99 / 398
第五章
第86話 『プラネットアース』 ダンジョン初探索
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ぽわあっとした緑色の光が、一瞬煌めいた後に消えていく。
その光は幻想的ではあるのだが、なんとなく公共施設の非常口の位置を示す、EXITの看板の光のようにも見える。
光の消えた後は、元の蒼一色の光が煌めく空間へと元通りだ。
「これで、登録は完了したって訳だな」
そう言いながら台座に嵌めこんである、正六面体の石のようなものを取り外す。
それから無くさないように丁寧に扱いながら、自分の腰元にぶら下げている〈魔法の小袋〉へと、その小さな石のようなもの――〈ソウルダイス〉をしまい込む信也。
ここはダンジョン入口付近にある"転移部屋"と呼ばれる巨大な空間。
その内部に設置された十二の迷宮碑のうちのひとつ、部屋入口から入ってすぐ目の前にある迷宮碑の近くだ。
信也のパーティーでは、石田と龍之介以外は初めてこの空間に訪れた事になる。
この壮大な空間は、静けさが際立ったようにも感じられ、温度的に低いという訳ではないのだが、なにか寒気のようなものをつい感じてしまう。
人によってはスピリチュアル的な何かを得られるような、そんな場所だった。
この転移部屋へとやってきた目的は、まず先ほど行っていた、パーティー編成済の〈ソウルダイス〉を嵌めこむことで、迷宮碑の場所登録をすること。
それから彼ら日本人に馴染みのある、部屋の中央の構造物について、実際にその目で確認するためだった。
「……ここだけ日本の一部を切り取ったようね」
何時にない神妙な顔つきでそう口にした長井は、一礼をしてから鳥居をくぐってみるも、特に何かしらの変化が訪れるといったことはない。
信也は鳥居の傍に設置されている台座が気になるようで、しきりにあちこち触れたりしているがやはりこちらも何の反応も返さない。
やはり、三か所の窪みに嵌めこむアイテムがないと、どうしようもなさそうだ。
龍之介は手水舎の水が気に入ったようで、既に〈魔法の小袋〉に入れていた泉の水を排出して入れ替えている。
各人、一頻り思い思いの行動を取った後は、本格的にダンジョンの攻略へと移ることになった。
おしゃべりな面子は、龍之介以外北条パーティーの方に偏る形になってはいたが、道中は転移部屋の事についての話などが、幾つか交わされる。
最近になって、信也はようやく石田が時折ブツブツ言っている事に気付いたようで、積極的に話しかけるようにしていた。
それまではただ無口なだけだと思っていたので、無理に話しかける事もなかったのだが、意見を求めた際などに小さな声で呟いているのが、微かに聞こえたのだ。
そうした信也の話しかけについて、常に陰気な表情を晒している石田が、どう思っているかまでは信也には分からなかったが、返事がポツポツ返ってきたりしていたので、今もなおその試みは続けられている。
もう一人の困りものであった長井はというと、龍之介とは相変わらず反りが合わず、ほとんど互いに会話を交わす事はないのだが、それ以外の数人とは時折一言二言会話をするような関係は築いていた。
そして、全員の決を採るような場面では、でしゃばるような真似をしなくなっている。
近頃では、以前ぶつかり合った事がある信也とも、会話を交わす機会が増えてきており、徐々に馴染んできているということだろうか。
「そっち行ったぞ!」
信也の警告の声に、長井は手にしたロングウィップを、巨大鼠の魔物であるジャンガリアンへと打ち込む。
このメンバーの中で、直接の戦闘経験が一番薄かった長井であるが、鞭を買ってからは一人で自主練はしていたようで、最低限味方に誤爆するような事にもならず、一階層の雑魚程度なら一対一で倒せる位の実力は既に持ち合わせていた。
「近寄るんじゃないわよっ!」
魔物の恐ろしさよりも、不衛生な生き物として名前が上がる筆頭候補。ネズミの不潔さを恐れるかのように、鞭を打ち付けていく長井。
その様子は気迫に満ちていて、まるで女王様のようだ。
「みなさん、ケガをしたら即座に教えてください、ねっ!」
そう言いながら、手にした鉄のメイスをジャンガリアンへと打ち付けるメアリー。
今回の戦闘では、メアリーも前衛として、そのいかついメイスを振るっていた。
ゲームの中の世界ならともかく、この世界は魔法などが存在するファンタジー世界ではあるが、今の彼らにとっては現実そのものだ。
後衛職であっても、最低限自分の身を守る程度の武力を身に着けておかないと、いざという時に致命傷になりかねない。
メアリーの近くでは石田も木の杖でもって、魔物を叩いたり突いたりして攻撃をしていた。
