どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
59 / 398
第三章

第51話 シディエルの魔法講座 その1

しおりを挟む

「失礼します」

 律義にそう言葉を発しながら扉をくぐる信也。
 その部屋は一般的な日本の学校にある図書室の半分位の広さをしており、棚にはこの世界で初めてみるほどたくさんの本が並べられている。
 とはいっても、半分程は机と椅子で占められており、棚もぎっちり埋まっている訳ではなく、この程度の蔵書数なら日本なら一般人でも同程度所有している者もいるだろう。

 入口付近にはカウンターが設置されており、そこには司書らしき職員の男性が何やら書き物をしていた。
 余りに熱中していたのか、信也達が入ってきた事にすぐには気づかなかった様子だが、次々と十三人もの団体が入ってきたことで、流石に事態の変化に気付いたようだった。

「む、何じゃお前さん達は。頼んでいた写本作成の助手か?」

 その職員の男性はしわがれた声でそう尋ねてきた。
 他の職員とは違い、黒いローブを身にまとい室内なのになぜかフードまで被っている。
 そして、その声からも分かるように大分年を召しているようで、フードの隙間から覗く顔には多くの皺が刻まれていた。

 不揃いで時折抜け落ちた歯を見せながら、しかめっ面をしているその男性はなかなかの凶悪顔をしており、思わず咲良が「ひぇっ」と声を上げるほどだった。

「あー、シディエルさん。この方たちは助手ではなく資料室をご利用の冒険者の方達ですよ。ですので、今は写本作成より司書としての仕事をお願いしますね」

 そう言うなり案内してくれた職員は道を引き返していく。
 シディエルは去っていく職員から早々に目を移し、信也達の姿を一瞥すると、

「ふむ。今どき資料室を利用するとは、感心な事じゃな。どれ、調べたい事があるなら儂も手伝ってやるぞ」

「え、あ、それじゃあ魔法やスキルに付いて調べたいのですが、その辺について記された資料はどこら辺でしょうか?」

 その強面とは裏腹に、孫を可愛がるジーサンのように協力的な様子のシディエルに向けて、信也がここへ来た当初の目的を告げる。

「魔法とスキルか……。どういった事情かは知らぬが、詳しく話してもらえれば儂が力になるぞ?」

「えーと、その俺達は魔法スキルを得たのはいいものの、どんな魔法があるのかとか、魔法とはどういったものなのかをよく知らないんです。スキルについても同様で、どんなスキルがあるのかも分からない有様で……」

「ほーほー、なるほどのお。よし、わかった。では元Dランクの魔術師である儂自ら魔法について教えてやるぞ。スキルに関してもある程度は知っておるが、そちらの方にある……あの本がやたら詰まっておるのが魔法関連の本棚で、その隣の棚にスキル関連の本がまとめられておる。スキルに関してはそちらを見てみるといいじゃろう」

 そういってシディエルは本棚を指差した。
 そこにはギッシリと本が詰め込まれており、他の棚に比べてもその部分だけが妙に資料が充実しているようだった。
 早速龍之介と由里香、それから長井がそちらへと向かう。

「それで、魔法についての話じゃったな。あー、魔法というのはじゃな……」

 と言いかけた所で、何故かシディエルの言葉は止まる。
 その視線はその場に残っている九人へと注がれていた。

「む、スキルより魔法についての話が気になるのか? というか、お主らの中で魔法スキルを使えるのは誰なんじゃ?」

「僕は"水魔法"です」

「私は"回復魔法"です」

「俺は"光魔法"だ」

 と順番に告げていく内に、シディエルが困惑したように遮った。

「ちょ、ちょっと待たんか。ここに残っている九人、全員が魔法スキルを持っているという事か?」

 慌てた様子のシディエルにそうだと返事を返す信也達。
 しかし一人だけ返事をせずに、逆に質問を返す者もいた。

「あ、あの……"影術"と"忍術"って魔法に含まれるんですか?」

 その楓の質問に、驚きの連続で口が開けっ放しになっているシディエルは、軽く指で目頭を押さえる仕草をすると、一息ついたあとにその質問に対して答え始める。

「……そうじゃな。"影術"という名称であるが、影魔法という魔法スキルは確認されていないので、"影術"も魔法というくくりになっておる。"忍術"もまた同様じゃ。魔法と術で異なるのは、魔法は魔法名を発音する必要があるが、術はその必要がないという事じゃな。……しかし、所有者が少ない"影術"だけでなく、この大陸では所有者が極端に少ない"忍術"まで所有しておるとは驚きじゃ……」

 驚きの余り口を開けすぎて、顎がはずれないか心配になるレベルのシディエル。
 しかし、異邦人達のターンはまだまだ続く。
 石田はこの場では自らの魔法スキルを明かさなかったが、陽子の"結界魔法"と転職によって新しく取得した"付与魔法"。

