26 / 398
第二章
第23話 村の発見
しおりを挟む各人にとって、現在の状況を改めて思い返すいい機会となった夜を越え、ダンジョン脱出後に初めての朝を迎えた。
みんなして朝食を食べつつ、今日の行動の再確認を行う。
まずは、近くにそびえたつ崖を回り込む形で上り、そこから周囲を観察して人里などを探す。
もし何か発見できればそちらの方角に向かい、何も発見できなければ観察した情報を共有して話し合う。そして改めて向かう先を決定する。
「それでは、そろそろ出発しようか」
食事の後の小休憩の後、信也がそう声をかけて本日の行動が開始された。
まずは、崖沿いを移動する為にそちらの方に移動する必要がある。
移動を開始した一行だが、そこまで距離が離れていた訳ではないので、すぐに崖傍へと到着した。
後は、崖沿いに回り込める道を探すだけだ。
途中でダンジョンの入り口部分も素通りしながら、五分ほど歩いた所で、
「……なんか、この崖思ったよりなげーな?」
龍之介が遠くを見つめながらそう口にする。
確かにここから見える範囲内では、崖上に通じる道や回り込めそうな地形は見当たらない。
事前の予想では、段々高低差も低くなっていって、どこかしらで崖の上側に登れる個所が見つかるんじゃないか、という想定だったのだが、これでは少し予定を変える必要がありそうだ。
「そうだなぁ……この様子なら少し無理をしてみるかぁ」
そう口にすると、北条はスタスタと数メートル先まで歩いていき、近くの崖を見上げる。
崖といっても、切り立った崖という訳ではなく、所々には小さな足場になるような場所も存在していた。北条の視線は、そういった足場を行ったり来たりしているようだ。
やがて、ヒョイっと跳躍したかと思うと、時には壁にへばりつきロッククライミングの要領で壁を移動し、また時には足場から足場へと跳躍をして、崖上へと昇っていく。
その動きは、地球における人間の身体能力を、明らかに上回っている。
この世界に来てからのレベルアップもそうだが、北条の場合は"成長"のスキルの影響もあるのか、信也や龍之介らよりもその身体能力は高いようだ。
数分後、見事崖の上まで到達し周囲を軽く見まわした北条は、
「予定は少し変わるがぁ、ここから周囲を伺いながら、最初の泉の方へ戻ろうと思う」
と、声を大きく張り上げた。
「そこからは何も見えないのかー?」
同様に少し声を張り上げた信也がそう尋ねる。
「ここからはー、森の先に山脈が見える位だぁ。だが、最初のダンジョンがあった崖上の方に戻れば、もう少し周囲が見渡せると思うぞぉ」
「――と、いう訳みたいだ。さっきの所へまた崖沿いに歩いて戻ろうか」
そう口にした信也は軽く皆を観察してみるが、特にこれといった不満はないようだった。
ダンジョン内では先行きの見えない中、遠回りをした挙句、元の場所に戻ってきたりなどといった事も何度かあったのだ。
歩いて数分の距離位、彼らにとって今更どうってことはなかった。
テクテクと元来た道を逆戻りして、すぐにまた最初の崖上ポイントまで戻った。
崖上にいる北条はそこから周囲を見渡していたが、徐に崖上にまばらに生えている樹の中で、一番背の高い樹をよじ登りはじめた。
すぐに崖下にいる信也達からはその姿が見えなくなる。
「猿みたいな動きをしてるなー、あのオッサン」
龍之介のその少し不躾な言い方に、咲良は眉を軽くしかめながらも、
「……まあ、確かに人間離れした動きはしてるわね」
と、消極的に同意をしている。
そんなやり取りをしているとは露とも知らない北条は、しばらくして樹から降りてきた。
「目的地はみえたぁ。詳しくはそっちに戻ってから話すー」
そう言いながら、今度は崖を降り始める。
見ていてハラハラするような動きで、足場を経由してポンポンと飛び降りていく様子は、まるで漫画やアニメのキャラクターのような動きだった。
先ほど崖を上った地点よりは、中間地点となる足場が少ない為、一回一回の降下でそこそこの高さを飛び降りているのだが、見極めているのか着地した足場が崩れることもなく、崖下まで無事たどり着いた。
「お疲れ様。それで、どうだったんだ?」
信也の食い気味の質問にも、慌てる事なく北条は観察した事を報告する。
「あー、あの崖から見て泉の更に先の方角。ダンジョンの出口から出てまっすぐ前に進んだ方角だな。そちらの方に小さな集落が見えたぁ」
その情報はまさに彼らが待ち望んでいたものだった。
可能性としては、この場所が人里離れた辺境の地といった可能性もあったのだ。
