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第一章
4. 傍観者の黒猫
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私は独り言を呟いていました。
「今いるこの場所はフロリアス王国、王都セントフロース。我が家の私邸です」
この王都には、各地方から多くの貴族の子弟たちが学園に通うため集められていました。
学園は地方貴族にとっては将来のコネづくりの場所です。
もっとも、私は王都生まれ王都育ち。生まれてから15年間この王都から出たことがありません。「辺境に住むなど身分卑しい者のすることなのよ、おーほっほっほっ!」と思っていました。
石畳の城塞都市は中世ヨーロッパをモチーフにデザインされているのでしょう。ゲーム紹介の公式ホームページに載っていた設定資料の地図。地名、名称すべて設定資料の通り。
さて、記憶を取り戻すまでは疑問にさえ思わなかったことがあります。
──王都の外の世界はどうなっているのでしょう?
ローゼリアは箱庭のように狭い世界しか知りませんでした。井の中の醜いカエル。だから視野も思考も狭かったのです。
決して逃れることの出来ない台本のある劇場。ならばこそ、劇場ごとひっくり返さなければシナリオからは逃れられないのでは?
この王都の外が地球平面説よろしく断崖絶壁ならば、私にはもはや生きる道はないでしょう。
しかし、ここは『ゲーム風の世界』。
きっと王都の外には広大な世界が広がっているに違いないのです。
演劇に付き合ってはいられません。
『生きるか死ぬか』の2つの道。
生きるとは、闘うという意味ではありません。そんなもの古風な侍さんしか信じてはいけないのです。逃げる選択肢がない人生は壊れた論理。逃げるのは恥かもしれませんが、役には立ちます。
「早く準備しなければ時間がありません!」
私はこれから……
「旅に出るのです!!」
既に決意していました。
旅に出る(逃げ出す)。
旅の恥はかき捨て、なのです。
この場合の恥は、生き恥なのでしょうけれども……。
「泥水を啜ってでも私は生き抜く覚悟!! いそげ! いそげ!」
私は部屋中の扉という扉を開けていました。机の引き出し、クローゼット、キャビネット……何でもかんでもひっくり返します。
早く旅の準備をしなければいけません。
時間がないのです。
「ダメダメ! ダメですぅ! こんなフリフリのドレスでは旅になんて出れません!」
しかし前途多難でした。
「なんです? この、バッグ……舐めてるんですか? こんなんじゃスマホ1つしか入りません!」
私は旅の役に立つ物を何も持ってなかったのです。
「……そもそも『旅』ってどうやるんでしょう?」
突然、不安が湧き上がってきました。思い返せば私、元の世界でも一人旅なんてしたことありません。
さて、ここで突然のクエスチョン。
都道府県の場所を何個、正確に言えますか?
わ、わ、わたしはもちろん全て把握してますけどねね。
まず、北海道……そして、沖縄でしょ?
端から埋めていくのはジグソーパズルの定石です。決して自信がないわけではありません。
「……ダメダメ! どうでもいいことです。今は一刻も早く逃げ出すことを考えるのです!」
思考も行動も大慌てでした。
「えーっと、確実に必要なのは……。着替えに食料? それと……お金ですよね。あとお金に、お金で……お金です!」
私は気づいてしまいました。
世知辛いです。私たちは貨幣制度の奴隷でした。異世界に来ても私はお金に媚び諂わなければならなかったようです。
着替えも、食料も、さらには目的地さえも、結局はお金によって解決できるのでしょう。
『お金で買えないものもある』確かにそれは高尚で純白な真実です。しかし、問題点は『お金で買えるものが多すぎる』というドライな現実なのです。
抗えない誘惑によって支配する『人飼いの獣』それがお金です。暗黒でした。
……ふと思って、私は周りを見渡しました。
部屋中に散乱しているドレスやバッグに装飾品。
『高級』ドレス……『高級』バッグ……『高級』アクセサリー。
ごくり。
と、喉が鳴りました。
「これを売ったら……おいくら万Sになるのかしら……」
ちなみに『S』とは『シード』であり、この世界の最も一般的な通貨単位のことです。白金、金、銀、銅、鉄の各種コインがあり、それぞれ価値が異なります。
「いくつか持ち出して、当面の生活費と旅費にするのが……賢い選択」
値段なんて気にしたことはありませんでしたが、キラキラとしたこの豪勢な装飾品はざっと見積もっても数万Sはくだらないのでは?