 芽衣の"雷魔法"と"召喚魔法"、咲良の"神聖魔法"と転職で覚えた"火魔法"と"水魔法"。
 北条も"光魔法"と"風魔法"を覚えたようで、全員の申告が終わった時点でシディエルは驚きの余り息が止まりかけていた程だった。


「お、お主ら一体何者なんじゃ……」


 思わずそんな言葉が出てくるほど魔法スキルの多さ、そして希少さに驚いたようだ。
 しかし驚いてばかりではいられない。
 信也達が魔法スキルを明かしたのも、そもそも明かさないと魔法について教わりようがないからだ。
 一度目を閉じ独特な呼吸法で息を整えたシディエルは、大分落ち着きを取り戻した様子で魔法の授業を再開した。

「んむ、ではまずは基本的な事から伝えていこうかの。魔法というのは、そもそも魔法スキルというスキルの一種じゃ。通常のスキル同様、それを取得した者はそのスキルの名称と、漠然とした使い方が脳裏に浮かぶはず。他のスキルならばそれだけでも良いのじゃが、魔法スキルに関しては、使いこなすためにその魔法スキルの事をより詳しく理解しなければならないのじゃ」

 例えば"火魔法"であるならば、炎を生み出す【イグニッション】などは感覚的に使用出来る者は多い。
 しかし【フレイムウィップ】という炎で出来た鞭で敵を攻撃する魔法などは、そういった発想そのものを思いつかなければ使用する事もできない。

 それに、基本的な魔法ではなく【フレイムウィップ】のような少し高度な魔法の場合は、ちょっとやそっと練習した位で使いこなせるものでもない。
 その結果、こういう魔法は"火魔法"ではできないんだと思い込んでしまい、その人の魔法の可能性を狭めてしまう。

「そういった事態に陥らぬためにも魔術士は幾つか策を講じてきた。魔術士ギルドを結成したのもそのためじゃな。魔法の私塾を営む者や、もっと大規模に魔法学園などを運営してる所もある。徒弟制度もそのひとつだろう。だが悲しいかな、魔術士は己の技術を秘匿する者が多い! 弟子が大量におるのに、もったいぶって魔法を伝授しないままぽっくり逝きおるボケカスや、魔法ひとつ教えるのに一金貨よこせなどと言ってくる強欲ジジイ。それから――」

 よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、その小言はいつまでも続くかと思われたが、シディエル自身が大分歳をとっているせいか、その怒りを継続する体力がもたなかったようだ。
 少し荒くなった息を整えるように、司書机の上にあった水差しから直接口をつけて飲み始める。

「ぐぷ、うく、ぷはぁ。っと、すまんのお。少し興奮してしまったようじゃ」

「い、いえ、あのそれで魔法スキルをつかいこなす方法について詳しく聞きたいのですが……」

「ん、そうじゃったな。では簡単に説明しよう。魔法スキルを使いこなすのに必要なものは、まず基本となる"知識"。それからその知識を元にどういった魔法を発動させるかの"閃き"。そして、次にそれらの発想を形にする"魔力操作"と"イメージ力"。あとは最後に諦めない心じゃな。これは決して根性論などといったものではなく、魔法に関しては本人が出来ないと思ってしまっては、絶対に出来なくなってしまうのじゃ。もし現在は使う事ができなくても、今は腕が足りないだけ、そう思って決して諦めてはいかん」

 なんとなくわかったような、わからないような。
 まだ魔法を使えるようになってから日が浅い彼らには、いまいちピンときていない様子だ。

「まあ、確実なのは先人の知恵の結集によって体系化された『基本魔法』を覚える事じゃな。これは魔法の教科書に使用されたり、街の本屋や図書館などで探せばそこそこ見つかるじゃろう。等級によって分けられてもいるし、とりあえず使える魔法を増やしたいなら『基本魔法』じゃな」

「ええと、幾つか気になる所があるんですが『基本魔法』というのがあるのなら『応用魔法』などもあるんですか? それから等級によって分けられていると言ってましたが『等級』とはなんですか? あと、実際に本屋で『基本魔法』の本を買うとしたら幾ら位になりますか?」

 細かい契約の確認のミスが大きな損失となる事もあったので、こういった事について信也は妙にうるさい。
 性格的な几帳面さもあるのかもしれない。

 ビジネスの場ではともかく、私生活の場においてはこういった信也の性格はうざがられる事もままあったのだが、シディエルは熱心な生徒を見るような瞳で信也を見つめていた。
 正直いって怖い、そう思い反射的に顔を背けようとしてしまった信也だったが、寸での所で留まりその視線を受け止めた。

「おおう、おおう。質問大いに結構じゃ! どれ、ひとつひとつ答えていくとするかのう……」

 どうやらシディエル爺さんの魔法授業はまだまだ長引きそうであった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...