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第二章
第37話 旅立ち
しおりを挟む丸一日の自由行動を挟んで翌日。
今日も朝早くから起きだし、旅の準備を整えたり朝食を取ったりと、早朝の時間帯を各々過ごしていく。
彼らの表情はそれぞれ違うが、新天地へと向かうにあたって期待に満ちた眼差しの方が多い。
ジョーディは準備に時間がかかるのか、或いは昨日の悪夢が蘇ったのか、朝日が昇ってから二時間程経過した時間を待ち合わせに指定してきた。
異邦人達はまずは身内同士で先に集まって、軽く話をしてから待ち合わせ場所に向かうことになった。
「《鉱山都市グリーク》かあ。どんな所だろうな!」
全くわくわくを隠せない様子の龍之介。
他にも子供組は皆同じように期待の顔を覗かせている。
当初は異世界という事で、見るもの聞くもの全てが新鮮であったのだが、この田舎の農村はその新鮮さを急速に彼らから奪い去った。
そこに来ての新天地、それも村ではなくもっと規模の大きい『都市』となればテンションが上がるのも当然といえよう。
「聞いた所によると、都市とはいうが俺達のイメージする都市とは規模が違うようだな。確か人口が三万から四万人位だと聞いたが……」
信也は昨日のメアリー達との話で得た情報を持ち出す。
重要な案件は会議の時に情報を共有するが、細かい所まではいちいちそのような事はしない。
先ほどの情報も初耳らしい北条が「ほぉ……」などと相槌を打っていた。
ちなみにこの都市人口は現代日本人からするとさほど多くないように見えるかもしれないが、このティルリンティの世界においてはそれなりの規模だ。
特に辺境地域の田舎国家である『ロディニア王国』の中では五本の指に入るほどの規模だろう。
「まあ、細かい話は道中にたっぷりジョーディさんから聞けるだろうから、今は俺達の間だけでの話をしておこうか。といっても、そんなに話す事もないんだが……」
そう口にする信也の表情はいまいち優れていないようで、新天地に期待してる者達とはまるで正反対だった。
その表情の原因は次の信也の発言によってみんなにも伝わった。
「まずは、都市についたら〈魔法の小袋〉の使用に気を付ける事。どうもこの〈魔法の小袋〉は結構な値段がつくようなのでな。それと《鉱山都市グリーク》までは五日の行程のようだが、魔物は余り街道付近には現れないそうだ。ただ……山賊が出る可能性はあるだろう。俺が言うのもなんだが、そこの所は皆覚悟を決めておいてくれ」
「……まー、実際に出会ったらどうなるかはわかんねーけど、俺はむざむざ殺されてやるつもりはねーぜ」
何時もの妙に自信に満ちたものではなく、自らに言い聞かせるように真面目な眼をして龍之介が決意を語る。
「わ、私も、そんな連中に、こ、殺されるつもりはありません……」
珍しくこういった場で意見を述べる楓。
彼女は元来の影の薄さを更に天恵の"影術"でかさ増しすることで、相手に気付かれずに行動することができる。
これは対魔物だけでなく、対人間相手でも有効だろう。寧ろ、この手の能力は人間相手の方がより脅威とも言える。
「気休めになるかわからんがぁ、山賊ってのぁー基本的にそこまで危険なもんでもない。力があるなら冒険者として十分にやっていけるはずだし、素行の悪い奴なら裏社会の組織に流れる。山賊なんてやってるのは中途半端な実力のはぐれもんらしいぞぉ」
それでももし危険な勢力が拡大しようものなら、流石にその地の領主が対策を施すだろう。領主とズブズブの関係になってる山賊組織なんてのもあるかもしれないが、少なくともジョーディの話ではこの地を治める領主は善政を敷いているらしい。
ただここで重要なのは、その中途半端な実力の相手に信也達が勝てるのかという所なのだが、気付いていないのかそれとも意図的になのか、北条はその事には触れなかった。
「まあ、なんだかんだ言っても私達の今の状態としては、《鉱山都市グリーク》に行くしかないのよね」
「そうだな……っという事で、そろそろジョーディとの待ち合わせの場所に向かおうか」
陽子の言葉に相槌を打ちつつ、出発を告げる信也。
こうして一同は待ち合わせ場所である村の広場へと向かうのだった。
▽△▽△
「皆さん、準備はよろしいですね?」
ジョーディの確認の言葉に対し、肯定の返事が返ってくるのを見届けたジョーディは村の門をくぐる。
《鉱山都市グリーク》へと続く街道は、村の北西の方角に位置しており、彼らは颯爽とその街道へと躍り出た。
先日は忙しそうに準備を整えていたジョーディだったが、異邦人達十二人も既に準備は整えてある。
