どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
105 / 398
第五章

第90話 ダンジョントラップ

しおりを挟む

▽△▽△▽


 四階層へと降りた信也達は、そのまま探索を続けていたが、特にダンジョン内の見た目に変化はなく、相変わらず辺りは蒼い光に包まれていた。

 ただ、わずかにだが、湿度が少しずつ増してきているような気はしている。
 とはいえ、洞窟内に池や地底湖といったようなものは見当たらず、ダンジョン入口近くの転移部屋への分岐箇所にあった、水溜まり以上の大きな水辺は、まだ姿を見せていない。

 魔物の方は、ゴブリンが今の所多く出没していて、それも攻撃魔法ではなく、治癒魔法を使う杖持ちである、ケイブゴブリンプリーストも普通に出てくるようになっていた。

 けれどホブゴブリン系統はまだ出てきていないので、これくらいなら信也達でも十分対処の出来る相手だ。
 弓を使うゴブリンアーチャーらしき奴も、ちょろちょろと出てくるようになってきたが、初めからそういう奴がいると分かっていれば、そうそう不意打ちを食らう事もない。

 とはいえ正面切って弓を構えられて撃ってこられるというのは、銃器ほどではないにせよ、なかなかの恐怖を感じるものだ。
 はじめはその恐怖心が邪魔して、体も思うように動かなかったりしたのだが、実際に攻撃されてみると、意外と矢の動きが良く見えたり、回避しようとおもったら回避できたりして、段々と恐怖感が薄れて……というよりも慣れていった。

「最初はあせったもんだけど、実際攻撃食らってみても、そこまでやべーもんでもないな。これなら四階層もいけそうだぜ」

 幾ら注意しても、油断というものが内から湧き出して来るのを止められない龍之介に、周囲からの冷たい視線が集まる。

「な、なんだよ。ちゃんと周囲には気を使ってるぜ。さっきみてーなヘマはもう二度と……」


 カチッ。


 そこまで言いかけた所で、何かしらスイッチのようなものを踏む音が聞こえてくる。
 今のは何の音だ? と周囲を警戒する一行の中で、スイッチらしきものを踏んだ感触を直に味わっていた龍之介だけが、気まずそうな顔をしている。

「あ、あの、なんか踏んd」

 カランコロンカランコロンッ!

 途端木板を激しく打ち付けるような音が鳴り響く。

「な、こ、これは」

「……今のが罠、か。なるほど、なんか妙な違和感を感じてたと思ったけど、これが"罠感知"のスキルってことね」

 そう呟く長井の声は大きな音に遮られた他の人に届くことはない。
 
「みんな、戦闘準備だ。音を聞いてか罠の効果なのか分からないが、ゴブリンが近寄ってきてるぞ!」

 鳴子の罠の音に負けないような大声で、注意を呼び掛ける信也。
 見ると通路の先から人型の薄っすらとした影――恐らくはゴブリンと思われる魔物が接近してきていた。

「あの! う、うしろからも来てるみたいです!」

 最後衛を歩いていた慶介が、慌てた様子でそう報告してくる。
 ちらっと背後を振り返ってみると、前から迫って来るのより更に大勢のゴブリンが迫ってきているようだった。

「慶介君、後ろの奴はアレ・・で対処してくれ。遠距離攻撃に気を付けつつ十分引き付けてから撃つように。前の敵も同じように引き付けた後に、俺と石田でまず魔法による遠距離攻撃を加える。そこで相手の動きが止まるようなら俺と龍之介で左右に別れて突撃する。止まらずに突っ込んできたら、更に魔法攻撃を加えた後に、いつも通りに杖持ちなどの遠距離職を優先でいくぞ」

 状況をみて咄嗟に作戦を立てた信也は、迫りくる前方の敵に全神経を集中させ始める。
 他のメンバーも挟み撃ち、かつ敵の数も多いという事で、今までにない緊張の面持ちを隠せない。

 念のため戦いやすいように、信也は予め自分達のいる周辺の洞窟の壁に、【ライティング】の魔法をかけておく。

「ああ、そうだ。細川さんは漏れ逃しがあった際に備えて慶介君の傍で待機しつつ、必要が生じたら魔法で回復お願いします」

「はい、わかりました」

 こうして準備万端整った頃には、すでに大分ゴブリン達も大分接近していた。
 信也は作戦の中に組み込んでいなかったが、魔法の射程から少し外れたような場所からの、弓ゴブによる遠距離攻撃という方法で来られたら、信也の立てた作戦も一から破綻という憂き目になっていただろう。

 しかしダンジョンの魔物はフィールドの魔物と違い、本能なのか分からないが、とにかく侵入者に向かって襲いかかってくる。
 自分達が負けそうになっても最後の一体になるまで、だ。

 フィールドのゴブリンならば、もっと状況を考えて弓による先制攻撃をしてくる事もあったかもしれない。
 信也はその事まで考えて作戦を立案した訳でもなかったので、今回はたまたま上手くいったという結論になる。