ダンジョンというものは、奥に潜れば潜るほど敵の強さも上昇していく。
なので、この辺りの浅い階層は、近接戦闘経験のない後衛職にとって、格好の訓練の場ともなる。
信也と龍之介は基本的に他のメンバーの補助へと周り、今は他の四人を主体とした、近接戦闘メインでの戦いを基本として、ダンジョンの探索を続けている。
「ふぅ、どうやらこれで全部みたいですね」
メアリーめがけて飛んできたケイブバットを、手にしたメイスで野球の選手のように吹き飛ばす。
ゴキィイン、と良い音を上げながらダンジョンの壁にぶち当たったケイブバットは、モノがつぶれるような不快な音を立てながら、壁に張り付いた。
確認するまでもなく、この一撃でとどめを刺したのは一目で分かるだろう。
「そ、そうみたいだな。じゃあドロップの回収をしようか」
そのインパクト抜群の光景を、頬をひくつかせながら見ていた信也は、慌てて仲間に指示を出す。
壁に張り付いていたケイブバットも、数秒後には光の粒子となって消えていき、コトンと床に魔石が落ちる音だけが残される。
壁に張り付いていたケイブバットの血も、全て消えてしまっていた。
冒険者のうち半数近くはダンジョン探索をメインにしているが、それにはこのダンジョンの魔物の特性も大きく関係している。
フィールドの魔物相手では、刃物で切り付ける度に、魔物の油などで切れ味が鈍っていってしまうし、返り血などで装備も汚れていってしまう。
しかしダンジョンの魔物の場合、倒すことで全てが光の粒子となって消えてしまう。
フィールドの魔物のように素材を全部入手できる訳ではないが、ダンジョンでは体の一部がドロップとして綺麗な状態で手に入る事もある。
どうしてもフィールドの魔物相手では倒す際に傷を与えてしまうので、採取した素材の質がどうしても下がってしまう。
だがダンジョンの魔物ドロップは、品質が安定していて、安定した値段で買い取ってもらえる。
無論ダンジョン探索にはダンジョン探索で、メリットだけでなくデメリットも存在する。
例えば、フィールドでは何者かが仕掛けない限り、罠が存在することは無いが、ダンジョン内では罠がしかけられている事がある。
信也達が三階層から脱出してくる際には、召喚罠部屋位しか罠らしい罠は存在してなかったが、奥に潜っていけばやがて出てくるであろうことは予測がつく。
「うっし、じゃーもういくかー」
戦闘にほぼ参加してなかった事で、暴れたりないといった様子の龍之介だったが、代わりにドロップ集めには積極的に手を出しており、彼なりにパーティーへと貢献をしていた。
こうして順調に先に進んで行った結果、信也達は二階層の途中にあった部屋でキャンプをすることになった。
前回のダンジョン脱出時とは異なり、人数も少ない上に、こちらのパーティーには"結界魔法"の使い手である陽子も存在しない。
魔物自体は、二階層では恐れるほどの相手は出てこないのだが、久々のダンジョンでの野営ということで、些か緊張した面持ちで一行は夜を迎えた。
最初の当直当番であった慶介は、水の滴る音や、時折遠くから聞こえてくる魔物の鳴き声らしきものに、ビクビクしながらじっと部屋の入口付近を見張っていた。
……どれくらいの時間が経過しただろうか。
不意に慶介の背後から忍び寄る影があった。
「う、うわあああ」
「何よ、失礼なガキね」
悪びれもせずそう言うと、距離を詰めて慶介の隣へと座り込む長井。
苦手意識があるせいか、単純に女性が傍にいるためなのか、慶介は落ち着かない様子で視線をあちこち移動させていて挙動不審だ。
「ちょっと、人と話すときは相手の目を見て話せって教わらなかったの?」
そういって更に慶介に顔を近づける長井。
しかしそれは初心な純情少年には逆効果だったようで、ますます長井から顔を背ける結果となってしまう。
「いえ、あの、その。僕は……」
しどろもどろな慶介の様子に、仕方ないと判断したのか、少し距離を取って座りなおした長井が告げる。
「そろそろ私との交代の時間よ。アンタはまだお子様なんだから、早く寝ておきなさい」
「は、はい。わかりました」
長井の言葉に素直に従った慶介は、部屋の奥の方へと引っ込み、外套を毛布のようにして床に横になると、すぐにも寝息を立て始めた。
その様子を見つめていた長井は、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「……まあ、あせる必要はないわね」
その呟きは、そこかしこから光るほの蒼い光に溶け込むようにして消えていった……。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる