王国の『元』天才騎士様はやる気がない。−異世界×ロボットの操縦士−

十花アキ

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5.騎士の言い訳

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「初めてだったのに、お前に無理やり……」

 彼女は白衣の裾を掴んで、恥ずかしそうにトーンを落とした。思いの外、この倉庫の中に声が響いてしてまったことに彼女も気づいたらしい。

 さて、僕のことを誤解しないでほしい。
 没落騎士とはいえ、なにも騎士の矜恃プライドまで忘れたわけではない。
 僕の話を聞いてほしい。

 騎士の幼年学校において最初に教えられるのは、はい肯定! といいえ否定! の2つだ。

 先輩騎士や上位騎士に質問されて、その2つで答えられない場合、沈黙しなければならない。なにか文句があるのか? と促されるので、いいえと答えてから、失礼いたします、と言って許可を取り、意見を口にする。

 もちろん、言い訳などもってのほかだ。それに正論も必要ない、求められている答えを言えるかどうかが問題の主旨だから。

 くだらない伝統だと面従腹背してきた僕だけれど、今はなぜかその教えが頭を巡っている。

 話が少し飛んだけれど……つまり僕が言いたい事は、人それぞれに事情はあるものだろうってことだ。

「私の処女を奪っておいて、昨日はよくも帰ってくれたな。朝起きたとき1人だった私の気持ちが分かるか!」

 たとえば、ナイトメイルの初起動を『処女発進』と言ったりする。……もっとも今は、関係ない事だけれど。

 彼女が言っている事が、まったくの誤解とか、まったくの嘘だったら僕はここまで頭を悩ませる必要はないのだった。彼女の言ってる事に、事実か嘘かの二者択一で答えなければならないのなら……肯定だ。彼女は嘘はついていない。
 待って欲しい、まだ僕という人間に評価を下すのは早い。

 客観的事実には嘘がないって事だけれど、主観的事実というものがある。外から見た物事と、当事者同士の認識は違う場合があるはずだ。

「な、なんか言ったらどうだ……。特別に、お前の言い訳を聞いてやる!」

 無言で考えていた。
 どうやら彼女は僕の言い分を聞いてくれるらしい。僕の胸ぐらを強引に掴んで、詰め寄ってきた。蒼い瞳が僕を睨む。

「待ってくれ、そもそも無理やりではなかったと思うんだけれど」

 合意の上だったか否かは、姿かたちが同じ事柄でもまったく違った意味を持つ。

 騎士の名誉に誓って宣言しよう。
 僕は決して、女性を無理やり自分のものにするような人間ではない。

「ウソをつくな! 私を強引にベッドに押し倒しただろう」

 ……たしかに、それは事実だ。

 事実だけれど、まだ弁明の余地はある。

「元はと言えば、君が誘惑してきたんじゃないか」

「ゆ、誘惑なんてしてない! お前、私のことをい、淫乱女とでもいいたいのか!」

 僕は決して、責任を転嫁しているわけじゃない。
 信じてほしい。
 性格はともかく、儚げな美少女のみてくれをした彼女にそんなコトをいうわけがない。

「最初に無理やりキスしてきて、私を押し倒してみろ、臆病者めっ! って言って誘惑してきたのは君だったはずだ」

 そう言った僕は昨日の夜を思い返す、今回の事件の発端となった彼女の言葉だ。

 色々あって昨夜、僕は邸宅に彼女を送り届けることになり、寝室まで運んでいった。そのまま、何もせず帰るつもりだった。だったのだが……。

 そこで彼女に、臆病者めっ! と言われカッとなった僕は彼女をベッドに押し倒して行為に及んだわけなのだが……。
 ……さて、おかしい。何度思い返しても、文字だけ見ると僕が悪いように思えてくる。

「ゆ、誘惑なんてしてない……あれは挑発だ! 感謝するんだな、初めてのキスだったっ」

「ふつう、挑発で初めてのキスは使わないと思うけど」

 なるほど、たしかに誘惑と挑発は違う。言葉の上では……。誘惑に惑わされること、挑発に乗ること、どちらの方が自制心を欠く行為になるのだろう。

「お前を挑発してもなにもされないと思っていました。勘違いするなよっ! キスくらいはしてもいいかなって思っていたけれど、あんなことされるなんて……聞いてない!」

 みくびられたものだ、と怒るべきなのだろうか。それともキスくらいはしてもいいと思われていたことを、喜ぶべきなのか。

「よかった。責任の一端は認めてくれるってこと?」

「よくない! 私を裸で放置して帰ったくせにっ!」

「いや、それに関しては君の嘘だ。ちゃんと下着と上着をきせてシーツをかけたよ」

「やっぱりな! 寝ている私に勝手に服を着せるなっ」

 なるほど、カマにかかってしまったようだ。
 今朝、彼女より先に目覚めた僕は、彼女を起こすべきか一瞬悩んだけれど、一旦邸宅から出ることにした。その際、このまま風邪でもひかれたらまずいと思って、ベットの周りに散乱した衣服を彼女に着せたわけだけれど……。

「朝、目が覚めたとき……あれ? 昨日のことは夢だったのか? って一瞬思ったんだからなっ」

「つまり、君が怒っているのは、僕と君が昨夜した……コトじゃなくて、僕が勝手に帰ったからなの?」

「そうだ、許さないからな!……いや、お前なんかに抱かれたことも屈辱なんだからなっ、勘違いするなよ! ……もっと優しくされたかった」

 最後にボソボソと彼女は文句を言った。

「それは、その、すまない。僕としても初めての経験だったから、勝手がわからなくて……次は頑張るよ」

「次があると思うなっ!」

 え? っと一瞬思ったけど、口にも表情にも出さないのが正解だろう。

「で、今後の関係だけれど」

 僕は、彼女とした一連の口論のまとめに入る。
 
 僕たちは薄暗い倉庫で、人聞きの悪い口論を重ねていた。でも、いつまでもこのままというわけにはいかない。そして、いままで通りというわけにもいかない。

 さて、昨日から考え続けてきた問題の僕なりの答えを彼女に言わなければならない。

「勝手に帰ったことは謝るよ、でも昨日のことは合意の上だったって事で……いいかな?」

「……特別にそういうことにしてやるっ」

 彼女は目を伏せて、白銀の髪で表情を隠しながら言った。

 これで、僕が無理やり彼女を襲ったみたいな誤解はなくなったはずだろう。おそらく。

 でも、未婚の大貴族の令嬢に手を出したことが公になって、憲兵隊にでも駆け込まれたら、僕の首が物理的に飛びかねない。という問題は残っている。

 危険を察知する触覚が、事件の隠蔽を謀るべきだと警告を発してくる。

 でも、そんなクソみたいなものより大事なことがある。

 僕はおもむろに彼女の肩を掴んで、蒼い瞳を見つめた。一瞬、彼女はビクッと肩を震わせて驚いたけれど、僕は真剣な眼差しで見つめ続けて、覚悟を決めた。

「君と結婚したい」

「ふぇ」

 彼女は間抜けな声を上げた。
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