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第三章
第50話 意外に高機能?
しおりを挟む「なるほど、結構細かく出来てるんだな」
「タッチパネル方式なんて、なかなかやるわね」
「てっきり申込用紙に記入するのかと思ってたけど、この魔法装置があれば必要ないのね……。名前が鑑定で調べられるっていうのは、どういう仕組みなのかしら?」
各々が説明を受けた際に率直な感想を漏らす。
龍之介の説明は上手いという訳ではなかったが、説明内容自体が複雑なものではなかった。
他のみんなもギルド証そのものに疑問を抱いている者はいたが、すんなり使用方法は理解できたようだ。
しかしそんな様子を見ていたジョーディは少し驚いた様子で、
「みなさん、全く説明もしていないのによく理解できましたねえ」
と、素直に感心していた。
「ま、まあな。これくらいラクショーよ。それよりいつの間にか新しくスキルを二つも覚えていたから、びっくりしたぜ!」
龍之介は最初に得たもう片方の天恵スキルに関しては非表示にしていたが、新規に取得した"パリィ"と"器用強化"に関しては表示状態にしていた。
「あれ? スキルを取得したのにご自分でそれを認識してなかったんですか?」
そこへ男性職員が疑問の声を呈する。
なんでも職業、スキル、加護については、鑑定などをせずとも自身の内を見つめなおしてみれば、その効果についてはなんとなく感覚的に分かるし、しかも名称に関してはなぜか正確に認識できるのだという。
指摘を受けた龍之介は、早速眼を閉じ集中をし始める。
するとそう間をあけずすぐに「お、おお?」という声が聞こえはじめ、どうやら新しく取得していたスキルについて、感覚的に理解できたらしい。
「まあ、皆さんは本日の午前中に転職したばかりですので、恐らくスキルはそれをきっかけに発現したのでしょう。転職したからといってすぐにスキルが得られるとは限りませんので、私も説明をしてませんでした。だから気付くのが遅れてしまったようですね」
「もう……ジョーディさんは肝心な所だけ話すのが抜けてるわね」
サラリとそう言いのけるジョーディをジト目で見ながら、陽子が軽く毒を吐く。
確かにジョーディは一度火が入ると周りが目に入らず、その話題を次々と話し出す傾向がある。
そういった情報はそれはそれで異邦人にとっては新鮮なものだったので、無理に止める事もせずにいた。
蝙蝠系の魔物の美味しい部位だとか、ジャイアントスパイダーの可食部位の話だとか、そういう知識は得たのだが、そのせいかチョコチョコ基本的な所が抜けているのだ。
「はははっ。いやあすいません、余り話し相手もいなかったものですから……。それよりも登録をさっさと行ってしまいましょう。スキル確認はその後にもできますから」
そういって、龍之介と同じく、自身のスキルを確認しようと目を閉じて集中し始めた由里香と芽衣を呼び覚ます。
それから順番にギルド証を作成していき、最後に石田のギルド証の作成を終えると、改めてジョーディの方からギルド証に関する説明が始まった。
「みなさんが既に確認したように、ギルドで更新された情報がそのギルド証には刻まれます。今回は登録料の内に含まれていたので無料でしたが、今後ギルド証を更新する際は十銅貨が必要になります。といっても、そう頻繁に利用する訳でもなく、ある程度実力がついたなというタイミングで、レベル確認も兼ねて更新する方が多いですけどね」
更新料が高いとか、いちいち更新の手続きをするのが面倒だ――という訳ではなく、更に詳しく聞いてみた所、単純にすぐにレベルが上がったり、スキルを覚えたりしないからのようだ。
ただし、レベルの低いうちはレベルアップに必要な経験値が少ないらしく、龍之介のようにレベルが一桁の内は比較的上がりやすいようだ。
「そして、身分証としての機能の外に、ギルド証には金庫としての機能もあります。ギルドにお金を預けた場合、どのギルドの支部でもお金を引き出す事が出来るようになります。ただし、一度に多額の引き出しをしたり、不審な点が見受けられたら引き出しができない場合もあります。それと当然の事ながら、引き出す事が出来るのは本人のみです。あとは十五年間入出金がなく、所有者本人の所在も不明になった場合、預けられたお金はギルドに徴収されます」
