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第五章
第83話 拠点予定地決定
しおりを挟むその日の夕食後、『女寮』に全員集合してから、いつもの会議が行われていた。
といっても毎回きちっとした議題がある訳でもなく、近頃はただの雑談の場と化している事も少なくない。
しかし今回は村長宅で聞いた話を全員に伝える為、冒頭で早速その話題を打ち出した。
「へぇ、建築費用がかかるのは当然だけど、土地代とかそういうのがかからないのはいいわね」
「それなら土地を多めにもらっちゃおうぜ!」
「まあ、待て。土地といっても柵の外側なら自由ってだけだ。それも現在村の周囲の畑のある場所には建てられんし、まずは建設予定地を決めるのが先だ」
《ジャガー村》の西と東には、一般的な馬車一台が少し余裕を持って通れるくらいの門が、設置されている。
門といっても、かろうじてその機能を有しているというだけで、防御力とかそういったものは期待できない代物だ。
そもそも村の周囲を覆う木柵も、ただ丸太を縦に積み上げていっただけだ。
丸太の端っこの部分に、積み上げた丸太が崩れないように、杭を両脇に打ち付けて挟み込むようにしただけの、簡素な作りになっている。
高さも子供の背丈よりは上だが、大人なら上部から村の外を見回す事が出来る位の高さでしかない。
その村の東西にある門を出ると、畑が広がっている訳だが、その広がり方はやはり門のある東西方面の方が、移動の便の関係上広くなっている。
村の周囲部では、南北方面にも畑は作られている。が、村の中心点から距離的にどこまで農地が広がってるかを調べたとしたら、間違いなく南北より左右に伸びているだろう。
「んー、村の南か北にするか? でも結局見た目の距離が遠くなるだけで、別に東西方面でも歩く距離はかわんねー気もするしな」
色々と頭の中でシミュレートしているのか、ブツブツと龍之介がつぶやく。
「あの、村の北か南に門を作ってもらうってできないんですか?」
最近は周囲の大人に負けないようにか、こういった会議の場でも発言するように意識している慶介が、意見を述べる。
「無理という訳ではないだろうが、それをやれるなら既にやっているだろうな。防犯的に考えても門を増やすのは余りよくはないんだろう」
しかしその意見は信也によって却下されてしまう。
少し落ちこんだ様子を見せる慶介に、すかさず慰めを入れる陽子。
その後も特にこれといった意見が出てくる事はなく、会議は紛糾した。
だがこの話は別に今すぐに決める必要がある類のものではない。
とりあえず今日はこの件に関する話はここまでにして、他の事について話がないかと、会議を先に進めようと信也が思った矢先。
それまで特に意見を述べることなく沈黙していた北条が、重い口を開いた。
「家の建設予定地だがぁ、なにも村の周囲に拘る必要もないだろぅ」
唐突の発言に、それまであーだこーだ言っていた者達の視線が北条へと集まる。
「え、もしかしてあのダンジョン前の、泉の傍にでも建てるつもり?」
その視線の中でも最初に北条に質問を返したのは、慶介につきまとって話しをしていた陽子だった。
「いやぁ、ダンジョンの傍は危険があるようだから、そこはとりあえず無しだぁ。そこまでいかずに、この村から東に三キロほど進んだ先にある、森との境界線辺りだぁ」
この《ジャガー村》からダンジョンに向かうには、村の東門から少し歩いた先にある森を抜けていく必要がある。
ダンジョンから脱出した後、一番最初に村へと向かったルートとほぼ同じだ。
ここまで離れれば、建設予定地をかなり広く設定する事もできるし、すぐ近くの森では人目に付きたくない、"召喚魔法"の練習場所なども確保出来て便利だ。
村からも遠すぎず、若干ではあるがダンジョンまでの距離も縮まるし、土地を確保する際に森から木材を伐採して、建築素材とすることもできるだろう。
そしてその件についても北条は既に村長と確約をしており、伐採した木材の四割を納めないといけないが、残りは自由にしても構わない。
なお基本的に、辺境であるこのグリークの地は、そういった所が全体的に甘めに設定されている。
場所によっては、領主が領民から税を搾り取っているような所もあるのだ。
これは辺境だからというだけでなく、領主の方針による所も大きく、そのおかげか辺境であるにも関わらず、《鉱山都市グリーク》は『ロディニア王国』の中でも都市人口は多く栄えている。
「あの辺りか……。そうだな、確かに悪くないのかもしれない」
信也も北条の意見に賛成のようで、他にも特に反対の声が上がることはなかった。
「あとは家を建てるためのお金を、ダンジョンで稼がないとね」
