どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第二章

第36話 成果発表

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「みんな、お疲れ様」

 信也のその短いねぎらいの言葉から話し合いは始まった。
 今は夕食を終えた頃合い……日本でいうならゴールデンタイムに入って少し経った位だろうか。
 無事合流を果たした彼らは、積もる話は夕食後にして買い物班が調達してきた食料を調理。

 使い慣れない昔ながらの台所に四苦八苦しながらも、村人に教わったという簡単な料理は完成した。
 それは決して上出来とは言えないものだったが、今の状態では贅沢も言えない。
 各自に村で買いそろえたという食器やフォークが分配され、夕食はささっと済ませる。
 そしてようやく話し合いの体勢が整った今、女性小屋の方に集まって会議が始まったという訳だ。

 冒頭の信也の挨拶の後、誰も後に続くものも現れなかったので、仕方なく信也は再び発言する。

「それで……恐らく俺達買い物班の方が報告は早く終わるだろうから、先にこちらの事を話そう」

 そう口にすると、二班に分かれてからの報告が始まった。
 村で調達した背嚢や袋などに、ダンジョンで手に入れたものなどを詰め込み、村へと持ち帰った信也達は、毎度の事ながら住民の視線を多いに集めたそうだ。

 しかし、村長からすでに村全体に十二人の旅人が来訪してる事は伝えられており、不用意に接触してくる村人はいなかった。
 そんな彼らには便宜を図るようにも事伝えられており、村での物資の調達は比較的スムーズに完遂できた。

 とはいえ、現代日本でもあるまいし、こんな中世レベルの農村に彼らが納得できるような品はなく、ベッド代わりの筵を八枚。更に同数の掛布団替わりの薄い布。木製の食器に調理用具に食料。それから公共資金に余裕がありそうだったので、全員分の背嚢などの荷物を入れる為の装備や雑貨。

 ちなみに筵が八枚なのは、それぞれの家に最初からベッドが二つずつ用意されていたからだ。
 ベッドといっても、背の低いテーブルのような木製のベッドの上に藁を敷き詰め、その上にリネンのシーツを乗せただけのもの。上に被せるのは購入したのと同じ、薄い布しかない。

 食料は多めに一人十日分ずつを購入してある。本当はもう少しあった方がよかったのだが、一度にそんなには用意できないようだったので、とりあえずそれで済ませた。

 多めに確保したのは、彼らの持つ〈魔法の小袋〉の中では時間経過が起きないという特性に気付いたからだ。
 熱い湯を入れたカップを数時間後に取り出してみても、その温度は損なわれる事がなかった。

 ――ちなみに昼食時に、さりげなく北条がジョーディに聞き込みをした所、十二人の初期アイテムである、小部屋程度の容量の〈魔法の袋〉は、最低でも一金貨はするとの事だ。
 それが更に時間停止の能力もあるとなれば、その数倍は軽くするだろう。

 そんな便利アイテムが手元にあるので、食料は手に入る時に多めに確保しておいた方がいいだろうという事で多めに確保された。
 食料を含め、物資を上手く調達できたのは、最近まで行商人が村に訪ねていたからのようで、丁度タイミングが良かったらしい。

「――とまあ、俺たちが入手したのはそんな所だ。全部合わせても三銀貨とちょっと位だったかな」

 十二人分と考えると安いのか、それとも高いのか。いまいちその辺りの区別はつかなかったが、感覚的にはそんなに高くはない印象ではある。
 旅人としての基本的なアイテムはとりあえず全員分買いそろえたので、これでとりあえず見た目的に多少は馴染めるだろう。

「……なるほどぉ、大体の話は理解したぁ。こっちはこっちで色々あったので、とりあえず重要な所を話していくぞぉ」

 北条はそう言うと、無事にダンジョンへとたどり着いた事。最初の部屋に見逃していた通路があり、その先に転移部屋があった事などを買い物班へと話していった。

 買い物班は、陽子以外は比較的ゲーム知識などに疎い面子であったので、所々補足で説明を加えながらの話となった。
 何か分からない事があれば、その都度解説を入れながらなので、多少時間はかかってしまったが、これで全員の情報の共有が行われた。

「さて、これで大体情報の共有は終わったので、後は今後の方針についてだが……」

 そこで一旦言葉を止める信也。
 眼を閉じしばし考え込むと、続きを話始める。

「ジョーディさんは先に伝書バトでもって、ダンジョン発見の報を送るとのことだ。その後自ら《鉱山都市グリーク》の冒険者ギルド支部に報告に行くとのことだが、我々も同行しないかと誘われている。その件についてまず話し合おう」