そして人の暮らす集落があるという事は、他にもそういった場所が近くにある可能性も高い。
「で、その集落辺りで森が途切れているようで、その先には平原が広がっているようだぁ。集落までは……恐らく一日もかからない距離だろぅ」
「それなら、もうこの後の予定は決まりだなっ!」
龍之介のその言葉に否やを言い出す者はいなかった。
僅か数日とはいえ、文明から切り離された彼らは人のぬくもりや人工物に飢えていたのかもしれない。
例えそれが彼らから見て未発達な文明であろうとも。
北条のもたらした朗報から二時間ほどが経過した。
集落のある方角へと、歩みを進める彼らの足取りは軽い。
森の中は時折魔物が出現するようで、一行にも時折襲いかかってきたが、ダンジョンですっかり慣れてしまっていた彼らにとって、それらを撃退するのは容易なことだった。
そもそも、ダンジョン内に比べて魔物との遭遇頻度は少ない。
ただ、新種の魔物もいたので、最初だけ対処には手こずった位だ。
ちなみにその新種は、中型犬より少し大きいサイズの狼と、三十~四十センチ程の大きさの巨大な蜂だった。
それよりも対応に苦慮したのが、魔物を倒した後の事だった。
ダンジョン内の魔物とは違い、外で襲ってくる魔物は倒しても粒子化しない事が明らかになったのだ。
それはつまり、倒した魔物の素材をまるごと獲得できるという事ではあるのだが……。
「うぇえー、気持ちわるいぃーー」
狼のほうはすでに何度も動物を斬ったり殴ったりしてきたので、魔石(ちなみに魔石は心臓部付近にあった)を取り除く位は出来た。
だが、巨大昆虫はやはりハードルが高いようだ。
それでも北条や信也、後は自分が倒した分については石田なんかも魔石と素材になりそうな尾針の回収だけは済ました。
先ほどの声は、その様子を少し離れた所から眺めていた由里香によるものだ。
「だが、今後は君たちもこういった事をやる機会があるかもしれないぞ」
信也がそう口にすると、由里香を始め女性陣は皆嫌そうな顔をする。
魔石と針の回収が終わると、他の残骸はどうしようもないのでその場に残し、先へと進み始める。
死体ごと回収しなかったのは、〈魔法の小袋〉の容量がそれほど大きくなかった点もあるが、手ぶらで村に現れたのに収納から出してしまっては、出どころを追求されかねないからだ。
〈魔法の小袋〉の存在を公にしない為には、こういった事にも気を使わないといけない。
素材が少しもったいないかもしれないが、魔石以外で金になる部位もわからないので、とりあえずといった対応だ。
それから更に一時間程経過した。
今は小休憩をしている所だが、ついでにこの機会に集落の人と接触した際の対応について、話し合いが持たれていた。
なにせ彼らの風体は怪しい事この上ない。
北条によると、その集落はそれほど大規模なものではなく、小さな村といった程度らしい。
幸い彼らはゴツイ見た目の集団って訳でもないので、盗賊や山賊などと間違われる事もなさそうだ。
しかし、武装している者を含む十二人もの見知らぬ集団が、突然森の中から現れたら警戒はされるだろう。
ここがどのような世界かはまだ分からないが、彼らの様子は着の身着のまま村から逃げたしてきた集団、って所だろうか。
そんな状態の彼らは、まず自分達のバックストーリーを考える所から始めた。
ちなみに異世界から来ました、と素直に打ち明けるのは、北条を初め、幾人かに止められた。
もし、今までも彼らのようにスキルを与えられてやってきた人達が存在した場合。
よくある異世界もののように、下手に明かしてしまうと、何かしらの勢力に取り込まれる可能性がある。
無論それはそれで、当面の生活の保障にはなるだろうが、身柄を拘束される可能性も出てくる。
或いは頻繁に地球人が流れてきてるなら、そこまで気にされない可能性もあるにはある。
しかし、どちらにせよ態々自分達の重要な情報を明かす必要性はない、というのが最終的な結論だ。
もし、信也達がこの世界にとって、初めての異世界人だった場合。身の上を伝えても、相手にはなんのこっちゃとなるだけで、変な目で見られるだけだろう。
その後、色々と細々とした話し合いは行われ、侃々諤々と議論は続き、やがて一つのストーリーが生み出されることになった。
それは『遥か遠い島国からの来訪者』というものだった。
0
あなたにおすすめの小説
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる