気功だけで世界を変える:クラスも勇者もいらない

佐藤祐騰久兵衛

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ミュンツフルト編

作戦前夜

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 ウイルヘルムが隠れ家でポマニを見つけた時、彼は作業場として使われている部屋でタリンゴスと談笑していた。

「ポマニ、少し時間をもらおうか。」
 ウイルヘルムはノックしてからドアを開け、声をかけた。

 ポマニは頷き、タリンゴスに「ちょっと行ってくる」と言い残して部屋を出た。隠れ家の正面玄関を抜けると、隣の賭場から歓声と罵声が絶えず聞こえてくる。ウイルヘルムは小さな庭へと足を運び、漆黒の短刀をポマニの前に差し出した。

「これはうぬの戦い方に合わせて誂えたる特製の品だ。余の霊衡と同じ素材、玄鉄で拵えた短刀。この短刀を選ぶか、あるいはレオンのように余から武術の手ほどきを受けるか、いずれかを選べ。」
「武術の手ほどきをお願いします。」
 ポマニは即答した。
「で、あるか。」
 ウイルヘルムは短刀を軽く放り投げた。
 ポマニは怪訝そうにそれを右手でキャッチしたが——思わず眉をひそめるほどの重さに驚く。
 思わず力を込めて持ち直そうとした瞬間、逆にその力が反動となり、短刀が勢いよく跳ね上がった。
 慌てて両手で押さえ込み、なんとか取り落とさずに構えを整える。
「やはり筋が良い。教え甲斐があるな。」
 ウイルヘルムはその一連の動きを見届けて、満足そうに言った。

「手ほどきと武器、一つしか選べないではなかったんですか?」
「選べとは言ったが、選ばない方を失うとは言っていない。」
「……人をおちょくるのも大概にしてください。」
「揶揄うつもりなど微塵もない。うぬが武器の方を選べば、その武器を極めし剣術を伝授するまで。」
 ウイルヘルムは一呼吸を入れて、話を続ける。
「武術の手ほどきを選んだ以上、武器の扱いではなく、己が体の遣い方を伝授しよう。いずれがうぬを強くするか……試さないと分からないがな。」

 ポマニは漆黒の短刀をしばらく凝視した後、それを両手できつく握りしめた。

「よろしくお願いします。」

 ***

 影魔石流通会、前夜。

 ウイルヘルムと『ウイル・ラブ組』は、新たな隠れ家となった屋敷で、『仕置き坂の絞首台』戦の最終作戦会議を開いていた。『ウイル・ラブ組』とは、たった一日でこの物件を購入したティージが、功績を盾に命名権を勝ち取り、勝手に名付けたチーム名がそのまま採用されている。

「戦の支度は万全に整えた。明日、余が流通会の場から出てくる瞬間が合戦の始まりの合図だ。」
 ウイルヘルムが確認した。
「おう。会場の出口で師匠を見たら、煙幕弾を打ちまくって、その隙に“囮”を混ぜて全員既定のルートで絞首台の陣地まで走って、そこで敵を迎え撃つ……腕が鳴るぜ!」
 レオンは張り切っている。足の怪我はもう完治した。

「『鉄骨衆』と『ロゴス社』の戦力については以前説明した通り、ロゴス社は己が身を守るのが関の山、敵として数えるほどではない。鉄骨衆が今回遣わしてきた面々を見るに、戦いとなれば正面から押し寄せるだけの者ども。わざわざ策を練るまでもない。」

 そう言い切ったウイルヘルムは地図に描いてあるピンクの裸女のシンボルに指差した。

 金に物を言わせる勢力――「パーティーレディース」、本当の名称は「カドゥプルクラブ月下美人会』。表向きは「黄小町」などの大貴族すら客として迎える高級娼館を経営している商会だが、その裏では黒い噂が絶えない。
 男に貢がせた金、美人局で騙し取った資産などで築いた財力は、今回の参加者の中でも最強といえる。さらに、違法な薬の密売を行い、それによって娼婦たちをコントロールしているという話もある。
 「予想された月下美人会の戦力は?」ポマニが確認する。
 「数は二百余り。薬で縛られた傀儡の如き者どもを駆り使っているようだ。精強の兵とは言い難いが、犠牲にできる駒だけは十分揃えているな」
 パーティーレディースは基本的に、戦力の強い相手には手を出さない。やつらの目的は不明だが――おそらくは薬物関連の資金洗浄のためだろう。
「金の力で場を支配するタイプか……でも、数が多いってのは厄介だな」レオンが腕を組む。
「こちらの脱出経路を封じられたりしたら、面倒なことになるかもしれないな」スリハンも慎重な口調で呟く。
「ま、既定ルートにも罠を仕込んでいるから、心配ないさ。」タリンゴスは自信たっぷりで言ってのけた。ポマニのカウンセリングでクラスチェンジの件から吹っ切れたようだ。
 「いずれにせよ、奴らがどう動くかは未だ測りにくい。」とウイルヘルムは静かに言った。「とはいえ、数ばかり多き烏合の衆が相手なら、切り抜ける術は幾らでもあるだろう」

 そして、隠れ蓑すら必要としない最も厄介な参加者――『サードアイ』。
 パーティーレディースと並ぶ財力を持つだけでなく、強力な武力も備えた犯罪組織である。
 「邪教と闇社会の武装組織の混合体、サードアイ……」ポマニが嫌そうに呟く。
 サードアイは、その名の通り「第三の目を開く」と称する邪教の一派と、裏社会で暗躍する武装組織が結びついた存在だ。ゲームに参加する代表者は、その幹部の一人という情報が入っている。
 「用意する魔石と金の量は、月下美人会と同等と見做して良いだろう」ウイルヘルムが淡々と言う。「今回の大会において、資金面では余と月下美人会に次ぐ勢力だ」
 「サードアイが参加する度に、他の連中はうんざりするって話だったな」とレオンが鼻を鳴らす。
  サードアイが関わるたび、ゲームの空気は一気に悪くなる。なぜなら、彼らは純粋なビジネスとしてではなく、自分たちの都合を強引に押しつけるからだ。
 他の参加者たちは、できることならサードアイを敵に回したくない。だからこそ、サードアイの要求を呑まざるを得ない場面が多くなる。結果として、無理な取引を強いられることもしばしばだった。
 「戦力は?」スリハンが尋ねる。
 「信徒と傭兵、両方を駆る。百の数は下らない。武力に限って言えば、鉄骨衆と互角以上に渡り合える戦力だ。」
 つまり、相当な手練れが揃っているということだ。しかも、ただの雇われ兵ではなく、教義に染まった狂信者まで混ざっている。理屈の通じない相手がいるというのは、それだけで厄介だった。
 「金も武力もある連中か……厄介すぎるな」タリンゴスがため息をつく。
 「こっちとしては、戦わずに済むならそれに越したことはないが……」ウイルヘルムは静かに言った。「相手がどう出るかはわからない。最悪の場合、避けて通るのは難しいかもしれないな」

 そして、今回が初めての参加となる新興勢力──「奇華社」。大盛たいせいからの密航者たちによる秘密結社であり、表向きは大襄の商人を装って活動している。
 ヴァイス家が用意した資料を除けば、その詳細は一切不明。
 急速に勢力を伸ばしていることから、単なる密航者の集まりではなく、何らかの後ろ盾があるのではと囁かれている。
 本来、ゲームに参加できるような規模ではないはずだが……。
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