 信也はそう言うが、話し合うまでもなくみんなの意思は同行する方向に固まっていた。
 それを見て取った信也は、

「……同行する方向で良さそうだな。まあ、《グリーク》とやらに行けば、冒険者登録にダンジョン報奨金の受け取りに、職業の転職に色々とやる事もあるからな。ジョーディさんがこの村を発つのは明後日との事だから、それまでは自由行動にしようか」

 状況的に今まで集団行動を取らざるを得なかった彼らが、こちらの世界に訪れてからようやく初めての完全な自由行動だ。
 今までため込んでいた鬱憤が少しでも晴れればいい。そう信也は願いながら、自身も少し肩の荷が下りた気がしていた。

 信也の発言に異論が出る事はなく、その後は各々情報交換をしたり、雑談をしながら過ごし、夜半に差し掛かる前には解散。買ったばかりの筵を敷き各々就寝するのだった。


▽△▽△▽△▽△▽


 次の日の朝、夜更かししても何もすることがないので、自然と早寝早起きの習慣が身に付きそうな生活。
 既に幾人かは起き始めていたが、硬い寝床に慣れていないのか、睡眠が浅い者も多かった。そうした者達は未だにうーん、うーんと唸りながら横になっている。

 信也は起床組の一人で、今はひんやりとした井戸水で顔を洗いさっぱりとしていた所だ。
 この井戸は村人共用のもので、すでに各家からは大人から子供まで、水汲みに励んでいる様子が随所に見られた。

 しかし井戸は鶴瓶式で地下深くから水をくみ上げるため、小さな子供にとってはかなりの重労働だ。
 信也は感心しながら農村の朝の日常を眺めていた。

「あんたがー、村を訪れたという旅人たちの一人かね」

 と、そこへ、一人の年老いた村人が信也へと話しかけてきた。
 年老いた、とはいっても日本ではまだ現役で働いているような年齢だろう。
 今まで見てきた中では、村長が一番年上に見えたが他には村長ほどの年よりというのをほとんど見かけていない。
 恐らくは平均寿命も大分短いのだろう、と信也は考えている。
 
「はい、そうです。先日からこの村で厄介になってます信也という者です」

 と軽く頭を下げる。
 この辺りの挨拶については既にジョーディに確認済みで、挨拶の際に頭を軽く下げるというのも問題はない。

「おお、おお。これはどうもご丁寧に。ワシはドルソンじゃ。数年前までは狩人として暮らしておったが、今は隠居して後進を指導しておる」

 ドルソンは老人とはいえ、なかなかに鍛えられた肉体をしている。
 村長といいドルソンといい、この村の老人は妙にがっちりしているな、と思いながらも話に耳を傾ける信也。

「詳しい経緯までは聞いとらんが、なんでも『サルカディアの泉』の傍にダンジョンを発見したらしいな?」

 村長によってその情報は伝えられており、耳の早い村人の間ではすでに広まっていた。ドルソンもそうしたうわさ好きの一人なのだろう。

「ええ、そうですね。発見した経緯は偶然といった感じなんですが……」

「偶然でもなんでもええ。これで、この村が少しは栄えてくれるんならなあ……」

 遠い目でしみじみと語るドルソン。
 ジョーディから聞いていた話から予想してみると、恐らくは少しどころか大いに賑やかになりそうだった。

「数年前に連中が出てった時は寂しさを覚えたもんだが、これからが楽しみになってきたわい」

「連中、ですか?」

 少し気になるワードが出てきたので思わず問い返す信也。

「ああ、そうじゃ……。数年前に《鉱山都市グリーク》で新しい鉱脈が見つかっての。近隣の村々から何十人もの人々が移住していったのじゃ。無論、この《ジャガー村》からも十人以上が出ていった……。ほれ、ちょうど今お前さん方が過ごしてる二軒の家はそいつらが使ってたもんじゃな」

 ドルソンの言葉に納得した表情を浮かべる信也。

「ワシが現役を引退したのも、餞別用に獲物を取りに行った際に、張り切りすぎて失敗してしまっての。衰えは認めくはなかったが、膝を痛めてしまって泣く泣く引退したのじゃ」

 当時を思い出したのか、くやしそうな表情を見せるドルソン。数年を経ても未だにその気持ちは消えていないようだ。 

 その後もドルソンを初めとして幾人かの村人に捕まってしまい、龍之介が朝食に呼びに来るまでの間、村人たちとの井戸端会議が続けられた。

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