気功だけで世界を変える:クラスも勇者もいらない

佐藤祐騰久兵衛

文字の大きさ
44 / 55
ミュンツフルト編

上級職相談(ご利用は計画的に)

しおりを挟む
 自分を狙っているスパイをよそに、顔をヴェールで隠したウイルヘルムが受付に近づく。
「この二人のギルド加入及び転職相談をしたい。スピードパス料含めて一括払いでお願いします。」
 レオンとタリンゴスを受付のデスクまで連れ、口調を普通のものに変えたウイルヘルムが受付に用件を述べた。スピードパスとは、追加料金を支払って順番を飛ばしてすぐに用件を受け付けるシステムだ。

 小ヴァイス領にいた頃、ウイルヘルムは元々転職条件などクラスについて勉強する予定だった。しかし総合戦闘講義を担当するルキウス・セルウィリウス・マクシムス師から、「上級職を凌駕する実力を有するようになってもクラスが発現しないことから、クラスは発現しないだろう」と判断された。それからスキル対策の訓練にのみ集中することになった。

 レオンとタリンゴスの入会費、転職相談、スピードバスなどの費用をウイルヘルムがこれからの仕事の経費として二人に代わって支払う。二人が前の仕事で得られた報酬の半分以上の金額だ。ギルドのスタッフがウイルヘルム一行を一つの会議室へと案内した。すでに上級職への転職を果たしているティージとポマニは、スパイと思わしき人物を見張るために応接室に残った。

「あの間者が余の金剛不壊の気を目で追っていたとな?となればスリハンも金剛不壊の気を察知出来るであろう?」会議室まで歩きながら、スリハンからスパイについての報告を聞いて、ウイルヘルムが逆に尋ねた。
「もちろん出来た。あの日、レオンに入れた撫でるような蹴りを見て、ああ、この人舐めプしてるなと思った。だから付け入る隙はあると判断して鞭を振るったら、コテンパンにやられた。」
 スリハンは何事もないように自分の失敗を振り返った。

「だからポマニも剣を構えただけで何もしなかったわけか。チッ、俺だけバカみてえじゃねえか。」とレオンが悪態をつく。

 ウィルヘルム一行が案内されたのは、ギルド本部の奥にある応接兼診断室だった。清掃の行き届いた室内には、既に一人の男が待機していた。

 年の頃は四十手前、整った口ひげに深い藍色のジャケット。肩の広さと立ち振る舞いから、ただの事務員ではないことが一目で分かる。重ねた革の書類ケースと、机上に整然と置かれた診断機器の数々が、その役職を物語っていた。二名の入会費、転職相談料、そしてスピードパス料をヴァイス信託銀行の手形で一括払いするクライエントはそうはいない。

 椅子から立ち上がった男は一礼してから名刺をウイルヘルムに渡した。

戦士ギルド ルーカン・メリゲイル
 上席特別顧問
 運営戦略参与
 専任認証官
 規約遵守指導役
 探索案件監査役
 武力行使活動監理官

「ようこそお越しくださいました。冒険者ギルド本部・適正開示部門、上席特別顧問のルーカン・メリゲイルと申します。」

 男はにこやかに立ち上がり、ウィルヘルムたちに一礼した。

「本日は《シュヴァルツ様》より、会員登録、上級職診断およびアドバイスを二名分、およびスピードパスの一括お申し込みを頂いております。誠にありがとうございます。当ギルドとしても、最優先でご案内させていただきます。」

 ルーカンは慣れた手つきで会議室に備え付けられた約2メートルの高さがある棚の戸を開けて、その中の装置を披露した。

 それは、木と真鍮、魔力導管と強化ガラスが美しく組み合わさった機械だった。中央には澄んだクリスタルボール、その下部に配された六つのマナ石が脈動している。周囲の金属フレームには魔術刻印が刻まれ、横には自動筆記型のタイプライターが取り付けられている。

「こちらの診断装置は、魔力傾向、魂質、戦闘経験、精神特性などを包括的に解析し、適性職の候補を算出するものです。ただのステータス計測とは一線を画す、極めて精度の高い分析が可能です。」