私の周りには宝の山が広がっていました。
しかし……。
「う、うぇぇぇぇぇんん!!!」
私は突然泣き出しました。
情緒が壊れているメン〇ラ女なのです。
でも、誰かに分かって欲しいのです。
部屋中に散らかった高級品は、全て私に買い与えられたものです。そう……何もかも与えられたものでした。
昨日までは「高貴な私にふさわしいの物なのよ!」と、与えられることが当然の権利だと考えていました。
あえてローゼリアを擁護するならば、過酷な英才教育への歪んだご褒美なのです。たいして欲しいわけでもない物を見栄のため山のように買い集めていました。
「何もかも……私のものじゃありません……」
ぐすん(泣)。涙を拭います。
今となっては罪悪感の塊として私にのしかかるのでした。
どんな事をしても生き延びたいと思っているのは本心。ですが、泥水を啜るにしても品格というものがあるのではないでしょうか?
品性は金で買えないのです。
「これらに手を付けるのは泥棒と同じです……」
私に残された最後のプライド。これが私の武士道なのです。きっと侍さんも褒めてくれるはずです。
「着のみ着のまま……旅に出ましょう……。野垂れ死ぬのなら、それもまた運命」
スローライフとは死ぬことと見つけたり!
「よし! とりあえず決行日は明後日にしましょう! この王都から脱出するのです!」
私は元気になった気分(気のせい)がしました。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫、私は大丈夫……ですよね?」
「そう、あなたは大丈夫! なんとかなりますよ!」
私は鏡の中の私に話しかけて私に私を慰めてもらいます。
「すー……ふぅ……」
深呼吸して過呼吸にならないように頑張ります。
「よし、私は旅に出る!!」
改めてポジティブ(やけくそ)風に言葉に出して宣言しました。
……。
部屋は沈黙していました。
「で、僕を置いていくつもりか?」
何処からともなく声が聞こえました。
散らかったぐちゃぐちゃの床をかき分けて、黒猫のシピが近寄ってきました。
「今いるこの場所はフロリアス王国、王都セントフロース。我が家の私邸です」
この王都には、各地方から多くの貴族の子弟たちが学園に通うため集められていました。
学園は地方貴族にとっては将来のコネづくりの場所です。
もっとも、私は王都生まれ王都育ち。生まれてから15年間この王都から出たことがありません。「辺境に住むなど身分卑しい者のすることなのよ、おーほっほっほっ!」と思っていました。
石畳の城塞都市は中世ヨーロッパをモチーフにデザインされているのでしょう。ゲーム紹介の公式ホームページに載っていた設定資料の地図。地名、名称すべて設定資料の通り。
さて、記憶を取り戻すまでは疑問にさえ思わなかったことがあります。
──王都の外の世界はどうなっているのでしょう?
ローゼリアは箱庭のように狭い世界しか知りませんでした。井の中の醜いカエル。だから視野も思考も狭かったのです。
決して逃れることの出来ない台本のある劇場。ならばこそ、劇場ごとひっくり返さなければシナリオからは逃れられないのでは?
この王都の外が地球平面説よろしく断崖絶壁ならば、私にはもはや生きる道はないでしょう。
しかし、ここは『ゲーム風の世界』。
きっと王都の外には広大な世界が広がっているに違いないのです。
演劇に付き合ってはいられません。
『生きるか死ぬか』の2つの道。
生きるとは、闘うという意味ではありません。そんなもの古風な侍さんしか信じてはいけないのです。逃げる選択肢がない人生は壊れた論理。逃げるのは恥かもしれませんが、役には立ちます。
「早く準備しなければ時間がありません!」
私はこれから……
「旅に出るのです!!」
既に決意していました。
旅に出る(逃げ出す)。
旅の恥はかき捨て、なのです。
この場合の恥は、生き恥なのでしょうけれども……。
「泥水を啜ってでも私は生き抜く覚悟!! いそげ! いそげ!」
私は部屋中の扉という扉を開けていました。机の引き出し、クローゼット、キャビネット……何でもかんでもひっくり返します。
早く旅の準備をしなければいけません。
時間がないのです。
「ダメダメ! ダメですぅ! こんなフリフリのドレスでは旅になんて出れません!」
しかし前途多難でした。
「なんです? この、バッグ……舐めてるんですか? こんなんじゃスマホ1つしか入りません!」
私は旅の役に立つ物を何も持ってなかったのです。
「……そもそも『旅』ってどうやるんでしょう?」
突然、不安が湧き上がってきました。思い返せば私、元の世界でも一人旅なんてしたことありません。
さて、ここで突然のクエスチョン。
都道府県の場所を何個、正確に言えますか?