食料は以前買ったものがまだまだあったのだが、更に追加で買い足して各自に分配された。
更にジョーディに教えてもらった旅の必需品なども追加で用意してあり、旅の準備は万端だ。
これから五日の行程で《鉱山都市グリーク》へと向かう訳だが、ジョーディを含めてみんな徒歩での移動となる。
村にも一応馬車はあるようなのだが、めったに使う事はないようだ。
目的地までの道のりは、村人でも無理がない起伏の少ない平野部が多い。というか、歩きやすい場所に道が自然と出来上がっていったのだから、それも当然だ。
ただ、その安全な道のために曲がりくねった道となっており、もし真っすぐ直進して進むことが出来れば一日から二日は短縮できそうだ。
そんな話を交えながら二時間ほど歩いた所で、空を見上げていた由里香が大きな声を上げた。
「わ、あの鳥なんだろ!」
その目線の先には大きな黒い鳥が大空を悠々と飛行していた。
目算では精細な距離は分からないが、かなり遠くを飛んでいるはずなのに、あの大きさという事は実際は相当大きなサイズだろう。
周囲には同種の鳥は飛んでおらず、独り悠々と空を飛ぶその姿は地上で見上げている者達に、空への憧憬をもたらす。
「おー、これは珍しいですね。あれはリードレイヴンというCランクの魔物で、この辺りでは普段余り見かけないんですが……」
Cランクの魔物と聞いてジョーディ以外のみんなの動きが一瞬止まる。
彼らが洞窟内でゴブリンが大量に出てくる罠部屋に閉じ込められた際に、一匹だけ出現したゴブリン達のボスのような体格が一回り大きかった個体。
後にジョーディに確認してみたら、あの時推測した通りに恐らくはホブゴブリンだろうという話だった。
そのホブゴブリンのランクはF。あの時はホブゴブ単体に苦戦したというよりは、雑魚を含めた数で苦戦していた。
だがそれでも魔法数発に耐えていたり、ノーマルゴブリンより知能が高く、周囲のゴブリンを指揮していたりと、中々に厄介な相手だった。
そんなホブゴブリンの三ランク上の魔物、それも空を飛び回る相手が襲ってきたら、恐らくは対処のしようがない。
みんなの様子を見て事情を察したジョーディは、更に説明を続ける。
「ああ、確かにCランクの魔物ともなると危険ですけど、リードレイヴンは基本的に人を襲ってくることはないので、安心していいですよ。まあ、絶対とは言い切れませんが、それでもダンジョンで出会った場合に比べたら遥かにマシです」
確かにダンジョンに出てくる魔物は、仲間が大勢やられようが気にせずに侵入者を襲い続ける。
それは恐らくあの巨大な鳥も例外ではないのだろう。
「……まあ、滅多にはないだろうが、ドラゴンだって空を飛んでいたりする事もあるんだぁ。いちいちビビってたらキリがねぇってことだなぁ」
両手を首の後ろに回した北条が気を紛らわすためなのか、それとも素なのか区別が付かない口調で呟く。
咲良の傍を歩いていた龍之介などは、北条の言葉を聞いて慌てたように「オ、オレはビビってなんかねーけどな!」などと息巻いていた。
「ホージョーさんの仰る通りですね。魔物というと恐ろしいイメージが先行してしまいますが、ダンジョン外にいる魔物は必ずしも人間を襲ってくるものだけではありませんし、時には魔物同志ですら争う事もあります。ま、気にしないことですね」
軽い調子で口にするジョーディに緊張も解けたのか、先ほどの危機感を振り払うかのように「あの鳥に乗って空を飛んでみたい」だのと声が上がり始める。
ジョーディもそんな雰囲気に相乗りするように、豆知識を披露する。
「なんでもあのリードレイヴンは、地域によっては自分の行先を指し示してくれる導きの鳥として崇めている所もあるそうですよ」
「ほおぅ、ちきゅ……『ヤマト』でも似たような話は聞いたことあるな」
思わず『地球』といいかけた信也は、慌てて言葉の軌道修正をかけ、更に記憶の奥から自分達の設定を呼び覚ました。
別に信也に演技力があるという訳ではないが、信也は基本的にポーカーフェイスで普段冷静なので、ジョーディも特に不審には思わなかったようだ。
「へぇ、そうなんですかー。まあ、あの雄大なる姿を見ているとそういった気持ちを抱くのは分かりますけどねー」
そんな彼らの視線を知ってか知らずか、リードレイヴンは結構な速度で飛行していたようで、時期にのその姿も見えなくなっていく。
と同時に、彼らも再び旅を再開して今日の野営ポイントを目指すのだった。
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