ネットワークが発達した地球ならともかく、こちらの世界でこのような銀行システムが成立しているのも、ひとえに魔法の力によるものだ。
ギルド証の裏面には、預けた金額の情報も記されており、今までも散々不正利用者とそれを取り締まる側のいたちごっこは続けられている。
その結果、不正操作に素人が手を出せる領域ではなくなっており、それなりに信用度は高い。
田舎の冒険者ギルドではそもそも準備金も少なく、多額を引き出せなかったりもするが、《ヌーナ大陸》全域に展開する冒険者ギルドで入出金ができるというのは、かなり便利である。
「最後に、ギルド証を紛失した場合ですが、一応再発行は可能です。ですが、時間がかかりますし、金銭の方もG~Dランクのギルド証の場合は十銀貨必要になります。更に上のランクになりますと、再発行の費用も上がっていきます。ですので、紛失にはご注意ください」
なんでも、服の内側に専用のポケットを作ってそこに収めてる冒険者や、籠手の内側に同じく収納スペースを作ってもらったりと、冒険者達も色々工夫しているようだ。
まあ彼ら異邦人達に限っては腰元にある〈魔法の小袋〉に収納……或いは陽子などは自前のスキル"アイテムボックス"を持っているので、そちらに収納すれば問題は起こりにくくはなるだろう。
「話は以上ですかね。グロウウェルさん、何か漏れはありました?」
「いや、ギルド証に関する事では特にはないかな。他の事はもう説明したんだろ?」
「ええと、はい……多分? 大丈夫だと思います」
今まで何度か大事な事を伝え忘れた、と異邦人達に言われてきたので少し不安な様子のジョーディに、グロウウェルと呼ばれた先輩職員は心配顔だ。
「おいおい、大丈夫か? まあ、何か分からない事があったら聞いてくれればこいつもちゃんと答えてくれるはずだ。では、俺はそろそろ受付に戻らせてもらうよ」
そう言うと後ろ手に右手を振りつつ受付のある部屋まで戻っていった。
「……で、これからどうする? とりあえず大きな予定は片付いたとは思うが」
「えーと、私は先ほどマスターに呼ばれていたので、これから向かうつもりです。皆さんは……そうですね。ギルドの資料室を利用されてはどうですか? 皆さんはすでに冒険者登録がなされたので、五銅貨を払えば利用できますよ。私も用事が終わったらそちらに向かいますので」
「あ、その前にお昼も大分過ぎたんでご飯食べにいきたいっす」
「そういえば、少しお腹がすいたわね」
――結局、女性陣の鶴の一声で、まずは昼食を取ってからギルド資料室を利用することに決定した。
▽△▽
「昼食なら、このギルドをでて左に七軒ほど建物を過ぎると、左に曲がる小路があるので、そこを曲がってください。そこから建物八軒程通り過ぎると、鳥が描かれている看板の宿があるので、そこの定食はお勧めですよ」
別れ際のジョーディのお勧めに従って道のりを進むと、目印の看板の店がみつかった。
そこには『大鳥の羽ばたき亭』という文字も書かれている。
店内は比較的混んではいるが、定食屋としてのスペースをかなり広く確保されているようで、十二人という人数もあぶれる事なく食事を取る事が出来た。
肝心の料理のほうだが、確かにお勧めされるだけあってこの世界基準では十分満足できるものではあった。
それは味的なものではなく、量的な意味でのものだ。
味に関しては人それぞれ好みが違うし、流石にあの現代日本の基準と比べたら劣って見えるのは仕方ないだろう。
成長期であり前衛職でもある由里香や龍之介などは、まだまだ食べられると息巻いていたが、他の大体のメンバーにとって量的には十分満足だった。
食事を終え、店を出た彼らは再びギルドへと向かい、受付の人に資料室の利用を申し出る。
同時に利用料金をカウンターへまとめて置くと、受付の人は少しだけ驚いた反応を見せたものの、資料室まで案内を申しでた。
信也を先頭にその後に続いた彼らは「こちらです、どうぞ」という案内人の言葉を受け、その部屋へと入っていった。
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この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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