい机と椅子だけ、小さい窓もある。ここは、宿屋の一室だ。
 ここは、『ツバキ亭』。2階が宿屋になっていて1階は食堂と酒場を兼ねている。

 僕がここに来てから、数ヶ月が過ぎようとしていた。

 宿屋暮らしとはいいご身分だな、と思われるかもしれないけれど、でも身分をいうなら一応僕も貴族の部類である。

 それに、使いもしない屋敷の維持費を払うのはバカらしい。屋敷を引き払い、執事とメイドに別れを告げてこの宿に転がり込んだ。

 執事とメイドには悪いことをしたと思ったけれど……いや、没落しようとするわが家に止まってくれるほうが申し訳ないというものだろう。

 あいにく、亡き母の教育の賜物で、贅沢とか見栄を張ることに金貨を使う興味は沸かなかった。
 自分の身の周りの世話は、自分で出来る。我が身一つであるならば……。

 毎日の宿代くらい貴族にとっては、わけのないことだ。シーツも変えてくれるし、朝食も出る、なにも不自由はない。
 必要なものはトランクケースひとつに詰め込んできたし、これ以上望むものはない。

 僕は少し過去を思い出しながら、トランクケースからシャツを取り出して着替えを始めた。

 着替えを済ませて、階段を降りるとナタリーが待っていた。僕に気がつくと、あっ! と声を漏らして、目を輝かせて、詰め寄ってくる。

「聞かせてください、騎士さま! 昨夜の英雄譚を!」

「……いつかね」

「約束ですよ!」

 絶対に今後も話すことはないだろう。僕は嘘をつく、今度はバレないように注意して。

 僕は彼女から逃げるように、いつものテーブルについた。

 本来指定された席は無いのだけれど、僕に気を使ってなのか、この席はいつも空いている。奥の隅にある席、日当たりもいい。これが今、僕が振りかざせる数少ない貴族の特権というものだ。

「お待たせいたしましたっ!」

 しばらくすると、ナタリーが元気よくパンとスープを持ってきてくれた。

 ちなみに、野菜がごろごろ入ったスープがこの店の名物で、朝食にでるパンはこの店で焼いたばかりの出来立てだ。いい宿を見つけた、と内心思っている。

 僕はスープとパンに口をつける。
 美味しい。
 
 経験上、食べ物の味がするか、しないかで自分の精神状態を測ることが出来る。それほど、悪い状況ではないのかもしれない。

 さて、出発しよう。

 食事を終えて、顔を上げるとナタリーと目が合った。トコトコと早足でこちらに向かってくる。

「じゃあ、行ってきます」

 食器を下げにきた少女に、僕は声をかけて席を立つ。
 
「いってらっしゃいませ! 騎士さま!」

 ビシッと勢いよくナタリーは、僕を送り出してくれた。今に敬礼してもおかしくない。

 僕は宿屋の扉を開けて外の光を浴びる。

 この数ヶ月、変わらない日常を送ってきた。

 騎士の仕事へ行き、宿屋へ戻ってくる。
 これが、没落騎士のルーティンワークだ。
 
 今日も変わらない日常が始まるはず。
 ……だったのだけど、昨夜までは……。

 さて、問題を解決しなければならない。平穏な日常のために。

 僕は、宿屋をあとにした。
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