わ、わ、わたしはもちろん全て把握してますけどねね。
まず、北海道……そして、沖縄でしょ?
端から埋めていくのはジグソーパズルの定石です。決して自信がないわけではありません。
「……ダメダメ! どうでもいいことです。今は一刻も早く逃げ出すことを考えるのです!」
思考も行動も大慌てでした。
「えーっと、確実に必要なのは……。着替えに食料? それと……お金ですよね。あとお金に、お金で……お金です!」
私は気づいてしまいました。
世知辛いです。私たちは貨幣制度の奴隷でした。異世界に来ても私はお金に媚び諂わなければならなかったようです。
着替えも、食料も、さらには目的地さえも、結局はお金によって解決できるのでしょう。
『お金で買えないものもある』確かにそれは高尚で純白な真実です。しかし、問題点は『お金で買えるものが多すぎる』というドライな現実なのです。
抗えない誘惑によって支配する『人飼いの獣』それがお金です。暗黒でした。
……ふと思って、私は周りを見渡しました。
部屋中に散乱しているドレスやバッグに装飾品。
『高級』ドレス……『高級』バッグ……『高級』アクセサリー。
ごくり。
と、喉が鳴りました。
「これを売ったら……おいくら万Sになるのかしら……」
ちなみに『S』とは『シード』であり、この世界の最も一般的な通貨単位のことです。白金、金、銀、銅、鉄の各種コインがあり、それぞれ価値が異なります。
「いくつか持ち出して、当面の生活費と旅費にするのが……賢い選択」
値段なんて気にしたことはありませんでしたが、キラキラとしたこの豪勢な装飾品はざっと見積もっても数万Sはくだらないのでは?
私の周りには宝の山が広がっていました。
しかし……。
「う、うぇぇぇぇぇんん!!!」
私は突然泣き出しました。
情緒が壊れているメン〇ラ女なのです。
でも、誰かに分かって欲しいのです。
部屋中に散らかった高級品は、全て私に買い与えられたものです。そう……何もかも与えられたものでした。
昨日までは「高貴な私にふさわしいの物なのよ!」と、与えられることが当然の権利だと考えていました。
あえてローゼリアを擁護するならば、過酷な英才教育への歪んだご褒美なのです。たいして欲しいわけでもない物を見栄のため山のように買い集めていました。
「何もかも……私のものじゃありません……」
ぐすん(泣)。涙を拭います。
今となっては罪悪感の塊として私にのしかかるのでした。
どんな事をしても生き延びたいと思っているのは本心。ですが、泥水を啜るにしても品格というものがあるのではないでしょうか?
品性は金で買えないのです。
「これらに手を付けるのは泥棒と同じです……」
私に残された最後のプライド。これが私の武士道なのです。きっと侍さんも褒めてくれるはずです。
「着のみ着のまま……旅に出ましょう……。野垂れ死ぬのなら、それもまた運命」
スローライフとは死ぬことと見つけたり!
「よし! とりあえず決行日は明後日にしましょう! この王都から脱出するのです!」
私は元気になった気分(気のせい)がしました。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫、私は大丈夫……ですよね?」
「そう、あなたは大丈夫! なんとかなりますよ!」
私は鏡の中の私に話しかけて私に私を慰めてもらいます。
「すー……ふぅ……」
深呼吸して過呼吸にならないように頑張ります。
「よし、私は旅に出る!!」
改めてポジティブ(やけくそ)風に言葉に出して宣言しました。
……。
部屋は沈黙していました。
「で、僕を置いていくつもりか?」
何処からともなく声が聞こえました。
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