 少し誇らしげに装置へ視線を移し、ルーカンは一言付け加えた。

「ギルドとしても最大のスポンサー企業の一つである、最新魔導技術の先駆けツァンラートブルク社による開発品です。」

 ルーカンの案内に従い、レオンが水晶球に手を置くと、マナ石が明るく輝き、タイプライターがカタカタと自動で打鍵を始めた。紙送りローラーに差し込まれた紙に、次々と診断結果らしき文字列が記されていく。

 印字された紙を手に取ったルーカンは、一瞥した後、表情を変えずに読み上げた。

「……ふむ、マナ容量は十八万零九十二。《ランナー》としては極めて高い水準です。肉体的には非常に頑健。筋力は平均的、スピードは《ランナー》にしてはやや遅めですが、それでも常人以上。魔法適性に関しては……正直、かなり厳しい数値ですね。」

「……いつも魔法がうまく出なかったのは、やっぱ才能なかったんだな……」

「さらに興味深い点は、戦闘経験の豊富さ。現行のクラスである《ランナー》としては異常なほど多くの実戦経験を積んでいます。これだけの実戦データがありながら、未だ初級職であるというのは、非常に珍しいケースです。」

 ルーカンは紙の下部に視線を落としながら続けた。

「また、隠密行動、窃盗系スキル、交渉、取引、威圧といった、いわゆる『顔役』と『ローグ』としての素養も豊富です。ただし、全体的に技能が散っており、非戦闘職への分岐には適していません。言い換えれば、器用貧乏なまま成長してしまった、といった印象を受けます。」

「そ、そんなぁ……」

「そして、上級職への昇格に関してですが……残念ながら、従来の職業進化条件の多くを満たしておりません。」

「例えば?」とウィルヘルムが口を挟む。

「はい。例えば《ランナー》の正統転職先《トラベラー》になるには、砂漠地帯、雪原、深い森林といった各種環境を一定以上踏破する必要がありますが、どうやら都市圏から出た記録がほとんど見られません。また、魔法戦士系は攻撃魔法の使用実績が必須、そして武術系は、特殊武器の修練や精神鍛錬が求められますが、そういった指導歴も確認できません。」

「はは……そりゃそうだ。教えてくれる人なんていなかったし、金もねえし……ヌンチャクとか特殊武器なんて見たこともねえ……」

 レオンが頭を掻きながら苦笑する。

「では、五日以内に何か上級職に就ける可能性はあるのか?」とウィルヘルムが尋ねた。

 ルーカンは一拍置き、言いにくそうに口を開く。

「……実は、一件だけ存在します……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

ギャルといちゃこらしていたらダンジョン探索がはかどった件。うちのお菊がもふもふで可愛すぎる♡

マネキネコ
ファンタジー
日本国内に3つのダンジョンが出現して早10年。日本国政府は各方面と協議を重ねた結果、ダンジョンを国民に開放すると宣言した。つまり現在では探索者ライセンスさえあれば誰でも気軽にダンジョン探索ができる時代になっているのだ。高校生になった僕は夏休みに入るとすぐに探索者講習を受けライセンスを取得した。そして残りの夏休みすべてをダンジョン探索へと費やし、通常は半年以上は掛かると言われていた最初のレベルアップを、僕はわずか3週間あまりで達成した。これはとんでもない快挙といってもいいだろう。しかも他の人に比べると、身体能力がはるかに劣っているチビデブの僕がである。こんな結果をもたらした背景には、なんといっても僕のパートナーであるお菊の存在が大きいだろう。そしてもうひとつ、なぜだかわからないが、ステータスの中に『聖獣の加護』が表示されているのだ。おそらく、この効果が表れているのではないだろうか。そうして2学期が始まり僕が教室に顔を出すと、最近やたらと絡んでくるギャル友から「あんたなんか変わった!? なんていうか雰囲気とか? 背もだいぶ伸びてるみたいだし」と、なんでどうしての質問攻め。今まで異性には見向きもされなかった僕だけど、これってもしかして、『モテ期』というやつが来てるの?

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...