 やがて十分引き付けたと判断した信也は、大分扱いにも慣れてきた【光弾】で、敵ゴブリンの中でも優先度の高い相手から着実に落としていく。
 その結果、信也、石田共に接敵までに二発ずつの魔法を叩き込むことに成功しており、魔法が命中したゴブリンはまだ死んではいないものの、戦線への即時復帰は厳しそうであった。

「よし、いくぜ!」

 その様子を見て龍之介が前にでる……直前に背後から強いプレッシャーを感じ、戦闘開始前だというのに一瞬チラッと背後を振り返ってしまう龍之介。

「いっけええええ!! 【ガルスバイン神撃剣】」

 苦しそうな表情を浮かべる慶介が放つとっておきのアレ・・……"ガルスバイン神撃剣"が、背後から迫りくるゴブリン達へと放たれる。
 その威力は相変わらず凄まじく、範囲内の敵をことごとく焼き尽くしていく。

 敵の固まっている場所などは、前にいるゴブリンから順番に焼かれていくので、後ろにいたゴブリン達は、若干長く生きながらえる事は出来た。
 しかし、前にいたゴブリンが焼き尽くされると、ほぼ同時に次のゴブリンへと破滅の光が迫っていく。

 とはいっても、慶介も長時間このビーム攻撃を放っていられる訳でもないので、後ろから襲ってきたゴブリンが全部縦一列に並んでいたとしたら、流石に全てのゴブリンを焼き尽くすことはできなかっただろう。

 しかし、フィールドのゴブリンと比べ、本能で動く傾向のあるダンジョン産のゴブリンに、そんな動きを期待できるはずもない。
 それでも、もっとランクの高いゴブリン種だったらもう少し戦術も考えてきたりするものだが……。

「慶介君、大丈夫? 【疲労回復】」

 背後から迫ってきたゴブリンを一層した慶介は、苦しそうに肩で息をしており、その様子を見たメアリーが"回復魔法"を行使する。
 【疲労回復】はケガを治す【癒しの光】とは異なり、単純に疲労だけを取り除く魔法だ。

 "神聖魔法"をはじめ、他の系統には治癒系の魔法は幾つか存在するが、疲労を取り除くような魔法は、"回復魔法"にしか存在しない。

「あ、ありがとう……ございます」

 メアリーの魔法を受けて、若干呼吸が楽になったようだったが、それでもまだ顔色は青いままの慶介。
 これまでも何度か【ガルスバイン神撃剣】を使ってきて判明した事なのだが、この強力なスキルを使う時の苦しさというのは、普通の痛みなどとは別種のものらしい。

 慶介自身"水魔法"を使っているので良く理解できるのだが、まずスキル発動にMPを使っている感覚が一切ない。
 それでいて、使用すると非常にきつい、命を削るような感覚すら感じるのだが、それらも【癒しの光】や【疲労回復】で完全に取り除ける訳でもない。

 救いなのは、レベルが上がった事と、スキルの経験を積んできているせいか、段々使用感覚が楽になってきていることだろう。
 今では少し休めば、すぐにでも魔法を撃って、戦線復帰できる位にはなっている。

 せっかくの"回復魔法"だというのに、眼の前で苦しんでいる相手を助けられない事に、もどかしさを感じながらも、メアリーは惨劇の後を確認する。
 敵が固まっていた場所には、幾つか肉片らしきものも散らばっていたが、それらもすぐに光の粒子へと変わりドロップへと変わっていった。

 その様子を見届けたメアリーは、反対側――信也達の戦っている方へと足を向けようとしたが、その足はすぐに止まってしまう。


「ふぃー、罠からの挟み撃ちとは参ったぜ」

 そこにはすでに信也達によって、何体ものゴブリンが屠られた後であり、未だ三体ばかり残っているゴブリンも、この様子だとすぐに片が付くだろう。
 特に大きなケガを負っている人がいない事をチェックしたメアリーは、その場で残りの戦闘を見守る事にする。

 彼ら自身の冒険者ランクはGランクであり、本来ならこの階層で出てくるゴブリン達とはいい勝負が出来る程度の位置づけである。
 しかし戦闘能力でいえば、すでに彼らはFランク級に達していた。

 ゴブリンメイジやゴブリンプリーストだけを見れば、Gランクの魔物となっているので、それを考慮すればこの結果にも納得のいくものであった。
 これがもう一つ上のランク……Fランクのホブゴブリンがメインとなって出てくる階層になれば、多勢に囲まれると危険な場面も出てくるかもしれない。

「ふぅ、どうにかなったな。じゃあ後は、何時も通りドロップの回収を済ませて……少し休憩も入れるか」

 龍之介のうっかりに翻弄されつつも、信也達『プラネットアース』は着々とダンジョンを攻略していた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...