どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第二章

第25話 ジャガー村到着

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「くぅ……。今日もいい天気だべなぁ」

 《ジャガー村》の農民、タゴーサは農作業によって額から噴き出た汗を腕で拭いながら、畑の近くにある小道へと腰を下ろした。
 この辺り一帯は寒帯という程でもなく、温度的な視点から見れば一年を通じて日本とはそう変わらない気温である。

 最も日本といっても場所によって気温が様々なのと同様、この辺りでも山脈が近い《ジャガー村》周辺は、冬になるとそこそこの量の雪が積もる。
 ただし、気温の方はそこまで低くはならず、氷点下十度を下回る事は滅多にないだろう。

 今はそんな雪の降り積もる長い冬を越え、春本番へと移り行く季節。
 農民であるタゴーサも汗水たらして真面目に農作業に精を出していた。
 つい先ほどまでも春小麦の作付けをしていた所で、キリの良いところまで作業が終わったので、一休みしようとしていた所だったのだ。

 タゴーサは腰に吊るしてあった水筒を手に取り、中身をグビっと飲む。
 そうして休憩に入ったタゴーサが、すっかり汗も引き、そろそろ作業を再開しようかなと思った時だった。

「そこの人、休憩してる所済まないがぁ、ちょっと尋ねたい事がある」

 タゴーサが振り向くと、そこには見知らぬ四人組がこちらを見つめていた。
 着ている衣服は《ジャガー村》の人たちが着るような物ではなく、町に暮らしてる平民が来ているようなもので、特に大きな荷物も持たずに身軽な装いだ。
 武装といえば先頭の男が持つ槍くらいで、鎧などは身に着けていない。
 後ろの女三人も腰に帯びた短剣以外は、特に武装はしていないようだった。

「お、おらだか? なんのようだべ」

 辺境と呼ばれる中でも更に僻地に存在するこの村に、外部の人が訪れる事など定期的に訪れる行商人以外に存在していなかった。
 そのため、村人は外の人間に慣れてる者は少なく、タゴーサも例に漏れず幾分か緊張している。

「あー、まずはこの村の名前を知りたいんだがぁ」

 男のその質問に不思議そうな顔を浮かべながらも、タゴーサは正直に答える。
 すると、村の名前を聞いた男は眉を顰め、何やら考え始めたようだった。
 そして、

「その《ジャガー村》とやらは、『ヤマト』のどの地方にある村なんだぁ?」

 と、何やらよく分からない事を言いだした。
 男の質問の意味が理解できず、黙りこくってしまったタゴーサの様子を見て、男は何かを察したのか、また新たな質問を重ねてきた。

「……妙な質問に思うかもしれないがぁ、ここは何という国の何という地方なんだ?」

 男の再度の質問に、益々意味が分からなくなるタゴーサであったが、

「お前さん、何言ってんだべか。ここは『ロディニア王国』の端っこにある、グリーク様の治める《グリーク領》だべ」

 タゴーサの返事を聞き、男は何かを察したようで、重い沈黙の後に「そうか……」とだけ呟き、押し黙ってしまう。
 タゴーサはどうも何か事情があるようだ、とは思い始めたものの、恐らく自分の手に負えるものではないと判断。話を終える為に男に声を掛ける。

「あ、あの、何があったか知んねぇが、おらはそろそろ農作業さもどらばならんて」

 そう話を打ち切ろうとするタゴーサに、男は慌てたように声を掛けてくる。

「あ、すまんすまん。最後にちょっと聞かせてくれないかぁ。ここの村長に話を伺いたいんだがぁ、どこに行けば会えるかな?」

「村長だか? そいなら村で唯一の二階建ての家に住んどるから、いけばすぐに分かるはずだんべ」

 その言葉を聞くと、男はタゴーサに礼を述べると他の三人を引き連れて村へと向かっていった。
 その様子を見つめていたタゴーサは、

「くぅ、一体何なんだべなあ」

 冒頭にいびきをかいた時のような「くぅ」という声を発するのは彼特有の会話の癖だ。
 その癖と共に吐き出された言葉は、少し離れた場所で様子を窺っていた他の村人ともシンクロしていたようだ。
 タゴーサ同様に、皆不思議そうな眼差しで四人へと視線を向けるのだった。


