どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第一章

第19話 ゴブリンランス

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「た、助かった……」

 心の底からの安堵の声は誰のものだったろうか。
 先ほどまでの危機的状況を乗り越えた一同は、皆一様に呆けた表情をしており、ある者はその場に座り込み、またある者はじっと出入り口を見つめていた。

「う、うぅん……」

 メアリーの"回復魔法"により治療された由里香が、寝ぼけたような声を上げながら眼をうっすらと覚ます。
 その声がきっかけとなって止まっていた時間が動き出したようで、各々行動を開始し始める。

 眼を覚ました親友に思わず泣きつく芽衣や、未だ意識を失ったままの慶介を膝枕して幸せそうにしている陽子。
 中でも一番多いのは、周囲にちらばっているドロップを集めている者達で、戦闘中には拾い集める余裕もなかった為、その数は結構な数となっていた。
 とはいっても、ゴブリンは今の所魔石しか落としてこなかったので、量としては同数のネズミや蝙蝠のドロップと比べれば大した量ではない。

 ただ今回は倒した数が多かったせいか、魔石以外のドロップも出ているようだった。
 その一つが小さな角で、あれだけ倒したのにゴブリンからは一つ。ホブゴブリンが一つ、と計二つしかドロップしなかった。
 通常ゴブリンの方の角ドロップは、あちこち散在していてどのゴブリンが落としたのか区別も付かない状態だ。

 ファンタジー作品ではゴブリンを小鬼と表現する作品は存在するが、今まで出会ってきたゴブリンに角が生えた奴は存在していなかった。
 もしかしたらこれは角ではなく、骨の一部かゴブリン特有の体内にある器官なのかも? というどうでもいい討論がされたりしたが、結論は有耶無耶のまま。

 それよりも大きな目玉商品は、ホブゴブリンからドロップした槍だ。
 長さは北条の身長より僅かに短い程度で、およそ百七十センチ程。
 倒したホブゴブリンも生前は槍を持っていたが、ドロップした槍とは別物だったと北条は語っていた。

 穂先だけでなく、柄の部分も金属でできており、その重量は三キロの鉄アレイよりも少し重い程度かな、といった所だ。
 龍之介らが持つ剣よりは重いが、これ位なら今の彼らなら扱えない事はないだろう。

「こいつはー俺が使わせてもらおう」

 北条のその言葉に反対意見は出なかった。
 現状のメンバーで他に適切な使い手はいない。
 そもそも、ホブゴブリンに止めを刺したのは北条だったので、今更その所有権にケチを付けたら、今までのドロップにも話が及びかねない。

「にしても、よくあの状況で即座に動けたものですね」

 信也はあの時の情景を思い出し、北条がほとんどノータイムで駆けだしていたことを思い出す。

「ああ、その事かぁ。実は慶介のとんでもビームで敵を薙ぎ払っていた時、俺はじっと敵を観察をしていたんだがぁ……。そん時ぁ奴は咄嗟に味方を自分の前に並ばせていたのが見えたんだ」

 慶介のビームは当初直線状に進んでいたが、狙いが少しズレたのかホブゴブリンの少し脇に逸れていた。
 しかし、傍にいた肉壁のゴブリンが一瞬で殺されているのを見て、慌てたホブゴブリンが急しのぎの防波堤を築き始めていた。

「それを見てたんで、慶介がぶっ倒れた後もー警戒して良くみていたんだがぁ……。白霧の立ち込める中、薄っすらと黒い影が見えた気がしてなぁ。気のせいだったならいいんだが、万が一奴が生き残っていたら厄介だ。再び魔法陣で援軍が送られてきたら、今度こそやばかったしなぁ。だから、どっちにしろああせざるを得なかったって訳だぁ」

 確かにあの状況で更に援軍が送られていたら、今こうして会話などをしていられなかっただろう。

「……俺はもう少し自分の事を冷静に判断できる人間だ、と思っていたんだが……どうも戦闘に関する事だといまいち切り替えが出来てないようだ」

「まあ仕方ないさ。その辺は追々……だぁ」

 戦闘において活躍している北条の慰めの言葉に、余り励まされた気もしなかった信也だったが、気を切り替えて別の話題に移る。

「ところでアレ・・はどうする?」

 そういって信也は部屋の端に目を向ける。
 そこには今回の元凶とも言うべき宝箱が鎮座している。
 慶介のビーム攻撃の範囲からはギリギリ外れていたので、見た目はそのままだ。
 もっとも、まともにあてた所で破壊したり融解したりは出来ない気はする。

「勿論開けるぞぉ。ただ、長めの休憩を挟んでからになるけどな」

 罠がもう一度起動する可能性もありえなくはないが、それならそれで次はどうにかできる目算が北条にはあった。
 だが、そうした事態になる可能性はかなり薄いと判断している。

 もし何度でも起動する罠なら、お手軽に経験値などが稼げる場所になってしまうからだ。
 それにはゴブリン程度簡単に倒せる実力も必要だが、雑魚相手でも次々と呼びだして 倒し続ければ、経験値や魔石などがそれなりにコンスタントに入手できる。
 恐らくそのような仕組みにはなっていないだろう、というのが北条の読みだ。

 ちなみに、経験値を貯めてレベルを上げる、というシステムは存在しているとほぼ共通の認識となっている。
 慶介がスキル検証時よりも"ガルスバイン神撃剣"の負担が若干軽くなったと感じたのもこの為だろう。
 先ほどの激戦で、更に戦闘に参加した者達のレベルが軒並み上がっているだろう、というのも北条が箱を開ける事に躊躇しない理由の一端になっていた。

 そういったこれからの予定を改めて全員で話し合いつつ、休憩する事一時間とちょっと。
 昼食も途中で挟み、MPに関してはある程度回復したといった所。
 慶介も既に目覚めており、青白かった表情も大分元通りになってきている。
 これなら、最悪初っ端からビームという選択肢もいけるだろう。



「……という訳で、これからあの宝箱を開けてみようと思う。可能性は高くないと思うが、万が一また罠が発動してゴブリンが沸いてきた場合、先ほど話し合った作戦でいく」

 神妙な表情の信也に皆が頷く。
 作戦通りの配置につき、信也が徐ろに宝箱へと近づいて手をかける。
 そしてゆっくりと力を加え始めた。

 ――と、何の抵抗もなくすんなりと宝箱は開き、先ほどのように入口が閉ざされたり、魔法陣が光りだしたりといった事は起きない。
 念のため十秒程様子を見たが、やはり変化は起こらなかった。

「よし、問題ないみたいだ」

 信也のその声に、緊張のムードが解ける。
 そして我先にといった感じで、龍之介や由里香が宝箱の元へと走り寄る。

「で、何がはいってたんだ!?」

 ワクワクが抑えきれない様子の龍之介に、苦笑を浮かべながら「自分の目で確かめろ」とばかりに、場所を譲る信也。
 するとほぼ同時に宝箱の中身が見える場所に移動し、その中身を確認した龍之介と由里香は、

「ん? なんじゃこりゃ」

「……オモチャ?」

 と、ほぼ同時に感想を述べる。
 他の面子も気になるのか近寄ってきていたので、信也は龍之介の横からひょいっと宝箱の中身を拾い集めると、みんなに見せるように手の上に乗せた。

 どうやら中身は一つではなかったようで、信也の左手の上には小さいサイコロのようなものが三つほど。
 右手の上にはタブレットほどの大きさの石の板が置かれている。
 どちらも同じ材質のようで、少し緑がかった青色をしており、所々水に油を浮かしたような紋様が特徴的だ。

「見ての通りのものだが、重さはこの板の方も見た目よりは軽い。サイコロっぽいのは、目の部分に特に何も描かれていないな」

 信也の左手から一つ摘み上げて繁々と見つめる咲良。
 感触を確かめるものの石そのもので、様々な角度から眺めてみたが、特に気になる点は見つからない。

 一方タブレット状の板の方には幾つか特徴がみられた。
 まず表面には五つの窪みが等間隔に並んでおり、それは丁度先ほどのサイコロがすっぽりと入りそうなサイズであった。
 そして、その五つ並んだ窪みの下部には、スライドスイッチのようなものがある。
 窪みがある側を上側とするならばスイッチは現在左側の方にセットされている。
 更にそのスイッチの左側には、そこだけ材質が違うのか白い長方形の形に僅かにでっぱっている部分がある。

「これってやっぱり……」

 そう言いながら周囲を見やる咲良は、皆の顔を見て自分の考えが間違ってないだろうなと確信する。

「そうだな……。今の所そのサイコロは他に使い道が分からないし、そのくぼみに嵌めてみるか?」

 信也のその提案は可決され、すぐにでも実行に移されることとなった。



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