懸念であった住環境改善の目安が出来たせいか、明るい表情の陽子。
他の面子も、どんな家を建てようかなどを楽しそうに話している。
「あー、ひとつ提案があるぅ」
そこへ北条の声が響き渡った。
突然のその改まったような北条の発言に、興味を惹かれたのか幾人かが続きを促すような視線を送る。
その視線を確認した北条が続きを話し始めた。
「こないだ取得した"土魔法"だがなぁ。これを活用してダンジョンに潜らない日、或いは空いてる時間などに徐々に基礎工事のようなものを進めていこうと思う」
"風魔法"で木材を伐採し"土魔法"で堀や壁を作っていく。
この世界では戦闘以外の事に魔法が使用されている事も多く、特に"土魔法"と"水魔法"は戦闘方面よりも、他の使い方の方で求められる事も多かったりする魔法だ。
もしかしたら攻撃系が多い"火魔法"よりも、この世界に於ける使用頻度が高いのかもしれない。
その後の北条の話によると、すでにグリークにいる時に土の基本魔法については習得済みだそうで、十分拠点づくりにも使えるだろうとの事だった。
「えー、オッサン、それで確か三種類目の魔法だよな? なんでそうポンポン魔法が使えるようになるんだ?」
「私もその辺気になるなぁ。何かコツとかあるんですか?」
恨みがましい声で妬みの声を上げる龍之介と、純粋に好奇心と自分ももっと魔法が使えるようになりたいと、咲良が質問を北条へと投げかける。
「んー、そうだなぁ。まずは俺の天恵スキルである"成長"の効果が関係してるとは思うんだがぁ、職業の方も関係してるんだろうなぁ」
「というと?」
「俺ぁ最初自分の職業の"混魔槍士"というのは"魔剣使い"とか"魔槍使い"みたいな、魔法の武器を扱う職業かと思っていたんだがぁ、こうも魔法を覚えていくとなると"魔法剣士"の槍版みたいなものかもしれん」
グリークに滞在中、ギルドの資料室で調べた限りでは"混魔槍士"という職業の情報は見つからなかったが、"魔法剣士"ならばそこそこ知名度も高く情報も載っていた。
簡単に言えば、魔法も剣も使えるのが"魔法剣士"ということだ。
「とはいえ、ただの"魔法槍士"ではなく"混魔槍士"というよく分からない言葉が頭についてる辺り、普通の"魔法槍士"とは別モンってことだろぅ。ぶっちゃけ俺もその辺よくわからん」
この世界には数多くの『職業』が存在しており、中にはレアな職業も存在する。
といっても、効果が凄いとかそういったものだけではなく、特殊すぎて成り手が少ないといったものも多い。
例えば"奴隷剣士"などという職業は、奴隷身分のものでないとなれない。
それが"奴隷魔法剣士"となれば、態々魔法を使えるような者が奴隷身分に落ちる事も少ないので、必然的に"奴隷魔法剣士"の職業を持つ者も少なくなる。
"奴隷神官戦士"なども似たような理由で数は少ないだろう。
なお"魔法剣士"と"奴隷魔法剣士"では、職業的には大きな違いがある訳でもなく、単純にその者の身分の違いでしかない。
職業の中には勿論レアで強力な職業というものも存在しているが、レアなだけあって適正の幅が狭いのか、或いは特殊な条件が必要なのか。
レア職業に就いている人の数は、驚くほど少ない。
とはいえ、北条を含む異邦人達には、そうしたレアな職業の割合は多い。
当人たちはいまいち実感が薄いようだが、咲良の"四大魔術士"も実は条件として火・土・風・水の各魔法適正がある程度以上必要な職業だ。
咲良の場合、"エレメンタルマスター"のスキルだけで、一発合格になってしまったが、基本属性と呼ばれている魔法とはいえ、四種全てを使える者はそうそう存在していないのだ。
「魔法のコツについては……丁度今川が使えそうでまだ覚えていない、"風魔法"と"土魔法"を俺が覚えたから、空いた時間にでも教えるとするかぁ」
「やった! 約束ね」
よほど嬉しかったのか、笑顔でガッツポーズを取る咲良。
そんな咲良の様子を、龍之介はつまらなそうに見ていた。
それからは特に議題もなかったので、いつものフリートークの時間となっていく。
長井や石田などはとっとと解散して散っていったのだが、主に若い衆は次から次へと、よく話題が尽きないものだなと呆れるほど、話がやむことがない。
そんな若い衆の一人である咲良に、魔法の使い方をせがまれている北条は、早速先ほどの自分の言葉を軽く後悔しながらも、自分が魔法を使う時の感覚などを説明している。
素直に耳を傾ける咲良のそばでは、自分も魔法を使えるようになりたいのか、龍之介がこっそり聞き耳を立てていたりもした。
こうして、騒がしい夜は過ぎていくのだった。
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