どこかで見たような異世界物語

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第二章

第40話 『鉱山都市グリーク』到着

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 《リコ村》を発ってから早一日。
 多少は慣れてきた野営の設営を終えた一行は、焚き火に当たりながら止め処ない会話を続けていた。

 この野営地から少し離れた場所には、森と呼ぶ程でもない小さな林が生い茂っており、そちらから時折聞こえる動物の声にビクッと反応する事も段々と少なくなってきた。

 街道の傍には時折こうした小さな森や林などが点在しており、旅人は少し寄り道をしてそういった場所から薪を拾い集める。少しでも荷を多く運ぶためのちょっとした知恵だ。
 ついでに状況によっては軽く狩りをして食料をも確保する。

 ただ、稀にどっかしらの団体が管理している森もあるので、その辺は予め調べておいたほうが、問題を避けるためにもいいだろう。
 ついうっかり、王族御用達の狩猟用の森で、お偉い様とぱったり遭遇、なんていう目に会った日にはどうなるか分かったもんじゃない。

 ジョーディの話は、余りに価値観や常識が異なる異世界からの来訪者達にとって、興味が尽きないようだ。
 話す事が好きなジョーディも水を得た魚のようにパクパクとお喋りを続ける。

「ああいった街道沿いにある林や小さな森は、旅人にとっては助かるものなのですが、逆に災いとなる事もあるんです」

 割合としてはそこまで多くはないのですが、と前置きをしたジョーディがその"災い"について話し出す。

「……実は、ああいった場所は山賊にとっても身を隠すのにはうってつけの場所でもあるんですよ。基本的に街道を通す際には、道の両脇から外側はある程度の距離を見晴らしが良い場所に通します。人や魔物が潜んでいても分かりやすいようにするためですね」

 確かに今まで通ってきた道を思い返すとそうだった気はする、と頷きながら続きを促す信也達。

「しかし毎度そう都合よく道を通せる訳もないので、どこかしら襲われやすいポイントってのはでてくるんですよね。林や小さな森の傍というのも、そうしたポイントのひとつって訳です」

 とはいえ、今いる場所は街から一日の距離の場所であり、通常そんな街の傍で活動を続ける山賊は滅多にいない。
 離れた場所ならまだしも、それ位の距離なら領主としても兵を出して定期的に山狩り位はするだろう。

「という訳で、《鉱山都市グリーク》までは後少しですが、気を抜かないようにいきましょう」

 はーい、と元気で頷く由里香をなごやかな瞳で見つめるジョーディ。
 ここまで野盗に襲われる事もなく、魔物も二、三度だけちょっとした魔物が出た程度で、問題なくここまで来れている。
 このまま街まで無事にたどり着けますように、と願いながら一行は床に就いた。


▽△▽△▽△


 明けて翌朝。

 朝食と旅立ちの準備を整え、一路《鉱山都市グリーク》へと向かい始める。
 予定では昼過ぎ位にはたどり着けるそうだ。
 時折帰郷しているとはいえ、生まれ故郷であるこの街への帰還は、ジョーディの心を上向きにさせていた。

 《リコ村》方面へと向かう人が少ないので、すれ違う人はまばらだが、それでも《ジャガー村》周辺の街道より人通りは多い。
 龍之介はそんな時折すれ違う人達を、毎回毎回つぶさにチェックしていた。

「しっかし人族ばっかりだなー。エルフとか獣人とかはいないのか?」

 これまですれ違った人もそうだし、《ジャガー村》や《リコ村》でもそうだったのだが、見かけるのは人族ばかりであった。
 ジョーディの話によれば、他の種族も暮らしているとの事だが、獣人なら獣人の国に、エルフならエルフの国なり森なりに所属してる事が多く、人族が治める『ロディニア王国』はやはり人族が一番多いらしい。

 だが、都市クラスともなれば流石に他の種族も暮らしているようで、特に冒険者などはあっちこっちフラフラする人が多く、割合的に亜人種も多いようだ。

 ジョーディは他種族に妙にこだわりを見せる龍之介を怪訝な眼で見ていたが、すかさず北条が「俺らの村じゃぁ、他種族なんてめったにみなかったからなぁ」とフォローを入れると納得したようだった。

「確かにこの国でも田舎の村ではそういう所はあるかもしれませんね」

 と話していると、前方に《リコ村》方面へと向かう行商人の姿が見えた。
 商人自体は三人組で幌の付いていない荷馬車を二台曳いており、その二台に分乗して馬を操縦している。

 その荷馬車の前を護衛らしき男が歩いており、その背には槍が収められている。
 荷馬車といっても、速度は人の歩く速度とそう変わらないので、体が資本の冒険者なら徒歩でも問題はない。
 問題なのは、その冒険者の種族が恐らくは犬系の獣人族だった事だろう。