▽△▽



「《ジャガー村》、ね……」

 一先ず現在地の名称を聞き出すことはできたが、あの様子では余り詳しい事は聞けなさそうだったので、北条は話を切り上げ村長へとターゲットを絞った。

「なんか……純粋そうな人でしたね」

「そうっすね、『ザ・村人』って感じだったっす」

「そうね。農夫の中の農夫。キングオブ農夫って感じだったわ」

 女性三人組が中傷しているのかどうか、よく分からないような物言いで先ほどの出来事について語っている。
 そんな三人を横目で見ながら、北条は少なくとも最悪な展開にはならないで済みそうだと安心していた。

 村の周囲は柵で囲まれてはいるが、高さは一メートル程なので乗り越えていくのはそう難しくはない。
 森の中にいたあの狼の魔物なんかの相手には、あれでも有効なのかな?
 などと話しながら、村の入り口を通り過ぎる。
 ここが町だった場合は違ったかもしれないが、村としてはこれが一般的なのか入口には見張り番などもおらず、北条達は誰に咎められる事もなく、素通りすることができた。

 ただし、村内に入ると周囲からの視線が多く突き刺さった。
 その視線が敵意や反感の篭ったものではなく、好奇心である事に一行は安堵しながらも、村の右奥の方にある二階建ての建物の方を目指す。
 村の入口から見ると、少し小高い場所に建っていて、一発でそれと分かる。

 遠巻きにヒソヒソ話す村人の脇を通り過ぎ、十分程歩いたところで村長宅へと到着した。
 合掌造りの屋根をしたその家は、木造であることも手伝って、日本の古き良き民家といった趣がある。
 だが随所に日本とは毛色の異なる装飾や作りが見られ、エキゾチックなテイストも感じる。

 正面入り口のドアには、ドアノッカーらしきものが付いていたので、北条は徐ろにカンカンッと心地いい音を響かせた。
 ――少しすると、家の中から何か物音が聞こえたかと思うと、建物内から足音が聞こえてくる。
 そして勢いよく玄関のドアが開かれたかと思うと、

「ん、なんじゃー? てっきりジョーディの奴が来たのかと思ったのじゃが、お前さんら、何者じゃが?」

 そこに現れたのは、白く長い髭をたらした老人だった。
 見た目は西洋人のそれと変わりなく、身の丈はその年齢にしては高くて、北条と同じ程度。
 腰は少し曲がり気味だが、老人とは思えないほど体つきはしっかりしており、その薄青い瞳には年老いてなお力強い意思を感じさせる。
 その無形の圧力に一瞬押されかけた北条だったが、落ち着きを取り戻すとその老人へと話しかける。

「あぁ……っと、俺たちは《アスカ村》という村の住民なんだがぁ、ちょっと困った事態に巻き込まれてしまってみたいでな」

「んん? 《アスカ村》じゃと? そんな遠くから態々何しにきたんじゃが?」

 まるで《アスカ村》という名前に聞きおぼえがありそうな老人の返答に、北条は一瞬素の表情になるも、強引に立て直して話を続ける。

「え、《アスカ村》をご存じなんですか!?」

 慌ててしまった為に、少し棒読みな上にらしくない口調になってしまったが、老人はそこには気づかずに、

「あぁ? 《アスカ村》じゃろ? あそこの鳥料理はそれはそれは美味し……。んむ? いや、あれは《アスト村》じゃったかの。それとも《オスカ村》じゃったかのぉ……」

 何やらブツブツ言い始めた老人だったが、やがて記憶の引き出しが終わったようで、

「おぉ、すまんすまん。あれは《ムスカ》村じゃったわい。どうも近頃は物忘れが酷くてのぉ。して、《アスカ村》とやらから、どのような要件でこの《ジャガー村》まで来なすったのじゃが?」

「それなんだがぁ、少し話が長くなるので、どこか落ち着ける場所で話が出来んかぁ?」

「む? そうかそうか。それは構わんのじゃが、今少し取り込んどる事があっての。話を途中で打ち切る事になるかもしれぬが、構わんかの?」

 老人が最初に出していた、人物らしき名前が関連するのだろうか。
 北条はそう考えながらも、老人の提案に頷き、一同は老人の案内で建物の中へと入っていくのだった。


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