「おおおぉ!」

 その姿を確認した龍之介は思わず興奮の声を上げた。
 相手が成人男性だったからよかったものの、これで女性の獣人だったらもっと大きな反応を見せていたかもしれない。
 幸い距離はまだ離れているし、龍之介達は喋りながら歩いていたため、まさか自分の種族の事が話題になっているとは相手も思っていないだろう。

「ちょっと! 余計な手出しはしないでよね」

 すかさず咲良が注意の言葉をかけると「わーってる、わーってるって」と手を振り返す龍之介。
 ただ今回に関しては他の面子も興味深々のようで、

「わ~、あれが獣人さんなんですね~」

「あの耳ってどうなってるのかしら? 犬の耳とは別に人と同じ耳もついてるようだけど……」

 などと、にわかに騒がしくなってきた。
 相手との距離も縮まってきていたので、信也が気を付けるように忠告すると、一旦は静かになったものの、すれ違って少ししてから再び話題は元に戻った。
 そこで、どこか気まずそうにしている恒例のジョーディ先生の異世界講座がはじまった。

「んんと、獣人の方はその元になった種族の特性を持っている事が多くて……その、犬系の獣人の場合は聴覚も人間よりは優れているので、先ほどの会話は聞こえていた可能性もありますね」

 早速の指摘に思わず信也は顔を手で覆う。
 まあ悪口などは言っていなかったので、致命的な失敗でもないが、場合によってはもめ事になっていた可能性もあっただろう。
 件の獣人は、すれ違う際に余りこちらを警戒している様子を見せなかったのも、会話が聞こえていたからの可能性があった。

「それでもちろん嗅覚なども優れていて、社会性なども似通ってくる所がありますね。それと、獣人の方は人によってはより強く種の特徴を宿す方がいて、同族からは敬われています。そういった方達は……例えば、先ほどの犬人族の方ですと、顔や体にも体毛が生えてより犬へと近い容姿になります」

「色々と生物学的に気になる所ではあるが、魔法のあるような世界では今更か……」

 ジョーディには聞こえない位小さな声で信也がつぶやいているが、こういった部分で生まれ育った世界との差は多く見られた。
 なお人族は獣人やエルフ、ドワーフなどとも子供を作る事が出来るらしい。ただし、同種族間に比べるとかなり子供を作るのは難しいようだ。
 ちなみに、人族以外の他種族同士では子供は出来ないらしい。

 その後もジョーディの獣人講座は続き、例えば犬人族であろうと動物の犬呼ばわりすると相手の誇りを傷つける事になる、だとか、発情期もあるのだが意思が強ければ抑えられる。ただし、抑えられそうにない場合は薬で効果を抑えたり、異性への接触を控える、だとか色々な知識を披露していた。

 そうこうしている内に、大分距離を稼いでいたらしい。
 彼らの目には遠くに見える街の外観が映り始めていた。

「おぉ……」

 異邦人達の口からは思わず感嘆の声が漏れる。
 今いる場所は丁度丘のようになっているのか、街の全景が……見渡せない。
 丘といっても若干標高が高いといった程度なので、ある程度奥までは見えるのだが、街の反対側までは見通すことは出来なかった。

 そんな広大な土地をぐるりと囲む石でできた外壁は、見る者を圧倒させる。
 この世界では、外敵は人間だけでなく魔物も含まれるため、都市などにはこうした防衛施設は必要不可欠のようだ。
 ここからではまだ見えないが、街を守る兵士達が今もあの外壁の上で警邏をしているのだろう。

 視線を外壁より更に奥へと移すと、街の中央辺りにも同じような街壁が張り巡らされているのが視認できる。
 ただしその壁の高さは外壁よりは低く、防衛施設というよりは区分けするためといった感じだ。

 貴族街と思しきその街壁の内側、その中央やや奥よりの部分は周辺より小高い丘になっているようだ。
 そこにはまさしく中世の城といった風情の建築物が威風堂々と聳え立っている。
 その広さはここから見るだけでも相当なものと思われ、敷地面積だけでも《ジャガー村》がいくつも収まりそうだ。

「いつかあんな城に住んでみてーなー」

「えー、あんな所じゃ絶対落ち着かないわよ」

 なんだか最近よく話しているのを見かける龍之介と咲良の二人。
 ただ実際の所は話してるというよりも、他に龍之介を止めるストッパー役がいないというだけかもしれない。

 そうこう話している内にも街への入り口は近づいてきており、三十分も歩いた頃には一行は大きな門の前にたどり着いたのだった。


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